貴女がちゅきだから
俺と巴の声は同期した。
「は?」
理解不能だった。好きな人?誰の事だよそれ?脳が理解を拒否するが、この状況においては、その「好きな人」とやらは俺か巴のどちらかということになるが、手柄を立ててもらいたいという文脈から考えると、自然にその対象者は俺ということになる。
ちょっと待てよ。何の冗談だそれ。俺は男だぞ?おっさんだぞ?外見が30そこそこの女の子だからって、まさか惚れてしまいましたとでも?まあ、そのまさかなのだろう。よって脳は理解を拒否し、室内の空気は氷結する。
「何とか言って下さいよ、大隊長。いや、冬実。僕は貴女が大好きです。一目惚れしました。だから何とか手柄立てて、上からの覚えを目出度くしたいんです。当然それを支えた僕の方も評価されるということやし、一石二鳥やん?」
そして右手で後頭部を掻きながら能天気に笑う。俺はこいつにどう反応をすれば良いんだ?断固拒否なのは当然だが、さてそれをどう伝えるべきか?そこが悩ましく、体が硬直して動かない理由でもある。
「吉岡はん、あんた何言うてはりますの!好きやとか、こんなとこで言うことちゃいますよ!」
巴の叫びを、
「うるさい!黙れ!ロボットの分際で何言うとるんじゃ!黙っとけ!これは二人の問題じゃ!」
と打ち消す。そのうえでこちらに向けてにやけた顔を見せる。本人は微笑んだつもりだろうが。
さて、こんな傍迷惑な奴は今までの恨みつらみを含めて拒否するよりほかはあるまい。
「まず何から言えば良いのか・・・。まずは木曾川にご自分の非を認めて謝罪して頂くことから始めましょうか」
「何でですか!」
俺は吉岡の言う事は無視して淡々と事を運ぶことにした。付き合っていられるか、こんな奴。
「まず、下の階級の者に対する話し方があまりにも酷過ぎます。私は、あなたをあのようには扱っていません。他にも言いたいことは有りますが、まずはそこからです」
吉岡の目を見据えて言ってやったのだが、大して反応は無いようだ。少しはショックを受けて欲しいものだが。
「何でそんなことせなあかんねん」
ブツブツとぼやいている。
「謝罪する気は無いと。そういうことでよろしいですか?」
「当たり前じゃないですか!何でロボットに頭下げなあかんねん!おかしいやろ!」
吉岡は右腕を突き出しこちらを指差す。
「私は男性から好意を打ち明けられたことは有りませんが・・・」
当たり前だ!
「少なくとも他人をぞんざいに扱う方は好ましくないと思っています」
これも当然。
「それとこんな形で好意を向けられても困りますので、取りあえず頭を冷やして下さい。それとくどいようですが、あなたの提案は却下です」
吉岡の目は憎しみに燃えているように見えた。不味いな。好意が反転して憎しみに変わっているのやも。
「そんなん・・・そんなん、嫌や!嫌や~!」
癇癪を起して泣き出した。何だよ、こいつ!世話を焼かせるな!
「木曽川!医務室へ連れて行って!担いでいっても良いわよ。できるでしょ?」
「はいな。ほんま、しょうもない人やね。少佐を困らせてから・・・」
巴はため息をつき、聞き分けない吉岡を担いで大隊長室を出て行った。




