1.合法的?な金稼ぎ
タッタッタッタッ
しきりに後ろを確認しながら暗い小道を迷いのない足取りで駆け抜ける。何度も通ったことがあるからこそ、この狭く、入り組んでいる、道とも言えない隙間を通ればどんな奴からも逃げ切れるという自信があった。
だったらこの耳に響く足音は何なのだろう。
「何なんだよ、あいつは!」
俺と一定の距離を保って均等についてくる足音は、俺の心を恐怖で染め上げてくる。自分は得体の知れないものに目をつけられてしまったのかもしれない。だが足を止めるわけにはいかない。
焦りと、不安と、恐怖で、転びそうになりながらもなんとか目的の場所に辿り着き、叫ぶ。
「今だ!やれ!」
俺を追っている奴の後ろへ、あらかじめ準備していた仲間が身を踊らせ、バットを振りおろす。
出来るならば殺しはしたくないが仕方ない……
ドサ、という人の倒れる音を聞き安心して振り向くと、そこには信じられない光景が広がっていた。
自分より幾分も体が大きい男を足蹴にして、美しい少女がぼんやりと光っている蛍光灯を背に佇んでいる。
長年一緒だった仲間が倒れてピクリとも動かないのを見て、目を見開いた俺に少女がターゲットを向けるのを感じる。
ああ、最後に少女の顔をはっきり見たいなーなんて現実逃避をしながら、俺の意識も闇へ堕ちていった……
◇ ◇ ◇
『どうします?殺しますか?個人的には美少女にバットで殴りかかった時点で死刑ですけどね』
「別に危害は加わってないから。たまたま空き巣を見つけただけだし、貰うものもらってさっさと退散しよう」
『美少女ってとこは否定しないんですね…』
「作り物だとしてもそれは本当だから」
男達のリュックを漁り、奪っていたものと財布の中身をごっそり抜き取りながら答える。
思ったより空き巣の被害者が多かったみたいで収穫が多い。ホクホク顔で他人の物を漁っている美少女は、実は元男だ。
なんでこんな事態になっているかというと……特に深い事情があるわけでもなく、突然になった。
元々、美少女になって皆んなにチヤホヤされる想像しながら家で自堕落な生活をして〜、ついでに魔法も使いて〜、とかはずっと考えていたが、模範的な高校生として生きていたはずだ。
ちょっとこの姿になった直前の記憶がないのが怖いが、目覚めたら美少女だし魔法は使えるし、スマホには変なアプリがダウンロードされている。まあだいたい夢が叶ったのでよしとしよう。
急に喋り出したスマホも、話し相手ができたと思えばラッキーなのかもしれない。ちなみにアオと名付けた。理由は俺のスマホカバーが青いから。
この歳になってスマホに語りかける変人になってしまうとは……あと2年ほど早ければまだ言い訳できただろうに。
『人のピアスまで取ります?なかなか欲張りですね……』
「当たり前。こんなに堂々とお金を取れるなんて滅多にないから、魔法で綺麗にすれば未使用として売れるからね」
『魔法は盗品を綺麗にするためのものだった!?』
新事実を学んで愕然としているアオを尻目に強奪したものを取り終えて事後処理を済ましておく。
「この体になっていいことの一つは警察にびくつかなくてもいいことだね。指紋とかが万が一バレてもデータベースに存在してないってのは、余り実感してなかったけど幸せなんだよ」
『もしかして犯罪歴ありました!?私は危ない人の元に送られたのかもしれません…どうか私だけは食べないでください!』
「そんなわけないよね。財布届けただけだよ。そしたら手続きに必要だとか言われて、なんだかんだ押し切られて指紋まで取られた。そこからは迂闊に犯罪できなかったよ。」
『善人が損をする世の中ですね^_^』
「全くだよ」
『あなたが善人とは言ってませんけどね』
うちのアオはなかなか素直じゃない。
『それよりもう夜遅いですよ?早く自宅に帰りましょう!』
「そうだね。お小遣いもゲットしたし、次は新しい魔法が欲しいなぁ。一々追いかけるのが面倒くさくなってきた」
『段々普通のことすらサボりはじめましたね、魔法は全てを解決できる物ではないんですけど……』
俺は気分良く暖かい夜風に揺られながら、家へと歩いて行った……
『流石に今回空き巣されたとこの分は元の家に返してくださいね?』
「……」
のんびり思いつくままに書いていく予定です。