セクハラエロ軍医との遭遇
兵達が協力して作業した結果、昼までに作業は終わった。
「じゃあ昼メシにするか!」
巴がそう言うと、
「は~い」
と6人のメイドさんは嬉しそうな顔で小学生のような声を上げる。その輪の中と距離を取ったところで、むすっとした顔のポニーテールの女の子がいた。誰だろう。よく見ると、眼鏡を外して髪型を変えた静だった。
「言うても、メシを食べなあかんのは少佐殿だけや。おい、弁当買うて来い!」
巴は静に向かって言う。
「どうしてですか!私はパシリじゃないです!」
静の怒りの声に被せるかのように、
「パシリ、パシリ~」
桜がそう囃し立てると他の5人はけらけらと笑う。
「そやで。早よ行って来い!」
巴がきつめの口調で言葉をぶつけると、静の怒りが爆発する。
「なんであたしがパシリなんだよ!ふざけんな!このデカブツ!」
「何やと⁉この狸娘!しばいたろか!」
「やってみろや⁉ちょっと気に入られているからって調子に乗るなよ⁉失敗作⁉」
静は中指を立てる。⁉が静の背後に大量に浮かび上がり、一斉に巴に向かって飛んで行く。
「なあ、少佐が見てはるのが分からんのか、アホんだら⁉」
巴は舌打ちした後、薙刀で⁉を打ち返す。それをよけた静の怒りはさらにヒートアップする。
「関係ねえよ!ぶっとばすぞ!この熊女!」
静は瞬く間に巴との距離を詰め、いつの間にか右手に持っていた刀を巴に向かって振り下ろす。すると、巴もこれまたどこからともなく銀色の盾を左手に持ち、静の渾身の一撃を防いだ。
「ザクとは違うのだよ!ザクとはっ!」
かなり派手に効果音が響き渡り、巴の蹴りが静の腹部を直撃。静は吹き飛び地面に叩きつけられた。次の瞬間、静の体からもくもくと煙が噴き出して周りを覆い、それが晴れると頭に葉っぱが乗っかっている狸が転がっていた。
「何やこいつ、ほんまに狸やったんか」
巴の呆れたと言う声に被せるように、兵達の笑い声が響く。すると、どこからともなくポンと鼓の音がして、煙と共に狸は静に早変わりした。
「フン、悪かったな狸で。熊女よりましだろ?」
静は首を傾げながら髪をかきあげる。
「何やとこらっ!ウチが熊や言うんかいや!しかも2回抜かしたな、このクソ狸!」
巴の咆哮が聞こえると、全身が毛に覆われ両手からは鋭い爪が生えてきた。
「てめえは熊以外のなにもんでもねえだろうがっ!違うってのか⁉」
巴をねめつける静の顔には血管が浮き出て、ピキピキという音がこちらに聞こえてくる。そんな二人の舌戦と睨み合いの真っ最中に、俺はいきなり2匹の狐に桟敷席へ案内される。
「本日は熊対狸の一大決戦千秋楽ですよ、お客さん。この大一番是非ご覧になってください」
それなのに、目の前に現れたのは黒いビキニの水着を着た巴と静。同じくビキニ姿の桜がホイッスルを吹いた刹那、眼前の風景は砂浜に変り、二人は巨乳を揺らしビーチバレーをしている。
あれ、おかしいぞ?とうに気づいているのに、一向にこの夢の世界から抜け出せない。
「え~2人のビキニが見たいんでしょ?えっち!むっつりすけべ!」
隣には下着姿の桜が。両手で胸を覆っているが、上下とも白い下着だと言う事は丸わかりだ。頬と耳が赤く染まっている。もっとよく見たい。そう思うと視界が強制的に下側に移り、小さな赤いリボンが付いた白いパンツが目に映る。それと同時に、
「浮気者!」
という3人の声と共に視界は暗転し、左右に激しく揺れた。
「少佐殿、起きて下さいよ。もう8時ですよ」
ああ、そうだ。これは巴の声。起きなきゃ、起きなきゃ。瞼を開ける。これだけでも何故か一苦労だ。ゆっくりと起き上がる。
「おはようございます。寝坊助さん」
巴はにっこりと笑う。こちらも微笑み返そうと思ったが、体がいうことを利かない。起き上がれず、また横になってしまう。
「ああ、あかんですよ。もう8時や言うたやないですか」
手を引っ張られる。体は起き上がり、巴に体を支えてもらうと、少しづつ意識が覚醒してくる。
「おはよう木曾川」
うっかり「巴」と声をかけるところだった。危ない、危ない。
「まあ、昨日は色々片付けで大変やったですけど、一個分隊の兵どもとアホに手伝わして、夕方までには片付いたやないですか。しんどかったのは分かりますけど、もっと早う起きて下さいね。タイマーで音楽かかってましたから、その内起きてくれはる思ってましたよ?」
布団から身を起こしながら、
「ああ、うん、ごめんね。あれ?ちゃんとチャイコフスキー演奏されていた?」
と聞くと、
「ええ。6時きっかりに演奏開始でした」
という返事が当然のことして返ってくる。コンポのタイマーをきちんと設定しておいたから当然だが。
「ああ、そうなんだ・・・」
