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技師とあの男との邂逅

 地下5階に降りて指定された会議室へ向かう途中で、巴達と合流した。会議室に入ると白衣を着た男たちが5人、タブレットを手に何か打ち合わせをしているようだった。

「古田はん、連れて来ましたで」

巴が声を掛けると、背を向けていた男がこちらを振り返った。

「ああ、失礼しました。技術少佐の古田と申します。有給取得しておられるのに、お呼び立てするような真似をしまして。勘弁してくださいね。中途半端な時期に色々なことを調整するあれこれがありまして、時間が足りないのですよ」

古田は、何度か頭を下げ釈明した。俺としては敬礼する気を逸することになってしまった。ただ、顔を上げた古田は、

「あ、敬礼は抜きでいきましょう。僕らは技術屋ですから」

「あのう、ですが、古田技術少佐ご自身はそれで良くても立場上は不味いのでは?」

俺は古田の顔をまじまじと見つめ、部屋の中の他の技官を見た。古田は苦笑しながら、

「その辺は融通をきかせれば良いじゃありませんか。同じ階級ですし」

背筋がぞくっとした。巴の方を向き、

「こら!木曾川!古田技術少佐に何故気安い口をきいているの!」

と苦言を呈するが巴はぽかんとしている。

「はあ、そんなこと言われましても古田はんの方から、それでかまへんって言われてまっせ?」

今度は古田の方を振り向くと、先ほどと同じような表情を浮かべていた。

「さっき申し上げた通り、僕らは技術屋なんです。このバッジは便宜上付いているようなものですから」

確かに古田の風貌は技術者のそれであった。50歳前後で中肉中背、やや腫れぼったい顔に分厚いレンズの眼鏡をかけていて、白髪が目立ち始めている頭髪には寝癖がついたままだ。

「ですので、少なくともここに居る、第13独立機械化実証実験大隊付きの5名については、そんな感じで構いません。なあ、長谷川君」

「ええ、OKですよ六塚少佐。お互いその方が楽でしょう」

こちらの長谷川は、古田より若干若いようだ。何かスポーツでもしているのだろう。引き締まった細身の体をしていて、爽やかな笑顔を返してきた。

 他の3名、佐々木・鈴木両技術大尉、竹原技術中尉とも挨拶し、ブリーフィングを受けることに。古田以外の4名はそれぞれ持ち場に戻って行った。説明は古田が行うことに。

「今般運用するGR06については、ご覧のような仕様になっています」

プロジェクターに映し出されたのは、静の全身像を始めとする様々なデータだった。

「このように、GR05と比較すると大幅な性能の向上が達成されていることが、確認いただけるかと。しかしながら」

古田は手元のタブレットを操作する。

「GR04と比較すると、優位に立っている部分は性能面では少ないことが確認いただけるかと思います」

画面は切り替わり、巴との比較数値が表示されていた。巴はこちらの袖を引きウインクしてきた。自分の方が優秀だと言われていると解釈して、アピールしているのだろう。

「ですが大幅に小型化された上に製作費用が下がりました。このことにより現時点においても、試作されたことに大きな意義があると言えます。その意義についてどこまで訴求できるか?それが今般行われる実証実験の目的でして、その点について改めてご理解いただければ幸いです」

古田は俺が頷いたのを確認すると話を続ける。

「GR05は、GR04が高コストであったことの反動で、コストカットが最優先となっています。そのせいで、作戦遂行に当たっての能力が若干不足している感が否めない。何せ民生品であるメイドロボットの軍事転用ですから。それ故、技術的な進歩により性能向上した新型が求められていたわけですが、その際に要求されるのはGR04のような高い戦闘能力ではなく、くノ一的な敵を誑かし罠に嵌めて利用することを可能とする能力だろうと。そのような結論に到達したわけです。平たく言えば女を武器にして弱みを握るということでして、女性の方にこんなことを説明せざるを得ないというのもどうかと思いますが・・・」

