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百人切り競争

 だが俺自身はそんなことを覚えている間は無かった。ようやく日曜日には休みとなったが、さて何をしていたかは思い出せない。買い物でも出かけなければつまらないから出かけようとしたら、まとわりつかれて弱った記憶はあるが、それだけの事だ。

 案件は同時進行で行われているわけだから、感慨にふけっている暇などない。鈴木小隊などは精力的に活動していて、上がってくる報告書の内容が濃い。毎回「代決」となっている。あの指摘を受けた少尉が行っていて、「松本」という判が座っている。それで鈴木が外で「養成職員」とやらと一緒に、「お掃除」に頑張っているというのが分かる。そして、これだけやってもちっとも「お掃除」の対象者が減らないということに呆れる。この「日本連合帝国」においても大阪が犯罪件数日本一なのだ。人口が2倍を上回る東京よりも多い。そこら辺が「日本」と同じということに、げんなりさせられる。嫌な話だ。

 だがそんなマクロの話は政治が解決すべきこと。俺達はミクロの世界でひたすら目の前にいる逆賊・国賊・スパイ野郎を「お掃除」するのみだ。そしてその中には当然それを可能とするべく情報を収集し、「お掃除」に注目が集まらない様に情報操作することも重要だ。犯罪が行われる前にその芽を摘み取る。その過程も結果も、都合の良いものだけ公表すれば良い。

 平成27年5月20日。前夜に見た夢は悪党どもに機関銃を乱射する夢だった。機関銃の奏でる轟音。何故か大爆発と共に吹き飛んで行く、顔の無い犯罪者達。巴と静は互いに部下を引き連れ、どちらが先に百人の犯罪者をヘッドショットで「お掃除」できるか競い合っていた。

「ヘッドショット一発で仕留めなきゃ認めませんよ?後から撃つなんてせこい真似は止めて下さいね?」

「何を抜かす!この狸娘!おのれこそ、妖術を使うて動き止めてから撃つつもりやろ!そっちこそせこい真似すんなよ!」

相変わらずいがみ合う巴と静。だから俺は2人の目の前で96式機関拳銃の安全装置を外し、セレクターレバーを全自動へと切り替えた。

「いい加減にしないと2人とも撃つわよ?」

言い渡したはずなのに目の前にいた2人は消え去り、轟音と悲鳴そして爆発音が轟く。それなのに巴と静がそれぞれ数を数えながら進んでいる様が、耳元で聞こえるのだ。50を超えたあたりで爆発音が消え、風を切るような音に変わった。

「首を切ったれよ!首を!そうせえへんかったら、切ったとは認めんぞ!」

「何を言っているんですかねえ?どこの部位だろうと切ってしまえば良いんですよ!」

突然スクリーンに映し出された様に、2人の姿がはっきりと見えた。いつの間にやら薙刀を手に逃げ惑う顔の無い犯罪者に襲い掛かっていた。巴は薙刀を振り回して首を飛ばし、静は薙刀で数か所を斬って出血多量による死へと追いやる。最終的に巴は105人を「お掃除」した。

「ウチは全部ヘッドショットして、首を取ったんやからウチの勝ちや!」

「何を仰っておられるのやら。私は106人をやっけたのだから、私の勝ちに決まっているでしょう?」

そして2人して、

「そうですよね!」

と同意を求める。その相手は何故かテレビ画面の向こうにいる渡辺だった。

「続いて勇猛果敢な兵隊さんによる『百人切り』の話題です。昨夜未明、東京府内において、不逞外人共のアジトを2人の兵隊さんが強襲。どちらが先に『百人切り』を達成できるか、賭けをしました。その結果についてお知らせします」

おい、渡辺!何を言っているんだ?途中までは機関銃を使っていて、弾切れになったから薙刀で切るようにしたんだろ?最初からじゃないぞ?

「ご覧ください、巴型の大薙刀を持っているのが、105人を切った木曾川巴准尉。静型の薙刀を持つのは、106人を切った鎌倉静曹長です。2人の兵隊さんの勇姿。実に頼もしいですね。なお勝負の結果ですが、不逞外人共を残らず切り捨てたので、引き分けにすることにしたそうです」

おい、何を言っているんだよ・・・何も言えないよ・・・。すると、

「何を仰っておられるのですか、大隊長。これが私と部下たちの仕事ですよ?」

渡辺はこちらを見据えて言う。

 そこで夢は覚めた。俺は所構わず暴力に訴えたいのだろうか?明日軍医殿による診察があるから、その時にでも相談すべきかな?首を捻りながら考える。だが面倒なのか、すぐにそんなことは後からにすれば良いと思い定めた。今やらなければやらないこと。それを考えることが先決だ。

 それ故なのか、決裁印を押印した決議書の束を第2中隊に持ってゆくことにした。何故なのかは分からない。どういう訳かそうすべきと思ったのだ。中隊司令部で兵に決議書を渡して中隊長室の中を伺うと、中隊長の川本と、情報収集業務委託事業者である、「帝国情報管理システム」の佐藤が何か話し込んでいた。

「あ、大隊長。良い所に。内線しようか、どうしようか迷っていたところなんですよ」

川本は佐藤に向かって、

「ねえ」

と、同意を求める。

「大隊長さん。私どもも少し困っていまして」

「どういったお話しですか?」

話を振ると、

「いえね、突然放送協会の方から東京方面の情報収集の依頼が来たんですよ。訳が分からないから理由を問い質したら、『事務連絡に書いてある通りだ』って言うんですよ。そんな余裕はないって言い返しましたら『委託業者使えばいいだろっ」って逆切れされまして。ちょっと前に佐藤さんが来られたから、こんな話が急に降って湧いたって話していたところなんです」

と川本が答えた。

「それは東京の方から?だとすると意味が分かりませんね。強引すぎます」

と言うと、

「いえ、それが大阪からなんです」

「えっ⁉」

川本の答えに仰天せざるを得なかった。

「どうしてですか?」

「それがですね、臨時で第1中隊を東京で活動させろって本省からの事務連絡の文書が、大阪の放送協会からの事務連絡にくっついていまして。それを至急でやれと言うんですよ。弱りました」

川本は机に突っ伏した。さもありなん。大阪の管轄区域だけで手一杯だというのに、東京まで!そんなことできるわけがない。

「まさか委託業者さん使う訳にはいかないでしょう、ねえ」

川本は起き上がり同意を求める。

「そうですね。弊社はあくまでも委託事業者でして、『業務命令』を受けて事業にご協力させていただくことは、契約内容に反することでして・・・」

佐藤の発言の語尾は弱くなっていた。当然だろうな。

「とにかくまずは放送協会に私がもう一度確認しましょう。私も腑に落ちませんので」

多分本省に聞け、という事になるはずだ。どっちでも良いから答えてくれれば良い。それにしても俺の部隊は便利屋か?


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