2.モノクロの世界で、君と話す
広く寂しい病室の、ベッドの上で体を起こす。
横を向いて窓から外を見れば、冷たい風が地面の落ち葉を舞い踊らせていた。
そのまましばらく眺めていると
「ヴィス」
扉の方から名を呼ばれて、窓からそちらに顔を向ける。
ほぼ毎日見舞いに来てくれるたった一人の僕の友人。
「リズ」
僕も名前を呼んで微笑むと、彼女は目を細めて笑った。
気の強さを感じさせる顔立ちだが、笑うと少女のようなあどけなさがある。
扉から僕の方に歩いてきてベッド横の椅子に腰掛ける。
肩にかかる髪の毛をサラッと横に流して、僕が眺めていた窓をチラッと見た後視線をこちらに戻した。
「今日は天気が悪いわ」
雨が降るかもね、と続けながらもう一度髪の毛をいじる。
雨が降ると毛先がくるくるして不快なのだと前に彼女は話していた。
「風が強いからそうかな、と思ってた。きっと雨も降るだろうね」
僕がフッと笑いながら言うと、彼女は少し頬を膨らませる。
「あなたは元々癖毛だからいいのよ。私のこの綺麗で艶もある真っ直ぐな髪の毛は雨の湿気でぼわぼわのくるくる!」
「……ぼわぼわのくるくるはまだ伝わるけど、綺麗で艶もあるって部分は雨とは関係ないんじゃないかな」
僕がそう返すと彼女は更に頬を膨らませた。
が、すぐにハァとため息をつく。
「ほんっとにあんたって女心がわからない……」
呆れた様子に僕はクスッと笑う。
「いつものことなんだから慣れてよ」
彼女はまたため息をついた。
すっかり拗ねた様子の彼女を横目に、僕はもう一度窓に視線を戻した。
先程よりも強くなった風が木々を揺らしている。
空に目を向けて彼女に尋ねる。
「リズ、今日の空はどんな色をしているの?」
横でブツブツと言っていた彼女は、僕の問いに口を閉じてスッと立ち上がり窓辺に向かう。
そんな彼女を見ながら僕は続ける。
「天気が悪いってことは僕の目に映るままの灰色なのかな。それとも青色は残ってる?」
「青色はもう残ってない。黒に近い灰色だけ。雨雲ね、きっとひどくなるわ」
空を見上げながら、彼女はそう答えてくれた。
また言葉を続けようと僕が口を開いた時、街のサイレンが鳴り始めた。
危機を煽るような不快な音。
音と共に始まるアナウンス。
『(ザ……ザッー)緊急、緊急。エベジア地区にB型魔獣発生。討伐軍・シアン部隊、マゼンタ部隊は直ちに現場へ向かえ』
アナウンスが終わり、渋い顔をしたリズが窓辺から離れる。
「……ちょっと行ってくるわ」
そう、彼女はこの国の軍服を身につけている。
この国、この街に出現する魔獣を殺す――『国家直属魔獣討伐軍隊・ブロージアム軍』部隊マゼンタの隊長だ。
「大変だね、いつも」
目の前を通り過ぎて、扉へ向かうリズに声をかける。
彼女はこちらを向くことなく、
「仕事だもの。……それにしても最近は多い気がするわ」
ため息をつきながら答えた。
「じゃあ……行ってくるわね」
「うん、気をつけて」
最後に少し顔を向けてくれた大切な友人を、笑顔で見送る。
ポツポツと音が聞こえてくる。雨が降り始めたようだ。
窓は開いたまま。
強まる雨音に紛れるように。
「……君に恨まれようとも、僕は僕の夢を」




