5.モノクロの世界で、未来を見る
比較的新しい建物が立ち並ぶ住宅街。
街の中心より少し外れたこの辺りは、夜が更ける前から既にしんと静まりかえっていた。
そんな中を一人歩いているのは、夜道でも明るく目立つ桃色の髪。
魔獣討伐後の片付けまで終えてきたリズが、アパートへ入っていく。
ガチャン。
ドアの閉まる音を背に、その場でうずくまる。
普段と違う、暗い目をしたリズの頭の中には、数時間ほど前にスピロから言われた言葉がぐるぐると回っていた。
(あなたの親友のように、か……いっそそうなれたら良いのかもしない。けれど絶対に自分から魔獣を頼るようなことは絶対にしたくない……いや、できない)
うずくまったまま天を仰ぎ、当たり前に室内からは見えない空に手を伸ばした。
(戦いの中で魔獣にやられて、‘‘あなたのように魔獣に近い存在‘’になれたら良いかも、なんてどこか思っている自分がいる)
そんな考えを持っている自分に嫌気がさしていた。
髪の毛をぐしゃぐしゃと掴んで、フッと笑う。
その笑いは、自分への嘲笑。
「……なのに、あなたのしていることは理解できなくてずっとずっと腹立たしい」
立ち上がり、部屋の中へと入っていく。
(色なんて私が教えてあげるから、ただずっと生きてくれたら良いのに)
――私の願いは届かない、モノクロの世界で生きるあなたに。
***
「リズ、おはよう。今日も来てくれたんだ、昨日は大変だったんじゃないかと思ってたけど」
僕の唯一の友人は、昨日魔獣の討伐に出動していた。
魔獣の情報について知らせるラジオが、とても大きな魔獣の出没と街への被害について長々と語っていたので討伐隊は大変だっただろうと思っていた。
いつも通り来てくれた彼女を嬉しく思うが、その表情は普段に比べると硬いようにも見える。
「おはよう、ヴィス」
「やっぱりちょっと疲れてる?」
常に元気過ぎるくらの彼女には珍しいと思った。少しリズと親しいだけの人では気付かないだろう、それくらい些細な違いだ。
そんな僕の問いに、彼女はフッと口元を緩めただけだった。
そしていつものように僕が座るベッドを通り越して窓辺に向かった。
少しだけ目を伏せて、それでもしっかりと前を見て。
お互い無言なまま、窓辺の椅子に腰をかけた彼女の横顔を眺めているとほんの少しだけ目元が赤くなっていることに気付いた。
「……何かあったの?」
触れない方が良いのかもしれない。なんて考えは僕にはない。
リズによく言われる「女心がわからない」という部分はここなのだろう。
だがリズからはそんないつもの戯れはもちろん、質問の返答すらなかった。
明るい感情はよく出すくせに、暗い感情は見せない。
彼女の強さと言えばそうだが、友人の僕からするとただただ意地を張っているように見えることもある。
「……リズ」
「そういうヴィスもさ、何があったか知らないけれど疲れているように見えるわよ」
「……っ」
催促するように名前を呼ぶと、痛いとこをつかれた。
あぁ、彼女には敵わないな。
「……少しね、調子が落ちてきてるんだ。まぁいつもムラはあるから、知っての通りよくあることだよ」
無意識に自分の手を見つめて、落としていた視線を窓に向けると、リズもやっとこちらを向いてくれてしっかりとお互いを見つめ合った。
「……コホ、気付かれないかと思ったんだけどな」
「顔色が悪いし、そうやって咳き込むのも我慢してたわよね」
「はは、リズはすごいなぁ」
そう言って笑って、傍にある水の入ったコップに手を伸ばす。
――なんだかいつもより美味しく感じるな……。
彼女はそんな僕を見つめたまま、やはり硬い表情を崩さなかった。




