鈴木と静は何かを企てる
鈴木は決議書を読みながら、
「少尉」
と手招きをして呼びつける。
「数字間違ってない?」
「いえ、そんなはずは有りません!確かなものです!」
少尉はかなり動揺しているようだ。
「もう少し少なくなかったっけ?」
「いえ、ですから・・・」
しかし鈴木がトントンと書類を叩いている、その個所を見て間違いに気づいたようだ。
「すいません。勘違いしていました・・・」
「だろう?同じ協力者ではあってもだ、単価が全然違うだろう?そこ間違えちゃ駄目だよ?」
そして、少し笑った。
「まあ、無理も無いか。彼、ちょっと前までこっちとは関係ない『協力者』の事務処理を行っていたわけだからねえ。でも、それをスルーしちゃ駄目だって。その辺も考えて決議書には目を通しなよ。いつまでも学生気分じゃ、困るのは君自身だぜ?」
少尉は苦笑している。鈴木は中々手厳しい。
しかし気になる。「別の協力者」とは何だろう?ひょっとして「ともだち」のことか?
「あ、それと私は今度の『お掃除』は、『養成職員』の連中と一緒に出るからね。決議書の類は早めに提出させて。私が出撃している間は、司令部へ決裁承認をお願いすることになるから、今以上にきっちり点検した上で決裁に回すように」
鈴木は少尉に言い渡す。それにしても聞き捨てならない。一体何が企てられようとしているのか?判然としないまま報告書が上がってくるまで放置で良いのか?
「鈴木中尉ご自身も『お掃除』とやらに参加なさるのですか?」
さてどういう答えが返ってくるか?
「ええ。やはり部下の信頼を得るにはジッセンあるのみですよ。一緒に汗をかく必要があります。それが私の持論ですので」
軽く笑うが、こちらは気が気じゃなかった。「実践」なのかそれとも「実戦」なのか、どちらともとれるだけに、ヤバ過ぎる。
「気になりますか?」
「ええ、想像以上に色々なものが動いているようですから、報告書を読むだけでも理解が追い付かない部分が有りまして」
「どんな仕事であれ、ヒト・モノ・カネは動きますからね。組織によっても違うでしょうから、勝手が違う部分は当然あるでしょうね」
頷いた後こちらの目を見据えて、
「でもそんなことより気になっているのは、私が『お掃除』に出るということでしょう?或いは新型が企画している案件ですか?」
と、問いかけてきた。静が企てている案件!鈴木の所に話が舞い込んでいるのか!
「どちらにしろ報告書は提出しますよ。ご安心を」
決議書に目を落とす鈴木に、
「その企画とは何ですか?私の所にも2度ばかり何か画期的な企画が有るという趣旨のことを述べていたのですが、何のことやら見当がつきませんので、どういうお話がされているのかご教示いただけませんか?」
質問したら、意外なほどの速さでこちらの目を見てくる。
「お話を聞いていらっしゃらない?」
いささか厳しい表情だった。最も、俺が困惑したと解釈したのだろう。次の瞬間元の柔和な表情に変わった。
「失礼。新型は『少佐にはきちんと説明して了承が得られました』と言っていたので。ふふっ、それにしても何と言うか」
鈴木はなにか愉快でたまらないのだろうか?笑いそうになることを、必死にこらえているようにしか見えない。少し俯き加減だったが、急にこちらを見つめて来る。
「研究所の技官の方々は、画期的なロボットを開発なさったのですね。そう思いませんか?我々に嘘をつくなんてね!」
ハッハッハッ!鈴木は、一瞬引くほどの大きな声で笑った。
「さあ、どうとっちめてやろうか?」
だが、次に出た声は小さく低いものだった。
「まあ、この件はですね、新型の口から説明させます。その際は、鈴木から指導を受けたことを確認なさって下さい」
「そうですね。分かりました。確認するようにします」
もうこの辺が潮時だろう。俺は執務室を辞すことにした。




