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約束 ~プロローグ~

作者の創作意欲を維持するためにも、感想・レビュー・評価等いただけると、ありがたいです♪


 その夜、少女はひとりベンチに腰掛けていた。

 学校の裏庭にある人気のないベンチ。

 すこし離れた校舎の方では、いよいよ開幕が明日に迫った文化祭の準備が、まだあちこちで行われている。

「あれがデネブ・アルタイル・ベガ」

 10月の星空を見上げ、星を適当に指差していく・・・・・・

 だれもいないはずの少女だけの空間。

 だが・・・・・・

 突然、背後で人の気配が動いた。

 すこしあきれたような声。

「ちょっといいか? あれは秋の四角形。ペガススの大四辺形ともいうね」

 少女は、その声に驚いて、振り返った。

 背の高い青年が一人立っていた。

「それに、夏の大三角は、今、西の空のはずだが?」

 少女が指していたのとは、まったく反対の上空を指差す。

「ついでに言うと、あっちの秋の四角形は、神様が天上から地上の様子をのぞくための窓として使われる場所だから、あの方向へ、なにかお願いすると、かなえてもらえるかもよ」

「そ、そうなの・・・・・・」

 このような人気のない場所に、見知らぬ男と二人きり。少女は立ち上がり、警戒心もあらわに、青年をにらむ。いつでも逃げ出せるように心の準備をしながら。

「ねぇ、君、今ヒマ?」

「・・・・・・」

「悪いけど、そのベンチ、そっち持ってくれない? こないだ、剪定に来た業者さんたちの邪魔にならないように、移動しておいたんだ。もう終わったみたいだし、元へ戻すの手伝ってくれる?」

 邪気の感じられない笑顔で、少女に笑いかけてきた。

 特に危険はなさそうだ。

 少女は、しぶしぶ自分がさっきまで座っていたベンチの端をつかんだ。

 青年は反対側にまわり、

 せーの!

 ベンチは軽々と持ち上がった。そして、青年の誘導のもと、太いツル植物が巻きついた大きな植物棚の下に設置しなおされた。

「ありがとう。たすかったよ」

「い、いえ・・・・・・」

 月明かりに照らされて浮かび上がっている青年の顔は、さわやかな笑みであふれていた。

 そのとき、人生で初めて、少女は、異性の笑顔を素敵だと思った。

 自然と、少女の顔にも笑顔がこぼれた。

「ねぇ、これ春になったら、すごく綺麗に咲くって知ってる?」

 青年は、地面から生え、頭上の大きな植物棚に巻きついている太いツルを叩いた。

「今年の春、はじめて観たけど、花がいくつも垂れ下がって、紫色が鮮やかで、そこはかとなく甘い香りがして、すごく綺麗なんだよなぁ」

「そ、そうなんですか?」

「ああ、来年は、だれか素敵な人と一緒に見れたらいいな、なんて・・・・・・ 君も、彼氏がいたら、一緒に観に来るといいよ。きっと幸せな気分になれるから」

「え? あ、わ、私、彼氏なんていません!」

 思ったより、つよい声。

「えぇ? そうなの? 俺も、彼女いないし・・・・・・ そうだ、もし来年の春、コイツが満開になったときに、俺も君も恋人ができなかったら、一緒に観にこない?」

「えっ?」

 ヘンなナンパだ。でも、全然いやな感じはしない。

 少女は恥ずかしげに目を伏せながら、小さくうなずく。

「おっ! ホント! やった! じゃ、約束だよ! 来年の春、ここで、この場所で」

 少女は青年の誘いにコクリとうなずいた。

 その端正な顔を真っ赤に染めながら・・・・・・


もともとブログで掲載している作品です。

加筆・訂正の上で、こちらへ移植します。


くまのすけの小説ブログ『恋とか、愛とか、その他もろもろ・・・・・・』: http://loveetc.seesaa.net/


作品ページ『さくらヶ丘恋物語2 ≪藤≫ 目次』:http://loveetc.seesaa.net/article/135908243.html

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