こちらをちらりと見る。歯切れの悪い言い方をせずとも良いのではないかと思ったが、俺の今の姿はどうみても女性なのだから、古田がそう反応するのは当然だろう。少し間が空いたので、

「どうぞ遠慮なく説明を続けて下さい」

と言ってやると、古田は頷いた。

「年齢設定は17歳とすることを要求されました。このくらいの年齢なら標的とする男を引っかけると言いますか、手を出される確率が高まることが想定されるからです。GR05における年齢設定は12歳でした。ですがその幼い外見では手を出すことを躊躇うケースが散見されました。それを回避することが求められたと言えます」

古田はここで一旦咳払いした。

「上層部のこれらの要求を満たしたものとしてGR06を開発したわけですが、運用を重ねる中でどういった問題点が発生するかについてのデータが必要になってきます。トライアンドエラーというやつですね。僕たち5人はそのデータを収集する、その過程における整備・点検担当の技師ということになります」

話が途切れたので挙手してみた。

「どうぞ。何でしょうか?」

「つまり所謂『ハニートラップ』を仕掛けることを主眼としていると。そういう理解でよろしいですか?」

「そうです。ただ自分のみならず多数のGR05に命令を下して、同時進行で仕掛けることが求められていまして、中々ハードルは高いです」

「3個小隊を輪番で指揮すると本人が言っていましたが、それが可能なのですね?」

「可能です。現時点ではシミュレーション上はそうだとしか申し上げられませんが」

「その根拠はなんでしょうか?」

古田はタブレットを操作し画面を切り替えた。

「御覧の通りです。人工知能の処理能力がGR04と同等なのです。これまでのGR04とGR05を組み合わせた実験結果については、この研究所全体のイントラネットに格納されていますので、後程確認頂ければご理解頂けると存じますが、GR04で可能ならばGR06もまた同様。基本にはそれが有ります。何せ新型ですから」

「新型だからですか」

「設計については経済的にするために大部分を流用していますが、電池が小型化されたことにより、躯体の小型化に成功しました。部品についても一新されています。これらによりGR04よりも消費電力が減少しています。それらによって演算処理にエネルギーを振り向けることができました。具体的には、え~先ほどの比較表をもう一度ご覧ください」

画面が切り替わり、巴と静のスペックが再び示される。

「なるほどそうですか」

俺が頷いたことに満足したのか、

「よろしいでしょうか?説明を続けさせてもらいますよ?」

と言い、再び画像を切り替える。

「GR06に、とりあえず自由にとらせてみたポーズです。どうでしょうか?」

少し声が小さくなった。こちらに気を使っているのか?画面の中の静は色々なあざといポーズを決めており、どれも雑誌のグラビアにでも使えそうだった。桃と椿は、

「曹長殿可愛い~」

とはしゃいでいる。

「良い出来栄えじゃないですか」

と言ってやると苦笑が返って来た。

「女性の目から見てもそうなりますか。ハニトラを仕掛けるには必要十分でしょう?この辺はカタログスペックには反映されませんから、一見すると経済性以外の優位が無いように感じられますが、実際の所は圧倒的にGR06の方が作戦行動には向いていると考えられます」

「そうでしょうね」

巴に思いきり肘で小突かれた。なので思いきり嫌な顔を向けてみたが、無反応だった。古田は知ってか知らずか、お構いなく話を続ける。しかし、作戦に関する技術部門からの観点は、知っておいても損はしない。ひととおり説明が終わったところで、再びこちらから質問してみることに。

