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予想通り的には当たらない、そんなものだよ

 射撃訓練をするにも申請書類が必要なのは盲点だった。しかしここは「お役所」でもある。それを考えれば拳銃の使用許可だの、使用する予定の弾丸の数についての許可が必要なのは、ある意味当然だろう。

 それらは桃が張り切って作成した。分隊・小隊・中隊ごとの決裁印は省略して巴が決裁印を押印した。それで俺が決裁承認すればそれで終了だ。さっさとファイルに閉じればそれで良し。作業としてはどうということは無い。これで書類関係は終わりだからと、武器保管庫の鍵を金庫から取り出したら、「銃剣類管理簿」と「装備品管理簿」を記入しなければならないと、押しとどめられた。ああ、そう言えば管理簿と実物の点検をさせていたな。言われて気づいた。何を使うのかは分からないから、記入は任せることにした。第1中隊の使用履歴がズラリと並んだ中に、ポツンと大隊司令部の使用履歴が記入されるというのは、とても不審だ。監査でこれが見つかったらどうしようという思いが一瞬頭をよぎったが、まあいいやそんな事。割り切ろう。そうなったらそうなったで良いじゃないか。

 武器保管庫の鍵と射撃訓練場の鍵を手に、まずは武器保管庫へ向かう。一応岡田には少し席を外すとだけ言い置いた。相変わらずむすっとした、到底上官相手とは思えない態度で無言を貫く。俺の殺意の何割かはこの女に向けられていて、だから鬱憤晴らしに射撃訓練をするわけだが、そんなことは関係ないという顔をしていやがるのが憎たらしい。

 武器保管庫に足を踏み入れてみると、整然と武器・装備品類が並んでいる様に圧倒された。改めて自分が軍隊式の秘密警察の一員であることを思い知らされる。

「はい、これです。使うやつは。『種子島2500』。我が軍の制式採用拳銃です。45口径の強力なやつですよ。こいつで的をガンガン撃ちまくりましょうね」

巴から渡されたそれはズシリと重い。渇きが押し寄せ、喉が焼け付くような気がして溜まらない。ヤバい。かえってストレスになっているのかも知れない。だが、やってやる。これで鬱憤を破壊衝動を吹き飛ばしてやる。ぎゅっと握り締めていると、

「あ、弾倉は外してあります。それと安全装置は掛けたままにしてありますから、射撃場で説明するまでグリップ以外を握ったらあかんですよ?良い子の約束ですよ?」

ウインクしてくる巴は本当に眩しくって仕方が無い。こんな美人が俺に対して満腔の好意を持っているという、信じがたい事実。それは確かに俺の前に有る。だが俺はどこまでその好意に応えているのか?こんな些細なきっかけで憂鬱な気持ちは深く沈み込んでゆく。深く暗い海の底から水面を見上げると、差し込んでくる一筋の光。それに縋らないと当面は仕方が無いな。

 そんな俺の心の中の嫁に手を引かれ、射撃練習場へ。巴の手は柔らかかった。

「取りあえず、どんなんでもええから構えてみてください」

言われるがまま的に向かって正対し、足を若干開いてグリップをしっかりと両手で握り締め両肘で体に固定する。

「いいね!」

巴はこちらに向かってサムズアップしながら最高の笑顔を向けて来る。

「せやけど、こんな感じにするもんでっせ」

後ろに回り込み、柔らかい手で俺の俺の手を包み込んで姿勢を修正する。たまらん。一言で言うとそれ。思いきり胸が当たっているしね。うん。タマランチ会長(古臭いネタだ)。

 何メートル先に的が有るのかは聞いていない。確認する必要も無い。当たるはずが無いと分かっているから。そんなことが分からないほど自信家じゃないからな。装備一式を身に着け、的と向き合う緊張感。この緊張感で渇く感じ。まるで戦場に居る感じだ。

 教えられるまま的に向けて弾丸を撃ち込む。引き金を引く度に腕がビリビリと痺れる。想像以上に大変なことだ、これは。意識も体も持って行かれそうだ。だから事前に予想していた通り弾丸は的には当たらない。明後日の方向に飛んで行った。それでも2発だけ的の端っこの方に当たっていた。それを巴は褒めてくれた。

「いや~上出来ですよ。初めてなんやからこんなもんです。拳銃なんて意外に当たらないものなんですよ。だから訓練が必要なんです。結果は気にしなくても良いでしょ。気分すっきりしました?」

頷いてやったらことのほか喜んでくれた。目鼻立ちの整った清楚系の美人女優が、自分にだけとびっきりの笑顔を向けてくれる。最高だよ。もうこれだけでも満足して「あちら」へ行けそうだよ。

「気分すっきり。ええことですよ。定期的にやってみます?」

それは流石にどうか?

「考えておくわ。イラっときたらそんな気分になるかもね」

「はあ。そんな気分にならへんようにウチが全力で支えますよってご安心を、お嬢様」

手を差し出してくる。

「あ、こっちに拳銃渡して下さい。武器保管庫にしまっときます。ついでに鍵もお願いします」

「じゃあ、お願いね」

巴は駆け出してゆく。俺はのろのろと大隊長室へ歩き出す。帰ってみるとそこには決議書と報告書の山。当然のように聳え立つ山を見て、俺の意識はここではない何処かへ向けてさまよい始めるのだった。

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