指揮権はそちらに在らず
何だって放送協会は偉そうにこちらに命令してくるのか?検非違使庁の支配下にある、情報収集・情報操作のための機関だということは分かった。密接なつながりが有るからこそ、渡辺以下多数の第3中隊の隊員が出向のような形で活動していることも。しかし上位機関ではないようだ。だからこそ余計にムカつく。俺の部隊は本省直轄部隊でかなり特殊な位置づけの部隊のはずだ。それに対して指揮権を発動される謂れは無いぞ。一体何を考えてどんな命令を下してきたのか?腹の内を探ってみよう。
放送協会の大阪統括管理部とやらが発した「事務連絡」を川本から見せてもらった。確かに東京府の港区界隈、六本木だの赤坂周辺の情報収集を行い、国賊・スパイ野郎・不逞外人に絞って「お掃除」をせよとなっている。監視カメラの撮影記録・携帯電話の位置情報などから上記の不審人物を特定し、これを殲滅すること。これが大阪統括管理部と本省の第1方面軍司令部が発出した事務連絡の内容だった。
「意味が分からないですね。本省から直接ではなく、大阪の帝国放送協会から事務連絡と言う形で命令が来た理由って、何でしょうね?」
ファックスで送られてきたそれを見るにつけ、この組織は一体何なのかと思う。正に「鵺」だ。考えても良く分からない以上、目の前のベテランに聞くしかあるまい。
「川本さん。こんな形で事務連絡が来る理由って何でしょう?」
「う~ん、僕にも分からないですね。本省から直接で良いでしょうにね」
川本は首を捻る。そして、
「あ、それはそうと少佐。申し訳ありませんけど、これから佐藤さんと打ち合わせがありまして、申し訳ないですけど・・・」
と言いながら何度か頭を下げる。そっちで確認して欲しいということか。どのみち確認しないとこのまま命令を出せるはずもない。俺も頭を下げてから中隊長室を出た。
大隊長室へ帰ってから連絡先を調べて電話を掛ける。何度か盥回しにされた上に、長々と保留にされたがそれは民間でも良くあることだ。いい加減うざったくなってきた頃にようやく事務連絡を発出した担当部署と電話が繋がった。
「一体何の用か?指示事項はそこに書いてあるだろう。読めないのか?」
のっけから言ってくれる。こんな不躾な輩にお目にかかるのは初めてだ。だが、相手は放送局内に潜んでいる秘密警察の一員だ。このくらいの口の利き方をするのはある意味当然だ。一度深呼吸をして気持ちを落ち着かせる。
「何故我々が東京の情報収集を行って、かつそちらで「お掃除」をしないといけないのですか?そんな余裕は我が隊には有りませんよ?」
「そんなことは聞いていない。本省からの通達だ。速やかに実行しろ」
「そうですか。ちなみに本省からの事務連絡がそちらに行った後でこちらに来た理由は?」
「そんなことは知らん。つべこべ言わずに着実に任務を遂行しろ」
電話の向こうの担当者(多分)は淡々と同じことを繰り返す。いい加減頭に来た。馬鹿にしていやがるな?大体なんでお前の命令に従う義務がある?
「本省からそちらに指示があったわけですから、そちらで処理して頂けませんか?我々がやらなければならないのなら、本省から直接命令があるはずですので。失礼します」
ムカついたので、そこで電話を切ってやった。さてどういう反応が来るか?おそらく激怒だろうな。だが激怒しているのはこちらも同じ。さてどういう風に反論すべきか?俺のぼんやりした脳味噌は幾つかの妄想じみた問答を繰り広げ始めた。