「ところで広範囲に電波を発信できるのですよね?」

「そうですね。兵達を操るわけですから、当然そうなりますし受信も可能です。ただGR05の場合は、送受信用のアンテナは頭部に露出しているわけです」

「なるほど・・・。そうするとアンテナの取り外しはできない・・・」

独り言のようになってしまった。

「そのとおりです。ただ大阪でも、東京でも気合の入ったコスプレということで、特に問題は発生していないようです」

古田はもう一度苦笑する。頷いた後、巴に確認する。

「そうなんだ」

「そうなんです」

「そうか、メイドカフェに勤めていることにすれば、メイド服着ていたって怪しまれないか・・・」

又独り言を呟いてしまった。

「あのう、今日は日常点検の関係でお邪魔させて頂いているわけですよね?頻度はどれくらいの割合になるでしょうか?」

「ああ、それは・・・」

古田はそう言った後巴の方を向く。

「マルヨン。それは説明していなかったのか?」

「はあ、別に細かいことは説明せんでもええかなって」

巴はしれっと言う。

「貴様はそう判断したということか」

古田は頭を掻きながらぼやく。

「人工知能というものはこれだから難しい。情けない話ですが、僕はただの技師に過ぎないんです。GRシリーズの大部分はブラックボックスでして、僕では到底理解することが出来ないんです。説明が不足していて申し訳ない」

「いえ、そんなことはありませんよ。原理が分からないまま使っているものなど、ごまんと有るでしょう?お気になさらずに」

「そうですか。そう言って頂けると助かります」

古田は必要など無いのに何度か頭を下げる。

「作戦行動を行っている間については週に1回は必ず整備・点検が必要になりますし、何かあれば随時ということになります」

「ではその際にはよろしくお願い致します」

立ち上がって深々と礼をすると、古田はしきりに恐縮した。そんなことをする必要は無いのに。律儀なことだ。

「古田はん、そろそろええのんちゃいます?少佐は今日、有給取ってまっせ?」

「ああ、そうだった。まことに申し訳ない。話が長くなってしまって。今日はこの辺にしておきましょうか」

それで互いに挨拶を交わし会議室を出ようとすると、そこへ息せきって室内に飛び込んでくるものがいた。

「六塚少佐相当官殿は、まだこちらにおいでるか?あっ、こちらのお嬢さんじゃね」

「そうですよ、二神大尉。僕らの方は終わりましたから、お話があるようだったら帰りがてらお話されたらどうでしょう?」

「ほうじゃねえ、そうしようか。あっ!」

二神はこちらがびっくりするほどの大声を出し、居住まいを正して敬礼してきた。

「大変失礼致しました。第一中隊を預かることになっておる、二神四郎と申します!」

「あっ、はい。六塚です。よろしくお願いします」

答礼を返す。二神は、

「もうお帰りになるんじゃろう?出ましょう」

「ええ、そうですね。歩きながらお話しましょうか」

俺たち一行は、廊下に出てエレベーターホールに向かう。

「マルヨンとマルロクの両方に名前を付けられたとか。どういうあれですかな、愛着が湧くようにとか、そういう理由ですかな?」

語り掛けてくる二神は、あの映像と寸分違わぬと言ってよかった。身の丈六尺の大男でがっちりした体格。栗色の髪には白髪が混じっており、太い眉毛に蒼い瞳で鼻は高い。四国訛り丸出しで、如何にも兵隊からの叩き上げで現場一筋という雰囲気を身に纏っていた。

「ええ、いつまでも形式番号で呼ぶのもどうかと」

「ほうですか。そんな考え方もありですな。お優しいですな」

そう言って微笑む二神。

「そんなこと・・・、そんなことありませんよ」

「そりゃまた何でそう思われるんですかのう?わしゃ、いちいち名前をつけようとは思わんですが」

不思議がる二神は俺の顔を覗き込んできた。

「ありゃ、わし、いらんこと言うてしもうたかのう?」

今度は巴の方を見る。

「さあ、ウチには分かりまへん」

「ほうか、わしもじゃ」

2人して笑う。釣られて桃と椿も笑う。笑っていないのは俺だけ。

「あのう、二神大尉は、木曾川准尉と面識があるのですか?」

「ほうですな。平成20年度から大阪と東京の両方で色々とやっておりましてな。その時からの付き合いですな。のう?」

「そうっすね。色々お世話になりました」

巴はそう答え笑う。

「今度はまた一緒に大阪で大暴れっすね。よろしくお願いします」

「そうじゃのう。こっちこそよろしく。まあ、何じゃ、わしらがしっかりと大隊長を支えんといかんけん、大隊司令部付きのもんは皆気を引き締めていかんとのう。あなたがその要ぞね?」

