3.過去の縁
明けましておめでとう御座います。
あと今までに出てきませんでしたが主人公の名前は天野です。
だんだん暑さを取り戻してきた春真っ只中の日曜日。
アオはぐっすり寝ている少女を起こさないようゆっくりとベッドから浮き上がった。
隣ですぴーすぴー、と寝息を立てている少女の肩ほどまである白髪が、乱雑に広がっている様子を見て、直したい欲求に駆られるが、自分の体がスマホであることを思い出して断念する。
ロボット三原則によって人間に危害を加える可能性があることは制限されているのだ。裏道がないわけでもないが、そこまでするほどではないだろう、と判断して写真を撮るだけに留める。
朝の日差しに照らされながらも眠ったままの美しい少女。それはまるで白雪姫のように、永遠に目覚めないのではないか、と危惧するほどの神秘性があった。
自分が撮った写真に満足したアオは、シャーペンを念動で動かして机の上に書き置きを残す。自分が帰ってきた時の顔を思い浮かべながら空へ飛び上がっていった。
『しばらく出かけます。お土産は期待していいですよ!』
数時間時が経ち、やっと少女はモゾモゾとベッドから動き出した。
手探りでスマホを取ろうとするが見つからず、寝坊の代償として抱えたぼんやりとした頭痛に耐えながら、とろんと眠気の残った声で今何時?、と虚空に呼びかけるも返事はない。
いらいらしてスマホを探すためにベッドをひっくり返して探す間、少女は机の上の置き書きには気づかなかった……
朝のスマホ大捜索により、完全に目が覚めると少女は悩みだした。いつもならば朝起きた後はアオと話し合ってやることを決めていたのだが、アオがいなくなった今相談もできないし、スマホも使えないのだ。ニートにとって必須品が使えなくなった今、暇だ。
せめて今日の分のねっこ大戦争のログインぐらいさせてから出ていくのでも良かったのに。
少しアオへの不満を募らせながら周りを見渡すと読み古したラノベや漫画が積み上げてある。とてもじゃないがまた読む気にはならない。
仕方ない。少女は新刊を求めに外出することを決めた。最近、毎日学校に通っていたことが嘘のように体が動かなくなっている。これは由々しき事態だ。
朝食をバターを塗った食パンと、甘い砂糖味にしたスクランブルエッグで済ませ、歯磨きをし、適当な服を着るとサボり心を抑えて本屋へと出発した。
本屋はいつ来ても楽しい。自分では想像もつかないような世界が待っているのだ。
ふと一時代前の作品が置いてある欄の本に惹かれて、手に取ってみる。
現代の勇者として選ばれた普通の少年が地球を侵略しようとする敵と戦う、という作品だ。
今となっては王道のストーリーだな、と思う。自分と大して変わらないような少年が唐突に力を得て、その力に驕り、怯えながらも突如現れた絶対的な悪である敵に奮うことで英雄となる。
小学生の頃は自分と重ねて妄想したりしていたっけ。そんな都合よく自分の存在意義が目の前に示されることなんてないというのに。
ため息を吐き、本を戻して面白そうな作品を物色し始めたのであった……
「これ下さい!あと付録の書き下ろしはメールちゃんで!あ、白髪の女の子なんですけど、」
「はい、かしこまりました。お会計3700円になります」
捲し立てる俺に、店員さんは優しそうな表情で対応してくれた。これもこの体が可愛いからこそだな。
いつも愛用しているキーホルダー付きのの財布で買い物をし、店を出て正気に帰ると、思わず頭を抱えた。
ついつい買い過ぎてしまった……
いつもはBook ofで一冊百円のラノベを買い漁っているのだが、新刊や人気の作品などはなかなか置いてないことがある。それを買いに来たはずが、気づけば表紙に一目惚れした本達をレジに持っていっていたのだ。
「いや……大丈夫。冷静に考えればこの本達を読んでる間食事は取らなくてもいいから……四食分の時間読めばお得。うん、間違いない……」
そう自己弁護しながらも苦しんでいる時に、急に肩を叩かれる。
「ちょっと話を聞いてもいいかな?天野さん?」
そこに立っていたのは、高校に行っていた時のクラス級長であり、同じテニス部だった佐々木達也だった……
読んで頂きありがとうございます。そしてブックマークしてくださった方には本当に感謝しています!
一人称や三人称の書き方を練習しているところなので、文章に違和感があったりしたらアドバイス付きで感想頂けるととても助かります。
相変わらず更新は不定期です。