気合の入ったコスプレをしたメイドさんを4人も連れている謎のおばはん
目的地のジャスコに着いてから最初にしなければならなかったのが、犬萩と犬樫を椿から引きはがすことだった。そうしないと椿が降りることが出来ない。寝穢い二人を叩き起こすのに結構手間取った。目をこすりながらフラフラと付いて来る2人を尻目に店内へと足を踏み入れ、3階の本屋に向かう、
総合スーパーは何でも有るが何にも無い、と言われている。だが、何でも有るというのはそれなりに魅力的で、子供の頃に連れて行ってもらったデパートを彷彿とさせる。本屋が有るというのが良い。それがあれば時間を忘れることが出来る。文庫本なり新書で面白そうなものを探したが、探すとなると案外見つからないものだ。雑誌のコーナーをちらりと見てから、ドトールコーヒーが店内に有ったのでそちらに向かう。フードコートは騒がしすぎる。
結局4人とコーヒーを飲んでそれで終わりになってしまった。傍から見れば、俺は気合の入ったコスプレをしているメイドさんを4人も連れている、謎のおばさんにしか見えないだろう。あまり目立ちたくはない。帰ってからちょっと横になりたい。それで4人を引き連れさっさと帰ることにしたが、駐車場へ向かう途中で断りも無しにスマホでこちらを撮影してくる奴らがいた。ゲラゲラ笑いながらこっちを指差している。
「どうしますか?」
犬萩と犬樫は、何かあるとスイッチが入って、「猟犬モード」になる様だ。
「放っておきなさい」
「どうしてですか?」
純粋に疑問に思ったのと、いささか落胆した気分が混ざったような声だった。
「ただ単に『気合の入ったコスプレをしたメイドさんを4人も連れている謎のおばはん発見!」とでも銘打ってSNSにアップロードして、バズらせたいだけでしょ?そんなもの仮にそうなっても、1日ともたないわよ。皆、次の新しい話題を求めているのよ。大丈夫よ」
対処するのが面倒というのが本音だったが、本心からそう思ったのも事実だ。どうせ、うたかたの夢として消えていく運命だ。何もかもが後ろへ流れていくのだ。こんなことは記録されるようなことじゃない。そんなことを考えていると、意識がグイッと下の方に引っ張られていくのを感じる。憂鬱な気分が激しくなってきたという事だ。早く帰ろう。夕食を食べて薬を飲んで、風呂に入って寝よう。こんな気分で日曜日を終えたくなかったので、運転中に椿に聞いてみた。
「ねえ椿。射撃訓練受けることはできる?」
「えっ!それはどういう意味ですか?」
椿にしてみれば衝撃的な告白を聞かされたという事なのだろう。
「あのう、大隊長殿。それはご自分がなさりたいという事でしょうか?」
「当然でしょう?」
「それは何故?」
椿は困惑を隠せないようだ。
「腹立たしいからよ。的目がけて機関銃を撃ってみたいの。それで少しでも鬱憤晴らしたいからに決まっているでしょう?」
「あ、それ良いですね。私が申請書書きましょうか?承認するのは大隊長自身ですから、楽勝ですよ」
桃はけらけらと笑う。
「何言ってるの、桃ちゃん!駄目でしょそんなの!」
「え?何で?連休明けにでもちょっと時間作ってしてもらえばいいじゃん」
桃は頬を膨らませる。
「だからさあ、椿。今大隊長はこんな気持ちなの」
桃の唸る声が聞こえた。
「ね?帰りもこうなんだよ?両脇を挟まれたときの気分を思い出して!」
信号待ちの時にルームミラーで後ろを見たら、既視感の有る光景が拡がっていた。
「ご飯・・・、おかわり・・・」
犬萩は右側からもたれかかって寝言を言う。犬樫は左からもたれかかって寝息を漏らす。だから椿は苦笑する。これで決まりだろう。巴にでも撃ち方を教えてもらおう。そうしよう。




