似ている!? 9
部屋に飾ってあった、小さなぬいぐるみたちを二つの巾着袋につめ、ヒモを結んで、肩に掛けてあげれば、即席胸パッドの出来上がり。
私の見立てでは、ぬいぐるみが4つ必要だと思うのだけど、学君2つで十分って。
な、なんか、くやしい!!
ともあれ、私は学君の着ていた上着を着込み、下は、部屋着のデニムのまま。
部屋の中だけど、帽子を被った姿。
ニセの学君とニセのつかさちゃんが誕生。
早速、あれこれ実験してみなきゃね。
まずは、学君の姿で、郵便受けと新聞受けをのぞいてこよっと。
私、玄関に立って、ひとつ深呼吸。
そして、一気に玄関のドアを開いた。
うぉぉ! なんて、声が一瞬上がりかけたけど、すぐに、っちぇ! 野郎か! だなんて、声がチラホラ・・・・・・
郵便受けをのぞいて、新聞受けから、夕刊を引っ張り出しても、だれも、私だとは気がつかなかったみたい。
美少女つかさちゃんには、すごく興味があっても、しょっちゅう出入りしている親戚の少年の方には、男たち、興味なんてないのだねぇ。
それどころか、なんとなく、羨望というか、妬みというか、悪意のこもった視線が痛い・・・・・・
俺たちのつかさちゃんに、親戚だからって、気安く近づきやがって! ってな感じなのかな?
きっと、中には、そういう悪意を行動にうつすヘンなやからもいるだろうし、もしかして学君、私と付き合うだけで、結構大変な迷惑をかけているのかしら?
いつも変わらず優しい態度で接していてくれるけど、私、学君にとても感謝しなくちゃいけないのかもね。
学君、ありがとう!
でも、こんなこと、とても本人の前では言えないや。調子に乗りかねないしね。
無事、私が夕刊をもって、玄関に帰還すると、学君、ホッとした様子を見せた。
やっぱり、学君も心配だったみたい。
もちろん、今のが私の変装だと見破られやしないかだけでなく、ヘンな因縁をつけられたりしないか。
ドアの影で、いつでも飛び出せるように準備して、待っていてくれた。
「ただいま」
「おかえり」
私たち、にっこり微笑みあった。
う~ん・・・・・・
この目の前の天使みたいな心を蕩けさせるような笑顔。これが、私がいつもまわりに振りまいているエンジェルスマイルなのね。
なんで、男子たちが、この笑顔で目をハートにしてしまうのか、よく分かるような気がした。
私って、ほんとすごい!
いいえ、私の美人度って、とてつもなくすごい!
それから、私たち、部屋へもどるため、玄関からすぐの階段を上ろうとしたのだけど、一階奥の台所の方から、ママの声が。
「つかさ、ちょっとこっち来て、お料理手伝ってちょうだい!」
はーい、なんて返事をしたのだけど、なんかやだな、面倒くさい!
私、食べるのは大好きだけど、料理するのって、いまいち好きじゃない。
「ね、つかさちゃん? ママが呼んでるよ」
なんて、私の後ろから階段を上ろうとしている、ニセつかさちゃんに言ったりして。
「ああ!? いくらなんでも、バレるだろ?」
「どうだろう? ためしてみてもいいんじゃない?」
「ああ・・・・・・」
って、単に手伝うのが面倒くさかっただけなんておくびにも出さずに、学君の背中を押して、台所へ。
「手を洗って、菜っ葉刻んでくれる?」
「はーい」
って、返事をしたのは私だけど、台所の中へ入っていったのは、学君。
包丁を取り、シンクのまな板の上に菜っ葉を並べて・・・・・・
トントントントントン・・・・・・
は、はやーい! むちゃくちゃ上手!
「え? つかさ、どうしちゃったの? 急に上手になって」
ママも驚いちゃってるよ。
「熱でもあるの? 大丈夫、お医者さん行こうか?」
って、私どれだけ下手くそだと思われてたのよ! もう!
「え、えっと、その・・・・・・」
学君、どう返事をしていいかわからないみたい。でも、今、学君、声だしちゃったから、いくらなんでもママ気がつくでしょうに! もう! 考えなしなんだから!
「それになに? 私のウィッグ被っちゃって! 毛が入るから、料理のときは脱いでおきなさい」
って、声の違いはスルーかよ!
「料理をするときは、髪をくくっておくべきなのよ。分かった? つかさ! あんたもお嫁にいったら、ご飯の仕度とかするんだから、これからは気をつけなさい!」
「は、はい・・・・・・」
ママ、学君の返事に満足した表情で、お鍋の火加減を覗き込んでる。
ふふふ。
お嫁に行ったらって、その子の場合は、お嫁をもらったらなんだけど。
でも、ママ、本当に全然気がつかないみたい。
うう・・・・・・
それは、それで、傷ついちゃうなぁ。
結局、学君、晩ご飯の仕度全部手伝ってくれた。
いつもと違って、手際よく手伝う私に、ママすごく満足そう!
「うんうん、あんたもやればできるじゃない! さすが、ママの娘よね」
う~ん・・・・・・
なんか、複雑。
パパは今日も遅くなるって電話があったので、学君も晩ご飯を食べていくことに。
いくらなんでも、家の前を不審者よろしく、男たちがウロウロしている状況で、女二人きりなんて、学君もほっておけない。
そういうところは、頼りがいのあるいい男なんだよねぇ。
ホント、学君が私のいとこで幼馴染みで、よかった。
でも、ママは、結局、私たちがずっと入れ替わっていたの、全然気がついていなかったみたい。
「つかさんちのおばさん、結構、抜けてるとこあるよなぁ」
なんて、学君、それはちょっと失礼な言い草じゃないの? まがいなりにも、学君のおばさんでもあるのだし。とはいえ、それは的外れではないと私も思うのだけど・・・・・・