3.モノクロの世界で、夢を見る
母の体からこの世に産まれ落ちて、僕は一度も‘’色‘’を見たことがなかった。
僕の目に見えるのは全てがモノクロの世界。
濃い、薄い、の濃淡が見えるだけだった。
そんな僕を見て「不幸の子だ」と母は家を出て行った。
父は母を追いかけることもせず、ただ義務のように淡々と僕を育ててくれた。
父の気持ちは何もわからない。ここまで育ててくれたのも、どうしてなのかわからない。
いつだって父には愛情がなかった。
ただただ、優しかったのだと思う。
母親に捨てられた可哀想な僕を、「父親」という責任で捨てられなかった。
そんな父も早々に空へと旅立ち、僕は一人になったと同時にこの場所へ来た。
一応表向きはこの街一番の大病院だ。
表向き、というのが何故か。
それは裏で魔獣を使った薬の研究をしているからだ。
元々入院を繰り返していたが、今は魔獣の薬を飲んでいる実験対象としてこの場所で生活している。
魔獣の薬を飲むことは怖い。
飲んだ瞬間は耐えかねない激痛が走る。飲んだ後は得体の知れない何かが体を這い回るような感覚もある。
それでも、それでも僕はこの薬を……。
あぁ、暗い何かが自分を覆い、隠していく。
「……っは、はぁ、はぁ」
何か恐ろしい夢を見ていた気がする。
荒い息を整えながらベッドから起き上がり、僕はカーテンを開けた。
朝も、昼も、夜も、何も変わらないけれど、雨上がりの分厚い雲からチラリと見えた月の存在が夜だと教えてくれる。
何も恐ろしいことなんてないはずなのに。
このままずっと色を見ることができないことよりも。
「……それなのに、震えが止まらないなんて」
自分の震える手を見て、フッと笑った。




