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二神大尉は目標設定を代行する

 定例会議での報告は聞いておかねば。あまり人前に出たくない心境ではあったが、仕方ない。俺がセクハラ被害にあったという事が、議題に上るのは目に見えているからな。一応出席はして成り行きはみておかねば。

 会議が始まる前に川本が大隊長室へやってきた。

「お疲れ様です。あのう、少佐。セクハラ対策委員の会議っていつやります?僕も委員ですから今回の件を検証した上で、研修ですとか対策を講じないといけませんから。すぐには無理としても近日中にやる必要があるかと」

「そうですね。しかし、ごめんなさい。何だか私のせいで皆さんを巻き込むような感じになってしまっていて・・・」

「いやいや、何を言っているんですか。吉岡中尉の言った事、嫌だったんでしょう?」

「ええ」

「それならセクハラです。きちんと対応しないといけませんよ。それでですね、明日管理職向けに研修を行って、下士官兵は近日中に順次行うという形が良いと、さっき西岡少尉からそういう申し入れがありまして。僭越ながら音頭を取りますと言っていました。」

「そうですか。今日の会議で伝達しましょう。それでですね、お任せして良いのでしょうか?私が委員長なんですけれど・・・」

「そこは良いんじゃないですか?本人が是非にと言っているわけですから」

 そう言えばこういう委員は岡田に押し付けてやろうとして失敗していたのだった。岡田の奴、内線電話で通告したら不貞腐れた態度で西岡少尉に押し付けようとしたので、はらわたが煮えくり返るほど頭にきた。そんなことを思い出した。結局西岡が、2つなら引き受けても良いと言ったので(岡田はそう主張した)解決したのだが。そのうちの一つがセクハラ対策委員だったのだ。

 今日の定例会議は、川本を始め委員に任命した者は全員出席しているようだ。いつもより顔ぶれが多い。 

「それでは本日の定例報告会議を始めます。まず初めに、私がセクハラ被害を受けた件について。聞いている者も多いかと存じますが、第1中隊の吉岡中尉が、勤務中に突然私のことを好きだと、一目惚れだと告白してきた件です。独断で自分の小隊を動員したのも、好意をもっている私に実績を積ませて、本省の覚えを目出度くさせるためだと。これも同時に打ち明けて来ました。明らかなセクハラ行為であり、規定に基づいた処分が行われることになろうかと思いますが、それは別にしても年に1度は研修を行い、性的なものであるなしに関わらず、嫌がらせのない職場づくりを目指さないといけません。よって明日の定例会議終了後に管理職対象の研修を行い、それ以降順次下士官兵を対象に研修を行うという事にしたいと存じますが、特に異議は有りませんね?」

ぐるっと見渡したが特に目立った反応は無かったので、

「特に反対意見は無いようなので、決定という事でよろしいですね?」

と問いかけたら異議な~しと誰のものか分からない声が返って来て、室内に失笑が漏れる。

「では、そういうことで。それでは本題に移りましょう。第1中隊から報告をお願いします」

 その後は取り立ててどうこういう事の無い報告が有っただけだ。相変わらず第1中隊は「お掃除」の結果を報告してくる。第2中隊はアブない輩ときな臭い情報を掘り起こしてくる。第3中隊はそいつらをSNSであげつらい、個人情報を晒す。そしてどうでもいいネタをアップロードして「報道機関」へ提供するのだ。それが俺たちの日常だ。それ以上どうということは無い。一通り終わったところで、

「その他に何か有りますか?」

と問いかけたら二神が、

「今般のことで大隊長はだいぶ神経が参っておられる。それを押して職務を遂行しておられると、推察するところ。なので、この不肖二神四郎が目標設定を代行することとした次第。大隊長としては、わしの指導・助言を受けて作成するという意気込みを見せておいでたが、状況が変わったのでわしが代行します。何せ早急に大隊全体及び大隊長自身の目標設定ができんと、目標設定面談ができんし、本省からお目玉を食らうと、かような状況であることを理解頂きたいところ。よろしいですな。明日にでも作成して提示しますぞ?」

