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生贄を捧げ知遇を得る

 「よしよし!そうだ!でかしたぞ!褒めてやる!」

宮崎教授こと、宮崎技術中将はご機嫌だった。犬萩・犬樫の頭を撫でて豪快に笑う。

「宮崎君。そりゃ確かに成果には違いないけど、肝心の本丸には届いてないんだぜ?」

総白髪で柔和な顔つきの老人は、宮崎に対して不満げに言う。

「まあそう言わないでよ、石原さん。取りあえず狼煙を上げろと命令した訳だからさあ。まずは喜ぶべきじゃないですかね?」

宮崎は愛想笑いを浮かべる。

「そうだよ兄貴。部下が成果を上げたら一緒に喜んで、褒めてやるべきだぜ。何だ嬉しくないのかよ?」

「石原さん」と全く同じ顔の男が窘める。

「嬉しくないとは言ってない」

「だよな。一緒に酒飲んでいるんだし」

石原兄弟(間違いなく双子だろう)は笑う。

「しかし君は仕事が速いな。気に入ったよ」

宮崎は笑う。こちらはごま塩頭に分厚いレンズの眼鏡を掛けた、如何にも学者といった雰囲気の老人。

「ありがとうございます」

礼を述べると、石原兄弟の兄の方から今回の件の感想が述べられた。

「うん、良くまとまった報告書だ。結構きつく締めあげてやったのだろう?良く認めさせたものだよ。お前さんの仕事か?」

「いえ、部下の功績です。二神隊の鈴木中尉が任せて欲しいというので、私は鈴木が尋問するところを見ていただけです」

石原は苦笑する。

「素直だな、お前さん。普通こういう時は自分の手柄だってアピールするもんだがな」

「そうでしょうか?ありのままの事実を述べるべきだと私は思いますので」

「なるほど」

石原兄弟は頷く。

「ま、何にせよ憎たらしい奴の手足の指一本分はなくなった。そう解釈しても良いな。実に目出度いことだよ。それにお前は信用できる。別役よりも使えそうだ」

石原兄弟の、こちらは弟の方は俺の目を見てこう言って来た。

「玉よ。使えるって言い方もどうなんだ?」

「兄貴。俺は褒めているんだよ。役に立っている、それを端的に表現しただけだろ?」

石原弟は銚子を兄の杯へ向かって傾ける。

「それもそうか」

石原兄はそれを飲み干し俺に向かって、

「お前さんも一献やるか?」

と持ち掛けてきた。

「兄貴!そいつは向精神薬服用しているんだ。酒は禁物だぞ!」

「おっといけねえ。そうだった」

石原兄はバツの悪そうな顔で、

「悪かったな。まあ俺の気持ちだけ受け取ってくれや」

と言って来た。

「あ、いいえ、そのうお気遣いいただきありがとうございます」

頭を下げつつ、いつここから解放されるのかとぼんやりと思った。

 この会話の間に宮崎は、犬萩を給湯室へ走らせ熱燗を持ってこさせた。

「さ、石原さん。こいつで今晩は終わりといこうぜ」

「そうするか。また明日も作業だからなあ」

石原兄はポカンと口を開け虚空を見つめる。そして犬萩と犬樫をしげしげと見つめる。

「まあまあ良い塩梅だよなあ、玉よ」

「何言ってんだよ、兄貴。俺たちの目指す『究極の幼女』には程遠いぜ?」

そこへ宮崎は口を挟む。

「いやいや、これで完成でしょ。違いますか?民生品はバカ売れなんですよ?やっぱりね、小学生が最高なんですよ、お二方!」

そして笑うのだ。犬萩と犬樫は意味が分かっているのか、いないのか、にこやかに微笑んでいる。

 何という事だろうか。後で分かったことだが、この3人以外の開発チームのメンバーも重度のペドフィリアばかりだった。自分たちの悲願と言えばそうだが、実際の所欲望にまみれた目標を掲げていたのだ。俺にとってそれは知ったことでは無いが。

 しかし考えたものだ。自分たちの悲願成就のために軍部と検非違使庁、おまけに刑部省を利用するとは。潤沢な研究開発資金と設備。この研究所からしてそうだ。2階建ての張りぼての庁舎は有るが、それは倉庫と会議室として使われているだけ。真の姿は地下5階以下にある。そこへ招かれたのは、実証実験中の新型を破損させた島田を「始末」したからだ。

 逮捕するまでの道のりは簡単極まりなかった。街中に仕掛けられた防犯カメラは「対象者」の足取りをきっちりと追える高性能なものだ。ホテルの車寄せでタクシーを拾い、大阪放送局へ向かったことはあっさりと特定され、すぐに身柄は押さえられた。そこからは鈴木の独壇場。尋問というものがどういうものか、或いはこの時初めて教わったのかもしれない。石原が褒めた「良くまとまった報告書」の裏に有るもの。それは筆舌に尽くしがたい。しかし、そのおかげで俺は研究所の上層部の信頼を得られた。それがかけがえのないものか?それは俺には分からない。

 

 

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