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大隊長は激怒ボンバー

 巴は心配そうにこちらを見つめ、寄って来た。

「ええんです?今、電波使うて狸娘に確認したら、吉岡はんがおまえのところの部下を貸せって、言うて来たらしいです。なんや乗り気みたいで、調整するって勝手に決めてるみたいです。止めんかいって言うたら、成果上げたらええんやって言い返してきよりました。ほんまに大丈夫です?」

又してもため息の出るようなことが展開されているのか。うんざりだ。大人しく報告書を読ませてくれよ。何で俺を無視して話を進めているわけ?しかもそれは吉岡と静が勝手にやっている。おのれ、許すまじ!俺は第1中隊の吉岡小隊に内線電話を掛けた。そして巴を電話口に呼ぶ。

「最初はあなたが応答して吉岡中尉を呼び出しなさい」

巴は怪訝な顔をして受話器を握る。

「大隊長が吉岡中尉に用件です」

こっちはその間決裁作業と決め込む。

「はあ、大隊長の命令です。何や話があるから呼び出せって」

決裁印を押印して決裁箱の既決の方へと放り込む。

「ほんまですて。吉岡中尉に代って下さい。大隊長が激怒してはります。何勝手なことしとんねんって激怒ボンバーです。早よ代わって下さい。そこに居てはるでしょ?」

激怒・・・、まあそりゃ今の俺の心境を慮れば激怒としか言いようがないか。それにしてもまだ電話に出ないのか。

「ほんなら二神中隊長に確認してくださいよ。さっき来はって、大隊長にお説教されてましたよ。何で部下に勝手な事させとるんじゃいって、怒られてましたよ。ほんまですって。大隊長激怒ボンバーですわ。せやから吉岡・・・、あ、電話切られました」

受話器からは、ツー・ツーと無機質な音が漏れ聞こえていた。

「取りあえず受話器は戻しておきなさい。向こうから連絡が有るかも知れない」

「了解」

イライラしてきた。隊内の統制が取れていないのは、俺の力量が不足しているからだ。「お飾り」として座っていてくれれば良いという事だろう。それに抗えていない。全く舐め腐ってやがる。何とかガツンと言ってやらねば。

 案外早く反応は有った。吉岡が単身司令部へ乗り込んできたのだ。

「大隊長は?どこ?」

怒鳴るような声を張り上げている。

「扉を開けて手を振ってやりなさい」

巴にそう言うと、すかさず扉のところまで飛んで行って、

「こっちにいますよ!」

と手を振りながら言うと、

「そこか!」

と宣いながらこちらにやって来た。

「どけ!」

巴に対しては尊大なものだ。

「大隊長!どういうことですか!向こうがお膳立てしてくれている案件に乗っかるだけですよ!楽勝やないですか!それを何で!」

机をバンと叩いて抗議する。2時間ドラマの刑事のようだ。

「それ、あなたが勝手にやっていることですよね?私は何も聞いていませんでしたよ?」

報告書を読みながらぞんざいに言ってやると、怒りのボルテージは上がったようだ。

「そんな!大隊全体のことを僕なりに考えてしたことですよ!数字上げないとあかんのでしょ?それやったら、チャンスですよ、これは。だからね、迷惑は一切掛ける気はないですから、認めて下さいよ。お願いします。この通りです」

吉岡は、45度の角度で礼をしてきた。

「駄目です」

そう、この一言だけでケリをつけてしまっても何も問題は無い。上官は俺だ。大隊全体の事を考えるのは、俺の任務だ。そうに決まっている。

「そんな!横暴です!迷惑かけませんって言うてるでしょ!」

「そういう問題じゃありません。提案は却下します。今後申し立てないように」

「なんでやねん!理由ぐらい説明してくださいよ!」

心底頭に来た。理由を説明しろ?何ともまあ小賢しいことを!理由を説明したら今度はその理由に納得がいかないと、そう来るつもりだろう。自分の望む答えが出るまで粘るつもりだ、この手の奴は。

 少し間を置いて眼鏡を外した。机の上に眼鏡を置き目頭を押さえる。背もたれにもたれかかって、ため息をつく。言い渡してやらねばなるまい。納得するしないは関係ない。そんなことはどうでもいい。眼鏡をかけ吉岡の方を見据える。

「吉岡さん。あなたの階級は?私より上でしたか?」

吉岡の表情が変わった。この女、いきなりそんな手札を切るのかと顔に書いてある。

「・・・下ですね・・・」

「でしょう?ちなみに何階級?」

「・・・2階級です・・・」

「良く分かっていらっしゃるじゃないですか。勘違いはなさっていないようですね」

それでも吉岡は食い下がって来た。本当にしつこい奴だ。

「大隊長自身のためにもなることなんですよ?何で分かってくれへんのですか!僕は悲しいです!」

「そうですか」

「いや、そうですかって!もっと言い方いうもんがあるでしょ!」

拳を握り締めて力説してきやがる。

「上官に対する口の利き方。そんなものはいらない。そう思っていらっしゃる?」

「それとこれとは関係ないでしょ!」

「一通り決裁承認を終えたら目標設定の検討をしたいのです。私の時間を盗むのは止めて下さい。お話は以上で終わりです。ご自分の仕事に戻って下さい」

「時間を盗むって!・・・そんな言い方止めて下さいよ!・・・そんなん、そんなん、あんまりや!」

さめざめと泣きだした。何てこった!こっちが悪いのかよ!仕方が無い。巴に素早く目配せし、出て行ってもらうことにした。

「もうええでしょ、中尉。早よ帰って下さい」

巴は吉岡の右腕を掴む。その時に豊満な胸を押し付ける。もちろんわざと。たいていの男はこれで腰砕けだ。吉岡も当然例外ではない。顔が赤くなり無言になった。そのまま巴に引きずられて行く。やれやれ、清々する。これで仕事に集中できる。そのはずだった。

「なあ自分、待ってや。好きな人に手柄立ててもらいたいやん?その純粋な気持ちを、何で踏みにじられなあかんの?」

「は?」

俺と巴の声が同期する。何を言い出すんだ、こいつ?

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