俺自身の言葉で
決裁作業を行っていたら、岡田がノックもせずに入って来た。
「いつ目標面談を行いますか?二神大尉に決めて頂いたから、印象に残っていなくてお忘れですか?」
言ってくれるじゃねえか!その通りかも知れないね!どうも俺は同時進行で多数の処理を行うなんて器用な真似は出来ない。だから書類を読み込んで決裁承認をしているとそれしか見えなくなる嫌いがある。それを岡田に指摘されるとは。悔しいがやらなければならないことなのだから、さっさと済ませるに越したことは無い。巴が執務室の方から心配そうにこちらを見つめている。そんな顔するなよ。そう言いたかった。
「分かりました。中隊長から順番にと思っていましたので・・・、岡田さんは作成が完了したという事でよろしいですね?」
「もちろんです!」
力強い返事が返って来た。
「そうですか。ではそちらにお掛けになって下さい。早速始めましょう」
「分かりました。では、目標達成シートを持ってきます」
鼻息の荒いことだ。しかし持ち込んできて得意げに見せびらかしてきた目標達成シートは、全く持って中身の薄いシロモノだった。何だこりゃ?決意表明めいた言葉が列挙されているが、肝心の目標について数値化されていない。中身があやふや過ぎて、全体として小学生の読書感想文のようだ。
「岡田さん。これではいけません。目標達成に至るロードマップを作製しろと、本省からの事務連絡にありましたが、ご覧になっていないのですか?これでは目標達成シートとしては認められません。あなたは将校なのですから、下士官兵とは一線を画した目標を掲げた上でそれを達成する必要がありますよ?」
当然岡田の表情は怒りに満ちたものになる。流石にそれをそのまま言葉にはしなかったが。
「では、そのお手本を少佐自らが示して頂けますか?」
言ってくれる。まあ、そう言いたくなるのは当然だろうが。
「私が達成しなければならない目標と、あなたのそれとは比較のしようが有りません。あなた自身で考えて下さい。目標を立てることではなく、実行して達成することが問われているわけですから」
「そんな一般論を聞かさせれる謂れは有りません。少佐ご自身の言葉で目標を示して頂きたい。そう言っているんですよ!大隊の目標を二神大尉が立ててどうするんですか!それをどう思っているか?それを聞いているんです!」
「あなたは私が『お飾り』でいて欲しいのでは?」
一瞬ひるんだのかと思ったがそうでは無かった。
「そうですよ!それがどうかしましたか?」
その目に迷いは無かった。いっそ清々しい。
「私が作成しても、本省は二神大尉が作成したとみなしますよ。どうやら別役中佐の仕事を押し付けられていたようですから。それを上の方も把握しているようですし」
「それがどうしたと言うんですか!」
「お二方は私の知る限りGR04の実証実験を行っていた頃から、コンビを組まされていたようですからね。実務に精通した二神大尉がおよそ全てを掌握していて、それは今もそうだということです」
「だから何なんですか!話をはぐらかさないで下さい!」
「本省としては引き続き二神大尉をこの部隊の実質的な指揮官ととらえているという事です。そして私がその上に乗っかっている重し。そういうことです。お飾りなんですよ。それで良いでしょう?」
いささか開き直りすぎだと思わないわけではなかった。しかし、岡田ははっきりと俺に敵意をむき出しにしている。この辺で何か釘を刺しておかなければ。しつこく言わないと分からない奴っているからな、確実に。
「いい加減にして下さい!私が聞きたいのは少佐自身の目標ですよ。少佐自身の言葉で書かれた!それを指し示して下さい!」
「その必要は有りません」
一旦眼鏡を外して目頭を押さえる。
「はあ?何を考えているんですか⁉」
眼鏡を掛けて右手でフレームをつまんで睨みつけてやった。
「言っておきますが、あなたもそれ相応に期待されてこの実証実験部隊へ配属されているはずです。あなたが私に向けて仰ったことは、全てあなた自身に跳ね返ることになりますよ?あなたは将校なのですから、当然下士官兵とは求められるものが違います。あなたも上に立っているのですから、もう少し考え直してから作成して下さい」
目標達成シートを岡田の方に突き返す。悔しそうな顔。しかし、自分の立場をわきまえていないのはどうなのか?それは俺自身にも言えることかもしれないが。