「了解であります」

ぴっと敬礼し笑う巴。疎外感を覚える俺。

「ところで具合はどうですか?」

不意に二神は質問を浴びせて来た。

「先ほどドクターにも聞かれましたが、どうと申されてもぼちぼちですね、としか言いようがありませんね」

俺の答えに二神は苦笑する。

「ほうですか。ぼちぼち。それならええですな。取りあえずぼちぼちと言える気力が有るなら、それで十分ですな」

「そうですか、それで良いのですか?そのう・・・」

一度言葉を切った。

「例え何もできなくても?」

「それのどこに問題が有りますかのう?」

二神の逆質問に俺は戸惑う。

「一人の出来ること何ぞたかが知れとりますがな。あなただけじゃない、わしも、部下もひっくるめての話。じゃけん、中隊じゃの大隊じゃのが有るわけでして。あなたの役目は大隊長としてどっしり構えて命令を下す事です。わしらのする事を承認することです。上手いことやりますけん安心してください」

「はあ、そんなもので良いのですか?部下に何もかも丸投げしているようで気が咎めるのですが?」

「いやいや、最初の内はそれで何もかまんし、そういう気持ち、部下を思う気持ちを取りあえず持っておいでたら、それでええじゃないですか。わしはそう思いますよ」

エレベーターホールに着くと、二神は地下1階へ行くと言う。

「後輩、いや別役中佐と打ち合わせが有りましてな。じゃけん、今晩は『先輩!今日は居酒屋行こうぜ!先輩の奢りで!』かも分からんですな」

エレベーターが上昇している間、二神は俺以外のものを笑わせ、

「正式な顔合わせは明日ですな。明日以降は忙しゅうなりますけん、体調崩さんよう気を付けてください」

そう言い残すと、地下1階でエレベーターを降りて行った。1階でエレベーターを降りると、

「ええひとでしょ?」

巴がにっこりと笑って言うので、頷いて同意した。

「随分親しいと言うか、かなり前から一緒にそのう・・・」

一度言葉を切り、息を飲んで続けた。

「『お掃除』の任務に就いていたわけ?」

「そうでっせ」

あまりにもあっさり答えが返って来た。そのあっけらかんとした態度に俺が少々驚いていると感じたのか、

「あれ?東京でも色々やってきたことは言うてますやん」

「詳しくは聞いていなかったから・・・」

「ハハハっ、そりゃあれっすよ、うちかて武勇伝語って聞かせたいですけど、そんなん聞きたかないでしょ?麻薬組織の奴ら全員ぶち殺した話とか、チンピラども片っ端から『行方不明』にした話とか。あ、もう語って聞かせてるか」

巴は可笑しくてたまらないという顔で笑った。なるほど、武勇伝にしたいほど悪党どもの死体の山を築き上げてわけだ。根拠法令は有る。「検非違使庁設置法」だ。「刑法」にも「刑事訴訟法」にも。だから釈然としない気持ちになる必要は無い。例えば麻薬の売買は問答無用で死刑。ならば、取引現場で「死刑」を執行しても特に問題はあるまい。ほんの数日でそんな「危険思想」を持つようになったわけではない。以前からそんなどす黒い情念が有ったような気がするのだ。

 研究所を出て官舎へ向かう。まだ16時だがかなり疲れた。布団に横になったら起き上がれないかもしれない。何だか有給休暇とは言えない一日だった。文字通り「頭が痛い」。しかし、結局その後は、夕飯を食べて風呂に入って寝るだけしかできなかった。



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