これも皆異議はないようだった。

 会議が終わり、それぞれが持ち場へ戻る中、岡田がすれ違いざま、

「ふん、何だ。大したことでもないくせにセクハラだなんて騒ぎ立てて。仕事は部下に押し付けるのだからな!いいご身分だこと!」

他の者にも聞こえるよう、これ見よがしに述べた。予想していたことではある。岡田の事だから、「高文組」に対する反感を元々持っている以上、そいつが選ばれた者としてふさわしからざる動きを見せたら、確実に嫌味を述べるだろう。それは間違いないと思っていた。俺だって、元の俺のままならやっぱりそう思っていたに相違ないから。

 思いきりムカついたが、女言葉のまま適切な言葉遣いで反論する気にはなれなかった。言い返したところで口喧嘩の様になるだろうし、どちらにせよ心の中に滓のように残るだけだ。なら黙っていた方が良い。ところが、巴にとっては見過ごすことのできないことだったようだ。

「岡田はん!あんたなあ、嫌がらせのなかでもかなりひどいもんやぞ、セクハラって!あんたかて、何の興味もないおっさんから愛を囁かれたら、しばらくへこむやろ!」

あんた、という言い方に引っ掛かるところが有った。俺でさえそうなのだ。岡田にすれば逆鱗に触れたことに当然なる。

「何だと!ロボットの分際で!貴様のその恰好は何だ!貴様は大隊長専属のメイドだろうが!しゃしゃり出て来るな!」

怒髪天を衝いた。当然だ。

「そんなに怒らんでもええやん?頭の悪いあんたに『セクハラ』言うやつがどんなもんか教えてやっただけやで?」

飄々とした様で言い返した。

「貴様!」

岡田は詰め寄る。二人の間にはかなりの身長差があるが、岡田は巴の胸倉を掴む。

「止めておくれやす。そんなとこ掴まれたら破けるやろ?」

流石に二神と川本が割って入る。他の者もだ。

「岡田!やめんか、馬鹿たれ!」

二神は叫び、岡田を羽交い絞めにするよう桜に指示する。

「何だと!ヒラメ野郎!今更上に色目を使ってもどうにもならんだろうが!」

罵声を上げる岡田を桜は羽交い絞めにした。

「おばちゃん、大きな声出したらダメ!」

「何だと!ロボットの分際で!放せ!」

暴れる岡田を諭すように川本が話しかける。

「岡田中尉。僕やジロさんに体触られたら嫌でしょ?だからそこのロボットに命じたわけで。分かるでしょう。いや分かってもらわないと。いい年したおばちゃんなんだから、おっさんにちょっと触られたぐらいで騒ぎ立てるなって、そんな言い方は無しですよね?そうでしょう?」

「だから何だ!」

岡田はまだ騒ぎ立てる。

「おばちゃん。あんたは委員を西岡少尉に押し付けたでしょ。自分のことを棚上げしたらあかんで?」

巴は岡田に向かってあかんべえをする。すると、

「何だと!ロボットの分際で!」

という声が全く別の所からした。机上のタブレットからだ。岡田が巴に詰め寄る場面が映っている。

「マルゴには映像を記録する機能がついています」

梅の声だった。

「なので、今の状況は全部記録されています。本省に報告することも可能です」

その場の空気が一変する。特に岡田の顔色が変わった。

「もうこの辺で止めましょう。こんなことをさせるのは本意ではありません」

西岡はそう述べた。

「明日定例会議終了後に、管理職対象にセクハラ防止のための研修会を開催します。岡田中尉。必ず出席してください」

 西岡がこちらを向いて頷いたので、俺は会議終了を宣言し大隊長室へ籠ることにした。何だろう?揉め事は嫌いだ。どうしてこんなことに?これで上手く事態は収拾されたのか?いや、そもそも俺が吉岡の言うことなど、柳に風とばかりに受け流せばよかったのか?頭の中をぐるぐると色々な事が駆け巡り、俺を苛む。

 一応、大隊司令部の執務室は落ち着きを取り戻したようだ。巴と桜、それに梅が心配そうに中へおずおずと入って来た。俺は醜態を晒している。そんな自分と、いつさよならできるだろう?



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