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居留守戦法か?

 覚えていろよなどと捨て台詞を吐いてその場を去るのは、それは小物の悪党の行動と相場が決まっている。そしてあくどい復讐方法を練って行動に移すと、必ず主人公に退治されるものだ。俺は断じて主人公とは言えない。何なら自分の人生の主役とも言えないかも知れない。だから芝居の世界のことが現実に起こるなんて思ってもいなかった。そこは甘さがあったのだろう。

 本省のセクハラ相談室から電話が有ったのは昼食を済ませた14時30分頃の事だった。担当者と話し込んでいる時、木村上等兵が扉をノックして室内に入って来た。俺の机の上にメモ用紙を置いて去って行った。ふとメモ用紙を見ると、

【チンピラの島田が電話で六塚を出せと息巻いていました。本省の人と話していると言ったら、折り返し電話して来いと言って、電話番号も言わずに電話を切りました。申し訳ありませんが後処理をお願いします】

と書いてあった。まだ何か用が有るのかよ、あのチンピラヤクザ。これはあれだ、巴が既に大阪管区の憲兵隊に通報済みだから、そのままの事実だけ通告してやろう。いやそんなことする必要すらないかもな。そう思ったが不気味ではある。憲兵隊という言葉が出て、自分の行動が記録されていると分かった途端、収集狼狽して逃げ帰ったくせに電話してくるのだから。

 面倒なことだから早めに済ませようと思ったが、そうは言っても電話の相手先である本省のセクハラ相談室は、俺のために動いてくれているのだから疎かに出来るはずもない。いささか回りくどくて何度か同じ話をする人だとは思っても、口には出せるはずもない。結局30分近く話し込んでしまった。それにしても女性の話というものは、何故長いのだろう?

 島田の奴から電話がかかって来てからどれぐらい時間がたっただろう?また電話がかかってきていないか?一応司令部の者に確認しなくては。それで話を聞いたら誰も電話は受けていないという。それじゃあ面倒くさいが、こちらから折り返しするしかないか。それにしても、折り返し電話して来いと言いながら電話番号を言わないとは。呆れた奴だ。地位に胡坐をかいてやがるな?それはさておき、イントラネットにアクセスして、連絡先を調べる。さて、島田のデスク直通らしい番号が見つかったので早速電話するが、繋がらない。呼び出し音が聞こえるだけだ。何度か間隔を開けて電話しても同じこと。自分の机にいないとはおかしな話だ。忌々しい。それじゃあ同じ部署の誰かに伝言を頼もうと思ったら、また呼び出し音が鳴るだけ。これはいよいよもって怪しい。折り返し電話してこなかったと因縁を吹っ掛けるつもりでは?そんなことを思いつく俺も相当陰険なのだろうが、そんなことでもこちらの過失に仕立て上げて、何とか事を有利にしようとする戦術だ。俺はそう決めつけた。

 だから決裁作業を続けながらどの電話番号にいつ・何回電話したかをメモ帳に記録した。ついでにイントラネットで電子メールを送り付けてやった。

【折り返しお電話を差し上げましたが、業務ご多忙のようなので電子メールにて連絡させていただきます。恐縮ですが、ご用件については電子メールにて承らせて頂きますので、ご返信いただきますようよろしくお願い致します】

さて、ビジネスマナー上この内容で良いのだろうか?少々疑問に思わないではなかったが、取りあえず送信する。

 そこから先はこのことについては、何の音沙汰もなかった。いつも通り淡々と作業を続け、定時後の連絡会議を行って情報の共有を行うなど、日常業務が流れ作業として続いていくだけだった。そして気が付けば時計の針は19時を少し過ぎたところを指していた。きりの良い所まで仕事を済ませ、下の階に行って日勤の者を早く帰らせる。途中で捕まって色々なことの確認を求められる。そんなこんなで、さらに30分ほど経過。最後に大隊司令部に残っていたマルゴ達に確認したら、

「電話はかかってきましたが、島田中佐からのものではありませんでした、少佐殿」

と椿が返事をした。

「そうだよね、桃ちゃん?」

質問された桃は頷く。

「そう。じゃあ帰ろうか?」

今日はと言うべきかそれとも、今日もと言うべきか?とにかく疲れた。さっさと帰ろう。しかしその前に電子メールが来ていないか確認しないと。こちらが電子メールで連絡してくれと伝えたのだから。しかしメールボックスには島田からのメールは無かった。何だあの野郎。大した用件じゃないのか?それはとにかくもう一度メールを送信しておいた。こちらとしては何度も連絡を試みたのだ。その証拠だけは残しておかないと。

 明日が怖いという感覚はしょっちゅうあった。病気になる前は特に。今更そんなころの感覚を思い出すなんて。奴は俺より階級は上。慎重に対処しないと。俺は改めて覚悟を決め、大隊長室を後にした。

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