三十路のメイドさんは潜入捜査官?
部下に言われた通りに動くと言うのは、別段どうこう言うようなものではないと思っていた。しかし静の立てた作戦にはどこか反感を持ってしまう。何と言うか忌々しい。狸娘に顎で使われているような不快感に覆われている。作戦内容自体は単純なものだ。鈴木中尉が自身の小隊を率いてこの店を強襲して全員の身柄を拘束。そして、俺と静は何も知らないメイドとして身柄を拘束された体を装い、事務所の家捜しを行う。それだけのことだ。
それまでは素知らぬ顔で働いた。愛嬌を振りまいてみても良かったが、死ぬほど似合わないだろうというのが分かり切っていたので止めた。20時を過ぎた頃だ。静の奴が近づいてきた。
「そろそろです」
頷く。しかし結構な時間働かされたものだ。足が痛い。立ち仕事は慣れないからな。運動不足のせいかも知れない。今は散歩するぐらいしか体を動かせそうもない。スポーツクラブ?いやいや、習慣化する余裕がないだろう。月会費の負担よりも時間的な余裕が無さすぎる。などと思っていたら、表で客引きをしていたメイドさんの悲鳴がした。来たな。
「全員その場を動くな!検非違使庁だ!事業主は何処だ!出てこい!」
鈴木だった。「実践」に来たという事だろう。部下に指示を飛ばし動かす様は正に指揮官のそれで、それこそが俺に欠けているものではないか。そう思えて仕方が無かった。
奥の方から怒号が聞こえる。そういえばマネージャー以外にも頭が悪く品が無いとしか思えない男達がいて、挨拶をさせられたっけ。俺の歓迎会を今晩する予定だと言っていたから、顔を会わせるのも嫌な連中の「お相手」をさせられるところだったわけだ。そんなことにはならないという確信が有ったとはいえ、挨拶をさせられた時点では生きた心地がしなかった。怒号はすぐにかき消された。抵抗する場合、抵抗できないようになるまで蹴る殴ると、静は言っていたのでその通りになったのだろう。
メイドさん達も次々と身柄を拘束される。とは言ってもこちらは別に軽く事情聴取するだけだ。皆大人しく、機関拳銃をぶら下げた兵達に連れられて店外に移動させられていった。俺達は事務所の中の書類等を漁る。当然スマホ・パソコンは押収だ。これらからどれだけの情報を抜き取れるかは分からないが、分析に回さなければ。ノートパソコンの上にスマホを載せて、バックヤードを出る。さてどうしたものかと思案しつつ、店内に戻ると鈴木に出くわした。
「おい、メイドは全員身柄を押さえたんじゃないのか?何をしているのかな?」
と周囲に居た兵に普段通りの話し方をする。
「ちょっと待って下さい。私です。六塚です」
俺の声は悲鳴に近かったと思う。
「おっと大隊長殿でしたか」
「あっ、はい。そうです」
こちらはメイド服なのだから気が付かなくても無理はない。
「想像以上にお似合いですね。新型は、大隊長はメイドさんとして潜入捜査に従事してもらえば良いなどと、寝言を言っていましたが、案外そうでもないのかも知れませんね。お似合いですよ、大隊長」
乾いた笑いしかできなかった。おのれ狸娘!覚えてろよ!




