悪辣なる手口
地下鉄に乗ったらこのまま官舎へ帰るのか、どこにあるやら分からない市営住宅とやらへ向かう事になるのか、確認していないことに気付いた。静の奴め、ニヤニヤと笑いながら、
「えっ!今頃そんなこと確認しているんですか?」
ときた。
「もう一回つねられたい?」
と真顔で聞いたら、
「や、やだなあ軽い『いじり』ですよ~」
などとほざいてくるので、
「『いじめ』でしょ?ふざけない」
「はいっ!」
急に大人しくなった。不気味なほど。何事かと思って、にわかに俯いた顔を覗き込もうと思ったら、携帯電話が電子メールを受信する。
【対象者に含めるべきかどうか迷っているのは、脅されて協力させられている奴らが居るから何ですね。そいつらを『お掃除』するか、それとも今度は我々が引き続きその弱みを利用するか?そこなんです。どこまで事情を飲み込ませるかもありますし。それで今晩は官舎にお邪魔します。その辺を詰めましょう】
【二神大尉には話を通したの?弱みを握るというのは、どういうこと?】
【少佐殿に許可を得てからお話しすることにしています】
【何を言っているの!中隊長の頭越しに話を持ってこない!それが組織の論理です!】
静はにわかに膨れっ面をこちらに向ける。車内が混雑してきたので、少し座席を詰めてお互いの距離がさらに縮めると、ご機嫌になったようだが。
【いいじゃないですか・・・お願いします・・・私、話を聞いてくれなきゃぐれますよ?】
などと懇願してくる。うざったいので、
【じゃあ、呆けてやる!】
と返してやったら、横から思いきり嫌そうな顔を向けてきた。
官舎へ帰ると巴が、
「お帰りなさい!しんどかったでしょう!疲れてはるでしょっ!」
と絶叫せんばかりの勢いで抱き着いてきた。
「苦しい」
と述べたら、直ぐに解放してくれたが。
「いや~ほんま、お疲れさまでした。晩飯用意してますから、味わって食べて下さいね」
にっこりと微笑むが次の瞬間、鬼の形相になる。
「わあ、ありがとうございます、准尉殿。お相伴に預かりますね」
静がそんなことをほざくからだ。
「預かるなや!アホ!しばき倒すぞ!」
激怒するのを何とか宥めたが、何で俺がそんな事をしないといけないのか?へらへらと笑う静を睨みつけたが、本人はどこ吹く風だ。
何とか食卓に着くのにどれくらい時間がたっただろう?計っていないから、5分なのか10分なのかは分からないが、しばらく揉めたのは本当にイラっとした。2人に言い含めたがどこまでちゃんと聞いていたやら。取りあえず食事をしながら静の話を聞くことに。
「要するにですね、アホな連中が騙されて犯罪行為の片棒を担がされている訳ですね」
「己みたいな奴がな。それで親近感持っとるわけかいや」
巴は茶々を入れる。
「手口が巧妙なんですよね。欲張りでアホってどうしようもないですよね。そう思いません?」
静はそれを無視して俺に同意を求める。
「欲張りでアホ。それは狸やんけ、狸娘」
又もや茶々を入れる巴。当然の様に静は無視して話を続ける。
「『お金配ります』なんてねえ、そんなことあるわけないでしょ?SNSでそんなこと呼びかける奴いますけどね。嘘に決まっているじゃないですか?」
「そうね。嘘に決まっている」
「そうですよ。そんな嘘ついて個人情報をタダでゲット。それも騙されやすくて欲が深い、アホの個人情報。飛び切りのお宝情報ですよ。口座番号は言うに及ばず、住所も電話番号も。この申し込みフォームへ入力してくださいってやったら、それらを一気にゲットだぜ!イエイ!」
そんなニュースを聞いたことがあるような?確かこんな感じだった。
「その口座に犯罪収益を振込で入金させて、『間違えてお金振り込んでしまったので返して下さい。使いの者に取りに行かせますから、渡してください。手間賃として1万円差し上げますから』なんて言って出金させて、使いの者に『賃金』を渡してそれを取り上げる。想像力の無い人間にはした金を渡してお先棒を担がせる。そういう手口でしょう?」
そんな風にサラッと言ってやると、静は鯉の如く口をパクパクさせる。
「少佐殿・・・、最低です!そんな犯罪行為に関わっていたなんて!」
こちらを指差して非難する。巴は当然怒る。
「このクソ狸!今日こそ決着つけたる!表出ろや!」
「キャー、怖い~助けて~」
静はさっき俺を指弾したのに、棒読みのセリフを読み上げて俺の後ろに隠れようとする。仕方が無いので答えを言うことにした。
「少し考えれば分かることでしょう?犯罪行為で得たお金を出金した以上、犯行グループの一員に決まっているし、運んで渡した者も同じ。『知らなかった』じゃ通らないわよ。マネーロンダリングの一種よね、これって」
そう指摘してやると、巴は大いに感激したようで、
「ウチは感動しました!流石は少佐殿!良う分かってはる!」
拍手までしてくれた。無図かゆい。
「で、問題はですね、こいつらをどういう風にとらえるか、ですよ。事情を知らなかったからって被害者扱いはできませんよね?それを盾に、黙って欲しいのやったら俺らを手伝えって、安い脅しに唯々諾々と従っているわけですからね。居抜きで物件を没収したいから、ついでに運用にかかわる人手も欲しい所でしょう?なので、今度は我々が『ご主人様』になるか、それとも『お掃除』の対象者にするか?悩ましいですよねえ」
ちらちらと静はこちらを見る。俺の答えを待っているようだ。
「二神大尉にお話を通してからにしなさい。私の方針は全員『お掃除』よ。こびりついた汚れは一掃すること」
「うわっ!過激派!」
静の目を輝かせての答えに巴は憤り、睨み合い再開。
「やめなさい。怒るわよ?」
音量を落として言ってやると効果覿面。2人とも鯱張った。既に日付は変わっていた。俺は今日も、そう、今日も「出勤」しなければならない。メイド服を着てご奉仕だ。嗚呼!




