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流れる記憶

 THK教育は、インターネットで配信もされている。だからパソコンで視聴することも可能だ(但し受信料は受け取れない)。よって俺はテレビじゃなく、パソコンで「ルーピーズ」を視聴した。日曜日のことだ。

「こんにちは。鳩山ルピ夫です。今日は大阪の名所と言えばここと言っても過言ではない、道頓堀からお送りします。新メンバー・直人君を加えてボク達も心機一転、これまで以上に頑張って演奏したいと思います」

 ルーピーズのメンバーが横一列に並んだ。第1ヴァイオリン・鳩山ルピ夫。第2ヴァイオリン・細野モナ夫。ヴィオラ・冠直人。チェロ・山口もえ夫。笑いどころは、冠直人が変わらずお遍路さん姿であることと、山口もえ夫も相変わらずすりガラスの向こう側にいることだろうか?

 今日の曲はモーツァルトの弦楽四重奏曲第19番「不協和音」だ。演奏が開始されるとチェロが良い味を出している。もえ夫の腕前は良いものだ(「鉄格子のあるホテル」で練習していたという設定になっているらしい)。他の3人の腕前もそれに劣らない。三重奏もいいが、やっぱり弦楽四重奏の方が良いな。素晴らしい演奏が続く。美しい音楽の世界に浸っているのは実に良い。そう思わせるものだ。

 演奏シーンは圧巻だ。指の動き一つに至るまで忠実にアニメ化されているのだから、素晴らしい作品に仕上げてくれた制作陣に感謝しつつ、最後までじっと見つめていた。今日は雨降る日曜日。憂鬱で何処へも行く気がしない。ひょっとすると金曜日に見た報告書の件を引きづっているのかも知れない。

 「お掃除」に関する報告書が愉快なものであるはずはないが、それはひと際鮮明に印象に残っている。鈴木小隊の報告書だ。「お掃除」した人数の多さではなく、手口の大胆さだ。それにまず驚かされた。白昼堂々ぼったくりバーを襲撃し従業員(反社の輩だが)を抹殺。二桁の人数に対して良くそんなことが出来るものだ。小隊長である鈴木自らが先頭に立ち任務を遂行している。その点にもびっくりだ。まさか本当に「実践」しているとは・・・。

 余程会心の出来栄えだったと自慢したいのか、鈴木は自ら報告書を持参して俺に読ませて、なんだかんだと話し込んでいった。

「『仏恥義理組』の組員の周辺をウロチョロしている穀潰しの奴らですよ。屋内に居たのは2軒とも全員そういう男達だけでした。それにしても引き上げる時に少し足がもつれてしまいましてね。妻に任務の事を伏せてそれだけを電話したら、『うちにはジムに通うお金は無いからね』って言い渡されてしまいました」

そういって愉快そうに笑うのだ。

「単身赴任ですからね。金がかかりますよね、そりゃ。もっとも、『もう帰ってこなくても良いのよ』などと冷たいことも最近言われていましてね」

そしてその時隣にいた西村上等兵に、

「西村君、結婚相手は吟味して選ばないと駄目だよ。妻の尻に敷かれる。それも悪くは無いけどね」

と微笑みかけていた。そこに居たのは紛れもなく「ごく普通のサラリーマン」。報告書の中身との差に眩暈がしそうだった。 

 それに連動してか、昔の嫌な記憶が芋づる式に記憶の奥底から掘り出されてくる。良かったことも有るはずなのだ。しかし、それは一向に思い出せない。改竄された記憶なら掘り起こせるが、そんなことは誰にも言えやしない。コーヒーの味が余計に苦くなるような気がして、だから雨の日曜日は嫌いなのだ。この素晴らしい演奏を聞いた、この時の記憶も洗い流してしまいそうだから。

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