ルーピーズ
「ルピ夫君、ここはどこ?」
「土佐の高知のはりまや橋だよ。ガッカリ名所として有名なところだよ。アハハッ!」
アホ面のヴァイオリニストの男が答える。またおかしな夢の世界か?それもアニメの世界。
「今日はここでベートーヴェンを演奏しようね、モナ夫君」
モナ夫と呼ばれたタキシード姿の男は、
「もえ夫君がいないよ。どこ行ったのかな?」
きょろきょろする。すると、
「ワシはここやで」
とくぐもった声が聞こえる。ボイスチェンジャーを使った低音だ。
「ルピ夫君。モナ夫君。何かなあワシらにガン飛ばしてるやつがいてるでえ、どないする?」
すりガラスの向こうから2人に話しかけている。すると画面が切り替わって3人を見つめるお遍路さんの姿が。
「ボクたちの演奏を聞きたいんだよ。早速演奏しようね!」
放浪の天才ヴァイオリニストで、この番組の主役であるルピ夫君。
「うん。今日も良い演奏ができるよう頑張るよ」
そのお友達で女たらしのピアニスト、モナ夫君。
「ワシもやでえ。気張っていこうか」
常にすりガラスの向こう側にいる、広い範囲で指定されている組織の元メンバー、もえ夫君。3人揃って「ルーピーズ」。今日はベートーヴェンのピアノ三重奏曲第7番、「大公」を演奏するようだ。直ぐに聞き覚えのあるメロディが聞こえて来る。
THK、帝国放送協会には子供向けの「THK教育」というチャンネルがある。そこで流されている人気コンケンツの一つがこの音楽番組「ルーピーズ」なのだ。演奏中なのに、そんな情報が頭の中にヌルヌルと流れ込んでくる。一転してしゃきっとした顔つきに変わるルピ夫君をはじめ、3人の演奏は完璧だ。アニメなのに指の動きも完璧。誰が吹き替えで演奏しているかは内緒だ。
実に良い演奏だが、いつの間にか終わっていた。3人の元へお遍路さんが駆け寄る。
「俺の名前は直人。俺も混ぜろ。俺はモーツァルトに詳しいんだ」
手にはヴィオラが握られている。
「うん、良いよ!」
一転して抜けた面に戻るルピ夫君。そしてナレーションが流れる。
「さすらいのお遍路さん、直人君加入!次回からモーツァルトの弦楽四重奏曲シリーズ開始!まずは所謂『ハイドンセット』からです。乞うご期待!」
そこで目が覚めた、などという怪情報をドクターに述べても仕方があるまい。昨日、軍医殿の元へ向かうと、話は連続するセクハラに関する事だけに集中した。軍医の森元は実に真摯に俺の話に耳を傾け、あれやこれやと俺に気を使って話しかけて来る。初対面の時のセクハラスケベ爺という印象はどこかへ飛んでいきそうだ。
そんな風に気を使われていたので、岡田が冷たい目で見てくるのが不思議でならない。いきなり男に下半身を露出されたというのに、何一つ声すらかけずにすませようとするのだから。「女の敵は女」そんな言葉が脳裏をかすめる。巴達が口々に慰めてくれるのも少々煩わしいが、いつも以上に邪険にされるのが腹が立つ。と同時にどうでもいいやと言う気持ちも、むくむくと脳裏をかすめる。そう、どうでもいいじゃないか。仕事だけの付き合い。上に立っているのは自分。何を恐れる必要が?そのはずだ。だが、その日はさしたることも無く一日が終わったのに、気持ちの整理はつかないまま。島田も本省も何も言って来ない。どうすれば心穏やかに過ごせる日が来るのか?悶々としながら床に就き、眠れないかと思っていたがいつのまにか眠りに落ちていた。




