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セクハラ対策委員会を招集せよ!

 しばらく椅子に腰掛けてぼうっとしていると、巴が血相を変えてやって来た。そして、きつく俺を抱きしめる。

「もう大丈夫ですよ。ウチがついてます。あの人はお説教食らってますし、当面会わさんようにします。せやから安心して下さい」

俺がうんと答えると、

「ほんなら、ウチがお姫様だっこして差し上げます。やってみたかったんや、これ。うひひ」

最後の方は顔がにやけていた。

「あ、すんまへん。嬉しくて、つい」

がばっと持ち上げられた。何だか怖いような気もする。素早く巴の首に手を回す。怖いといってもジェットコースターが怖いのと同じ感覚だ。巴のことを嫌いになることなんて一つも無い。だが巴は俺の中身がおっさんだと知らないから、ちょっとまずかったと思っているのだろう。

 巴はそのままゆっくりと医務室へと向かう。何故かは分からないが、階段を降りて行くつもりらしい。

「医務室には吉岡中尉もいるのよね?」

無言を貫いている巴に話しかけた。

「あ、今話しても大丈夫です?」

巴はこちらに向けて微笑んだ。

「ウチ、どう話しかけたらええか分からへんから、取りあえず黙ってましたけど、お話ししても大丈夫ですか?」

「うん。良いわよ」

「あの人は、医務室から第1中隊の司令部へ連行されて、お説教ですわ。安心して下さい。それにしても人工知能って悲しいですね。ウチ、こういう時は黙って寄り添う。そうするんやでって入力されてますけど、具体的にはどうするべき何やろって。ちょっと悩みました。おかしいですか?」

「おかしくない。そういうものでしょ?あなたはちゃんとしてくれているから、これで良いのよ」

満面の笑みが返って来た。

「良かった。うちはいつでも少佐の味方ですよ。これはホンマのことですからね!」

「有難う」

そんな気持ちがもらえるというのは、俺にはもったいないくらいだ。果報者だ、俺は。

 医務室へ入ると、待ち構えていた2体のメイドロボットへ引き渡される。ひと心地ついた気分だ。

「災難だったね。まあ、そこに掛けたまえ。それとも今は私の顔を見たくないかね?それならそれで構わない。しばらく横になっていると良い」

軍医の森元が話しかけてきた。巨体を乗せた椅子を軋ませながらだ。流石に無神経な事は言って来ない。俺の意識はまだぼうっとしている。吉岡がそれなりに真剣に俺の事が好き(但し顔が好きなのだろうが)だというのは、頭では理解出来始めたが、心がそれを拒否する。あの年齢ならまだ性欲に支配されている部分が残っているのも、自分も通っている道なのでそれも理解できる。しかし、俺はおっさんなのだ。何の因果で男に告白される謂れが有るのか?それも仕事に関するいざこざの流れの中で。吐きそうだ。森元と話をしても解決しそうもない問題だ。だから無言で椅子に座るだけにした。

「話をしたくなければ無理に話す必要は無いよ?椅子に腰掛けたからといって無理に話をさせる気は無い。それとも私相手に一切合切を話してみるかね?気持ちを整理するのにいいかも知れない」

「そうでしょうか?」

「悩みというものは案外人と話してみると解決することも多いものだよ。君は寡黙だから分からないかもしれないがね。無理強いする気は無い。話たくなければ黙っていても良いんだよ」

意外にも森元の声は医者のものだった。初対面の時に感じたセクハラスケベ爺という印象はどこかへ消え去ったかのようにも感じられた。

 だからといって話をする気には到底なれなかった。そもそも俺は女性ではなく、おっさんなのだ。ある意味全ての原因はそこにある。そこを誤魔化さねばそもそも「話にならない」のだ。上手く説明できるはずも無し。隔靴搔痒だ。

 それでも一応事実関係の説明はした。当分吉岡とは顔を合わせたくないことも。森元は何度も頷き、質問してきた。

「それで君はどうしたいのかね?或いはどうして欲しいのかね?」

「それはどういう意味ですか?」

「言葉通りだよ。今後の事だよ。今はまだ考えられないかもしれないが、配置転換ということもあり得る。例えばそういう事を望んでいるかね?」

森元は背もたれに身を預ける。たちまち椅子は不快な悲鳴を上げる。

「いえ、そこまでは・・・。今は顔を合わせたくは有りませんが、別に憎いわけではありませんから。単に特別な感情を持っているわけでは無い人から好意を向けられても・・・そういうことです」

「うん、理解できるよ。興味のない異性から好意を寄せられてもねえ・・・。あ、そうだ君、きっぱりと断ったのかね?」

不意に森元は、ある意味当たり前のことを聞いてきた。

「え?話の流れで気が無いことは理解できたはずですよ?だから泣き出したわけで」

「だが理解していないかも知れないね。早急にセクハラ対策委員に相談して、そのことを本人にきっちり伝えた上で、処分しないといけないね。今、大変な状況ではあるだろうが、後の尾を引く方が不味いからね。おそらく君が委員長なのだろうが、他にも委員はいるだろう?」

「はあ、そうですね」

「後、岡田と二神にも伝えておきなさい。それとも、私が言っておこうか?」

 それは断った。自分から表現しないと。俺はそれが少なすぎたように思う。もっと自分を出して。勇気の要ることだ、今までの自分の行動を変えるのは。だが、そうしなければ何も変わらない。

 俺は椅子から立ち上がって、両手を組んで思いきり背伸びをした。少し緊張が取れた。礼を述べて辞す。背伸びをして姿勢を戻す時に胸が揺れ、森元の視線がその辺に向けられたのを感じた。だが、不問に付そう。話がややこしくなる。

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