枕元に置いていた眼鏡をかける頃には意識覚醒。着替えて朝食だ。3LDKの官舎の部屋には、大隊司令部所属のGR05が交代で詰めることになっている。そのうちの2人、桃と椿に着替えを手伝ってもらい、巴のつくった朝食を食べる。3人ともそわそわした顔でこちらを見つめ、
「美味しい」
と言ってやると、それはそれは喜びに満ち溢れた表情になるのだ。
昨日巴は、自分は副官として傍を離れない。ここの6畳の和室を使わせてもらいます。そう言い放って本当に荷物一式を据えてしまった。それでもこの官舎は広々とした間取りだ。以前の6畳一間・風呂・台所・便所全部共同だった官舎とは比べ物にならない。その上メイドさん付だ。何だか罰が当たりそうな気がしないでもない。
「取りあえず先に区役所行きましょ。何をやるにしても、『社会保障番号兼納税者番号証』書き換えせんとどうにもならんですからね。昼休みの時間は混むに決まってますし。でもこれの住所を書き換えてもろうて写真を差し替えたら、あとは全部ばっちり全部住所変更されますよって、気は楽ですやん?時間かかるかも知れんですけど、しゃーないってことでいきましょ」
朝食を食べていると、巴がそう話しかけてきた。
「そうね。ところで今日は主治医になるドクターと、それに技官とも会う訳でしょ?確か。時間とか大丈夫かなあ」
「それは大丈夫ですよ。技官はいつでもええって言うてはりましたよ?取りあえずの顔合わせと、ウチらの日常点検を兼ねて研究所に来てくれいうだけの話ですやん」
「それはそのとおりに捉えちゃ駄目よ。ここは関西よ?」
「あ、少佐殿は京都にいてはったから、本音と建て前いうんですか、そのう、言うてはることと腹の中で思ってはることがちゃう、いうのがようあったんでしょ。そらウチも分かりますけど、ここは大阪でっせ。第一ウチとこに常駐してはる技官は関西人やないです」
「そうはいってもねえ。時間がかかりそうだし」
「あっはは、まあそんなええやないですか。病院の待ち時間よりは早う済むでしょ。気長に気楽にいきましょ。それが大事ですよ?」
「社会保障番号兼納税者番号証」の書き換えは案外あっさり終わった。申請書を記入し提出して待つこと5分。写真を撮影すると言われて、何やら運転免許センターにあるやつと似ている機械の前に案内される。指示通りにして撮影終了。30分ほどで新たに更新した番号証を手渡すと言う。待っている間に広報誌だとかパンフレットの類を読む。こういうところから情報を仕入れることも大事だからな。しかし、さっき申請書に書いた文字が気にかかる。なんであんな綺麗な字がきっちり書ける?俺の字は到底事務官と呼ばれるのにふさわしいものではなかった。何故?だがそれは脇に置いておこう。昨日は結局パソコンに触れなかったし、携帯電話でネットに繋ぐのも億劫だった。中途半端な時間ができてしまったのだから、広報誌でも読んでおかないと。色々書いてあるが、子供に関する補助金の数々・優遇措置の多さには参った。公営住宅の家賃なんて無料だ。しかも間取りは広い。企業・個人事業主向けの補助金は数が多い上に、ご丁寧に東京では支給されませんという注意書きまで付いている。仕事が有って家賃が安ければ、大阪市の人口が500万人を超えているなんて信じがたい数字も納得だ。でもそれだけじゃない、強引なことをしているな、こりゃ。
その強引なことを自分たちが担うのは確実なことのように思えた。ぼんやりとしかそれは見えないが、「ちょっと邪魔なものをどける」ということが何故か真っ先に脳裏に浮かんだ。ここの古家に「ちょっと」どいてもらったら、もっと大きなビルが建てられるのに。後何人か反対している人がいなくなったら、話が「スムーズ」になるのに。何だかゾッとする。広報誌を元の棚に戻し、巴の座っている席の隣に座ると名前を呼ばれた。
「これでね、手続きは終わりですわ。お疲れさんでした。銀行とかの住所変更は順次変更されるさかい、暫く待ったってくださいね」
係員の言葉に頷く。全てこの番号に紐づいているということだ。便利だ。どっちにとっても。
区役所から戻ると、巴と桃・椿を連れて大阪人工知能研究所に向かう。大阪市内の鶴見緑地公園の地下にある、巨大な人工知能及びそれを搭載したロボットの研究施設。そこでドクターの診察を受けた後、大隊付きの5名の技官と顔合わせをすることに。
「ウチは、こいつらを連れて技官のところにいってきます」
巴達と別れドクターのもとへ。診察室ではメイドロボット2人と、恰幅が良いでは済みそうにない巨漢が出迎えてくれた。
「軍医大佐の森元だ。君の健康状態は私が管理することになる。そこに掛けて気楽にしたまえ」
「はい、分かりました」
