どうですか、可愛い私の艶姿
決裁作業を行っていても当然その間に内線電話は鳴るし、大隊長室に出入りする者は後を絶たない。そうこうしている内に、気づいたらお昼前になっていた。そして又も電話が鳴る。
「どうも、古田です。犬萩と犬樫ですが、どうでしょう?もうすぐ日常点検をしないといけませんが、前倒ししたいのです。この後第1中隊配属の機体の整備をしないといけません。余裕を持って作業をしたいので、2体をこちらに出頭させて頂けませんか?」
「はい。分かりました。どのぐらいかかる予定ですか?」
「最大で2日間を予定していますから、明日の定時終了前後までに作業を終わらせる予定です」
「そうですか、了解です」
返事をするのに被せる様に静の能天気な声が響く。
「じゃ~ん!どうですか!あなたの可愛い部下の凱旋帰還ですよ!褒めて下さい、良くやったと!それが私の明日への活力となるのですから・・・」
びしっと何やらポーズを取っている。何日ぶりかに顔を会わせたらこの有様だ。
「GR06がそちらにいるのですか?」
受話器からは古田の驚いた声が伝わって来た。
「あ、古田技術少佐が何か言っていますね。私を褒めて下さっているのでしょう?これで上からの評価はますます高まりますね~。胸がドキドキします」
静は陶酔した表情で自分の世界に入り込んでしまっている。
「・・・ええ、こちらに居ます。私に褒めてもらいたくてここにやって来たのでしょう」
「こちらに来るよう命じたはずなのですが・・・、六塚さん、そう伝えて下さい。それとさっき申し上げた件についてもお願いします」
「ええ、分かりました」
電話は切れたので、腰に手を当てどや顔をしている静に苦言を呈する。
「研究所に先に出向かないといけないのでしょう?こんなところで油を売っている場合じゃないでしょう?あなたの活躍は報告書で読んだわよ?」
たちまち静の顔が歓喜に包まれる。
「どうでした、どうでしたか?感想は?私って、あんな失敗作なんかより少佐殿のお役に立っていますよね?この可愛らしさをもってすれば、悪党のやろ・・・男性たちなんてか目じゃないですよ!」
左手の人差し指と中指で、左目を挟むようにするポージング(何て名前だろう?)を決める。
「うん、何から言えば良いのかな?まずはここへ来た理由から説明してもらおうかな?」
「え~、さっき言いましたよ?可愛い私の艶姿、見たかったでしょう?ですから、真っ先にお見せしに来たのです!私って健気でしょう?」
今度は拳を重ね合わせて顎の下に持ってくる。
「それだけじゃないのでしょう?」
「もちろんです!」
腰に手を当てふんぞり返る。巴もこんなポーズ取っていたな。
「お楽しみに待って頂いていた新企画ですが、ようやく実現しそうなんです!その喜びを分かち合いたくて、真っ先に馳せ参じたのですよ、私。どうですか?」
「そう言えば前に言っていたけれど、何なの、それ?」
「知りたいですか?聞きたいですか?」
ニヤニヤしていやがる。何だか激しくムカついてきた。
「もういいから!早く犬萩と犬樫を連れて研究所に行きなさい!」
言い放ってやるとすっきりした。さっきまで目を通していた報告書を読む。そうすると、
「そんな、ひどい!ああっ!少佐殿からの寵愛を受けられずむせび泣く、可愛そうな私!」
などと小芝居を始める始末。いちいちポーズまで決めるのだから、二神から習ったに違いない。
「なあに、あなた二神大尉から小芝居を習ったの?」
「いいえ、私の可愛そうで泣けてくる心情をそのまま、ありのまま表現しただけです!」
きりっとした顔でこちらを見つめてくる。
「そう」
アホらしいので報告書に目を落とす。
「私、理解を得られないのね・・・、悲しいわ・・・。この悲しみをどうすれば良いの?」
相手にしなければそのうち止めるだろう。案の定、あの手この手でこちらの気を引こうとするが、徹底的に無視してやったら、
「ううう、研究所に連行されていく可愛そうな私・・・」
などと言いつつ、こちらをちらちらと伺いながら大隊長室を出て行った。




