処刑計画に参加せよ!
少しうたた寝をしていたようだ。もう定時終了間際。直前まで「ルーピーズ」がモーツァルトの弦楽四重奏曲を演奏していた夢を見ていた。その余韻があって頭の中をぐるぐると旋律がこだましている。さて何をしなきゃいけないのかな?ああそうだ。まずは定例会議だな。それから後に静と連絡を取らないと。確か「お掃除」を行う際に、弱みを握るべき輩とはホテルの一室を強襲するなどして、言い訳の利かない状況にするのだということを思い出したのだ。年端もいかない少女とホテルの一室で裸になっていれば、それで有罪成立だからな。本当にセックスなどさせない。何故ならマルゴはコスト削減のために、首から上と手首から先のみ人間と同じようにしているが、それ以外は全てシリコンで覆っているだけだからだ。脱いでしまったら女性型アンドロイドであることがモロばれなのだ。
しかしマルロクこと鎌倉静はそうではない。やろうと思えばやれる。そう言えば俺もメイドさんとして潜入していた時に、下衆な輩であることが丸わかりの連中相手に、具合が良いと言われているから試してみるかなどと、下卑た冗談を言って笑っていた。その内の3人を処したことは報告書で分かっている。実際はさせていない。ママの居ない時間帯に市営住宅の一室へ誘い込んで、そのまま「行方不明」になっている。今度もそんな感じにしてみようか?
それで定例会議が終了した後で静に電話してみると、大層喜んだ。
「いやあ、感激ですねえ少佐殿からお電話いただけるなんて!やっぱりあれですか?あの人では頼りにならないから、私を頼って来たんでしょう?ねえ、そうですよね?いやあ、感激です。本当ですよ?さて、早速ご用件を承りましょうか?私のママ役を引き受けてくれるなら、『お掃除』が迅速に進みますから、それを引き受けてくれるなら、何でもしますよ?」
有頂天のようだ。そこへ水を差すのはどうかと思うが、止むを得ない。
「あなたねえ、死んだふりと言うか完全に機能停止することが出来る?」
「ええ・・・何ですかそれ・・・」
明らかにテンションが下がってしまったようだ。だがそんなことは関係ない。
「出来るか、出来ないか?聞いているのはそこよ?それと、その状態から自力で機能回復できる?」
むすっとしているのだろう。回答には間が有った。
「出来ますよ。それがどうかしましたか?」
「島田金助中佐を処刑する。そのための囮にあなたを使う。それだけのことよ」
吹き出す音が聞こえた。
「何言っているんですか⁈マジですか⁈」
「マジだけど?」
「どうしてそうなるんですか⁈理由を聞かせて下さい!」
「研究所の宮崎教授が舛添少将とやらを処したい。そのための狼煙としてまずは島田の奴を血祭りに上げろと命令してきたの。まあ、私にとっても邪魔だからね。この際消えてもらう事にしたの」
絶句したらしい。しかしすぐに弾んだ声が帰って来た。
「うわあ、見直しましたよ少佐!メイクをするのも面倒ってぐらい無気力で、覇気の無い人だと思っていましたけど、やりますねえ。そう来なくっちゃ。やっぱり謀略を巡らす時ほど楽しいことって無いですよね!ムカつく奴相手なら尚更!何だか楽しくなってきました!」
きゃあきゃあとはしゃいでいる。微笑ましい。そういうお年頃という年齢設定になっているのだから。それはそうとして、ムカつくことも列挙していやがったな、このアマ!
「楽しいのは結構だけれど一つ言っておくわ。裏切らないでね」
ちょっとすごんでみた。声色を低くする。
「島田の奴は当然として、第3連隊とか他の者に漏らさないようにね。言っておくけれど情報が洩れたら、あなたが漏らしたとみなすわよ?」
ひえっと悲鳴が聞こえた。
「そ、そんな酷いです~この私を信頼してくださいよ~」
「どうやって?この前、無理やりメイドをさせられたことを忘れろとでも?」
「ええ、そんな・・・無理やりだなんて・・・。私そんなことしていませんよ。信じて下さい」
涙声になっていた。
「お芝居はやめなさい。声色を変えるのも自由自在なのでしょう?ふざけないで真剣に聞きなさい。今晩作戦会議を催すから、官舎まで来なさい。良いわね?」
返事は聞かずに電話を切った。来なければそれはそれで処罰すれば済むことだ。
処刑する際は俺も一緒にしようと決めた。マルロクと一緒にお詫びのために一席設けたと言えば、喜び勇んで駆けつけて来るだろう。鼻の下を伸ばしている内に睡眠薬入りの酒に酔わせ、ホテルの部屋に連れ込んでしまえば良い。後は密室の中でマルロクが死んでいるように見せかければ十分だ。完全に機能が停止してしまえば死んでいる様にしか見えない。後はその現場を抑えればOK。どうとでも料理できる。待っていろよ。俺の中にどす黒い情念が芽生えた。それは止めることが出来ない。俺が悪い訳じゃない。ふんぞり返って下の者を圧迫する貴様が悪いのだ。
そして、そんな奴の後ろ盾になっている奴らもじわじわいたぶるか、それとも一気呵成に始末してしまおうか?憲兵隊に嗅ぎつけられると不味いが、あんな奴らが好かれているはずが無い。どんな手段を使っているかは定かではないが、どうせ地位とそれに付随する権限を使って黙らせているだけだろう。何かとんでもないことを仕出かせば、かばい立てするものは居ない。そのはずだ。楽観は禁物だがやってやる。これは部下を守る行為でもあるんだ。何も遠慮する必要などない。待っていろよ豚共。そっ首を刎ねてやるから、首を洗って待っていろ!