俺が返事をして椅子に腰掛けると、森元は机上のパソコンを操作するためか、机に向かってギギギイと悲鳴の如き音を響かせながら、椅子を回した。しかし森元は全く意に介さず、パソコン上の電子カルテを熱心に見つめている。暫く待っていると、森元の椅子は再び悲鳴を上げながら森元の巨体を、こちらに向ける。年齢は60代だろう。医者の不養生を絵に描いた様な肥満体。四角い立方体のような顔に、それと反比例するかのような小さい目。その目で俺を上から下まで見つめてきた後、森元は質問してきた。
「調子はどうかね?一昨日、東京では医務室で寝込んでいたと、報告にあるのだが?」
「ええ、まずまずですね」
森元の目を見て答えてから一旦軽く視線をずらし、元に戻す。
「そんなことまで報告されているのですね」
森元はニヤリと笑う。
「そう、そこが我が社の良い所でもあり悪い所でもあるな。我が社は何でも知っているし、知っていなければならないのだよ。君の健康状態も知っておかなければならない。少なくとも私はね。ついでといっては何だが、君のパンツの色も知っておきたいところだね」
そう言って豪快に笑う森元。俺としては呆気にとられるばかりだった。おいおい、この爺さんセクハラって言葉知らないのかよ・・・。いや、この社会全体にそんな概念ないのかもな。どっちが正解か知らんけど、ああだこうだ言わずに黙っておこう。笑い終わった森元は、
「すまんね。私は女の裸が見たくて医者になった口でね」
そんな下卑た冗談を飛ばしてきた。だが、直ぐにまともな医者の目になり語り掛けてくる。
「まあ、君が健康を害しているのは精神面だから、パンツだの裸だのは見せてもらう必要は無いから安心したまえ。ところで君、ちゃんと処方薬を服用しているかね?」
「ええ、勿論」
森元は頷き、こちらの目を見て質問してきた。
「そうかね。しかしGR06からの報告によれば、君はブリーフィングの最中に急に激高してきて身の危険を感じたとあるのだが、事実かね?」
あのクソアマ!巴のような品の無い言葉が頭の中をよぎる。
「ええ一応事実ですね」
「分かった。事実はあるわけだ。それについての君の見解は?」
「そのう、GR06がそういう反応を示したことに若干憤りを感じます。確かに『激高した』と、とられかねない行動をしたのは事実ですが、それは散々GR04と意地を張り合って私の命令を無視し、軽んじる態度を取ったからです」
森元の椅子がまた不快な音を響かせる。森元は再び机の方を向き、パソコンに何かを入力してからこちらを向いた。
「君、気分が沈み込んでいる時に、何か衝動に駆られることが有りはしないかね?今回の事もそんな感じだろう?」
「ええ・・・。そうかもしれませんね」
「うん。そしてそのことを後悔して自責の念に駆られ、余計に気分が落ち込む」
俺は沈黙をもって答えるしかなかった。
「感情のコントロールは誰しも難しいことだ。失敗してしまう事の方がむしろ多いのだから、必要以上に落ち込むことは無いよ。考え方を少し変えてみたまえ。相手は部下だ。少々舐めた態度を取るのはむしろ当然じゃないか。私なぞ散々馬鹿にされているよ!」
はははっと笑い飛ばす。
「処方薬をきちんと指示通りに服用しているなら一安心だな。後は少しずつ認識を変えていこうか。認知行動療法だね。今までにも受けたことはあるようだね。何少しずつだよ。焦ることは無い。よたよたしながらでも、少し後退するのも仕方がない。気長に構えて落ち着いた状態になれるようにしていこうじゃないか。私はこんな助平爺だから私の差し伸べる手を握りたくはないだろうが、互いに本音で語れることが重要だと私は考えているのでね。今は私の肩書以上のことは受け入れられないかも知れないが、少しだけ信用してくれないか?そこからゆっくり前に進めばいいわけだからね」
森元とは結局30分ほど話したことになる。俺はそれによってかなり疲れていた。自分が女性としてしげしげと見つめられたせいだろう。やれやれキモかった。胸の方ばっかり見やがって。でも男なんだから女の子を見るときはまず顔で、次が胸だよなあ。それが正常な反応だよ。しょうがない。でもそれはそれとしてキモかった。
昨夜巴と一緒に風呂に入った時に、ブラジャーのサイズを確認している。アンダー70のCカップ。グラビアアイドルなんていう、若い自分の肉体を誇示している女の子達のせいで感覚が麻痺しがちだが、このサイズなら十分大きいだろう。春物のブラウスの上にジャケットを羽織っていても、胸元に大きな白いリボンをあしらっているのだから、視線がその辺にくるのは当然ともいえる。技官達も見てくるかな?まあ、そうなるだろうな。仕方が無いか。キモいけど。
それにしても通販サイトなんてものは、買うつもりなど無くても見る価値はある。女性用下着なんてものは特に。可愛い女の子の下着姿だけじゃなく、「ブラジャーの正しい着用方法」なんてものあって、凄く「実用的」だ。何回も「お世話になった」。男なんてそんなものだよな。