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お・こ・と・わ・り

 第3連隊。それに心当たりが無い訳では無い。傘下の部隊からメイドカフェを借りて人員を配置している(軍人ロボットだが)。その関係でこちらに人員を貸せと言ってきたのだろう。持ちつ持たれつというやつだ。なるほどそれ自体は良く分かる。では二神は何のために協議にやって来たのか?電話では済まない事情があるに相違ない。

 招き入れた二神はいささか沈痛な面持ちだった。どう話を切り出したものかと考えていると、

「吉岡君が独断で1個小隊を動員しておりましてな。第3連隊の第6大隊に。それで、それが前例になっておりましてな。『めいどかふぇ』を借りておる部隊とは別の所なのですよ、これが。それとは又別の中隊からの要求をどうするかと。こういう事になっておる次第」

「つまり断り切れないと?」

「左様。先ほど足を差し込んだでしょう?あそこで要求を飲んだら、次々と要求を突きつけられる。そのことを実演してみたまでです。大変失礼致しました」

立ち上がって一礼した。

「別に頭を下げて頂く必要は有りませんよ。二神さんの意図は分かりましたから」

「左様で」

二神は真顔になり席に座る。そこへ巴がお茶を持ってきた。

「どうぞ」

そう言ってお茶を応接セットの卓の上に置いていく様は正にメイドだった。

「ところで、何故メイド服着用なの?」

「うわ、今頃ツッコミ入れてきはりますの?そんなんウチがメイドやからに決まってるでしょ!」

「軍人じゃないの?」

「そうですけど・・・、どっちゃでもええって言われてるし、こっちの方が可愛いでしょ?」

スカートを軽くつまむ。

「それはその通り」

と言ってやったら、ニヤニヤする。

「よろしいですかな?」

二神は話を引き戻そうとする。

「きな臭い話でして。どうやらあちらさんも『お掃除』の目標達成が至上命題の様子。さりとて積極的にやりたい話で無し。それでわしらに白羽の矢が立つと。かような次第でして。どうしたもんかと。ヤグザの下請けみたいな若造どもを殲滅することを企てておってですな、それにわしらを使いたいとそういう事のようでして」

「要は我々を矢面に立たせたいという事ですね?」

「然り」

ふつふつと怒りが湧いてきた。不用意なことを独断でやらかす吉岡に。そして他の部隊に汚れ仕事を押し付けようという、第3連隊の連中に。

「このことは非公式に持ち込まれた話ですね?」

「然り」

「突っぱねることは可能ですか?」

「それに苦慮しておる次第」

「そうですね。それでこちらに来られているのでしたね」

ため息が出た。祈りを捧げるように両の掌を合わせ、額に押し当てる。しばし沈思黙考。

「どこへ抗議すべきでしょうね?」

「抗議・・・ですか?それができれば世話は無いですが、それが通りましょうや?」

「第3連隊の司令部へ直接ぶつけてみましょうか?」

元の姿勢に戻して真っすぐに二神の目を見る。特に動揺などは無いようだ。ベテランらしいと言える。

「それは大隊長がなさるという事でよろしいか?」

頷いてやると、ここでやや表情が変わる。少し焦りが出て来たのか?

「第3連隊の連絡先さえ分かれば造作も無いことです。私が抗議しますから、どこの中隊の誰から持ち込まれた話なのかをお聞かせ願えますか?」

二神は左手の指先を顎に当て、やや下を向く。左手を膝に当て、顔を上げて右手を振る。、

「いやいやいや。そういう訳には参りませんな。少なくともこちらとしては、部下には乗り気の者が多いのでして。わしは反対ですが」

手を振るのを止めて腕組みをする。

「お話は分かりました。部下が乗り気だけれど、二神さんとしては反対だとそういうことですか。つまりこの件を潰してしまいたいわけですね?」

「御意。わしとしては兵の貸し借りなどと・・・、指揮命令系統を乱すような真似はしたくないのですが。誰の命令に従えばええかと。それは重大なことですけん、軽く考えとるんじゃないかと心配で」

それは俺も感じる。第3中隊に貸し出している大隊司令部所属のマルゴのローテーションとその際の指揮官。この連休中は上手くいくか気を揉んだものだ。

「なるほど。つまり私がこの件に反対すれば良いと、そういうことですね?その上でどこの中隊か存じませんが、そちらに断りを入れる、その際に私が反対を貫けるか?そのことを確認に来られた。そういう解釈でよろしいですか?」

二神は苦笑した。

「おおよそのことは通じましたな。上がしゃんとしとらんと困るんですよ。下の者としてはね。いざという時に梯子を外されては叶わん。そういうことです。では、大隊長も反対しておると。そういうことでこの件は突っぱねる。それでよろしいですな?」

「結構です」

俺の返事があっさりしたものだったせいか、二神は念押しをしてきた。

「下からの突き上げ、これはわしの方で押さえますが、向こうから直接大隊長あてに抗議なり何なり連絡が来るやもしれません。大丈夫ですかな?」

「向こうが抗議してくる、その可能性が有ると?」

「有るやも知れません」

左手でぴしゃりと左膝を叩いて、じっとこちらを見てくる。これほど値踏みするような目で見られるのは、2次試験の面接以来だろう。面接に合格できずに何度もチャンスを逃した。それで回り道を余儀なくされたんだ俺は。ここは腹をくくらねば。

「大丈夫ですよ。私の大隊は小所帯ですから、余所のお手伝いに回せる余裕は有りません。それで押し通します」

二神の目を見て、きっぱりと言ってやった。二神はニヤリと笑った。

「その言葉を待っておりました。吉岡君の例が有ってもそれは変わりませんな?」

「変わりません」

「独断だとか、そんなことは関係ありませんぞ?」

「あれで無理があることが改めて確認できました。今後同様に行う事は有りません」

なるほど、責任者なのだから部下の独断ですは通らないよな。

「そこを何とか。曲げてお願いします」

「お断りします」

「今後あんたのところには手を貸さんぞ!」

急に声色を変える。そりゃあ脅してくることもあるよな。むしろ高圧的な態度になるのが当たり前だよな。

「結構です。私の部隊は実証実験のための独立部隊ですから。お手を煩わせることは無いかと」

「ほう、『めいどかふぇ』にそっちのロボットどもを置くのは止めさせてもらうぞ!」

「どうぞ。他の手を考えるまでですから」

二神は、再びニヤリと笑った。

「結構。その調子で頼みましたぞ」

どうやら面接試験には合格したようだ。二神は、お盆を持ったまま待機姿勢を取っていた巴に湯呑を、

「有難う」

と言って返し、そのまま室内から出て行った。その瞬間、安心したのか吐息が漏れる。俺は双方向からの圧力に耐えられるだろうか?





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