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別役との指揮権を巡る激しき攻防戦

 別役所長はかなりの女傑で、俺としては苦手極まりない人物だ。直接接するのは当然として、電話で話すのもできれば遠慮したい。しかも今日は休日なのだから。しかし電話に出ないわけにはいかないから意を決して電話に出た。

「もしもし、六塚です」

という前に土佐弁でがなり立てて来る。

「六塚!おまん、どこで何しゆう!」

こんな具合だ。

「今日は日曜日ですので、心斎橋まで出てきていますが」

答えるや否や怒涛の勢いで叱責の矢が飛んでくる。

「おまん、何を言うちゅうがな!呑気しゆう場合かえ!ちくっとこっちばあ、来い!」

「先ほど申し上げた通り今日は日曜日・・・」

「関係ないが!スパイ野郎が出たがぞ!委託業者に紛れ込んじょった!これから尋問するき、おまんもこっちばあ、来い!」

俺の声を遮り別役は雄叫びにも似た声を浴びせて来る。

「何故私が?」

と言ったら猛烈な罵声が帰って来た。

「寝ぼけちゅうがか!おまんの大隊のことながぞ!早うこんかえ!」

そして、唐突に切れてしまった。反論を許さない。別役中佐がそういう人物ではないかと思ってはいたが、的中していた。どうせ的中するなら他の事が良いのに。例えばTOBになることが確実な銘柄とか。そういう有益な予感と言うのはほぼ無い。嫌な事だけ良く当たるというのは何故だろう?

 帰りの地下鉄の中で俺は眠りこけていた。終点まで乗車するから寝過ごす心配はないし、犬萩・犬樫が五月蠅いので目を閉じずにはいられないのだ。別役中佐からスパイ野郎が出たと連絡があって、尋問のために出勤しなければならない。帰る理由を説明してやると、2人とも大興奮で詳しい話をせがんでくる。

「どんな奴ですか?どこの手先ですか?何人組ですか?どんなきっかけでスパイ野郎と判明したんですか?いつ尋問が始まりますか?」

 今のところ何も分からないと言ってやったらがっかりした顔をしていたが、後で話すと言ったら顔を見合わせ予想を始めた。姦しいことだ。そのくせ終点に着いた時には2人とも俺にもたれかかって眠っているのだ。何だか重たくなったと思ったら、そうだったのだ。やりきれない。

 一旦官舎に戻る。急いで出頭しなければいけないようだから、上着だけ着替えて研究所に向かう。地下1階に降りるためにエレベーターに乗ると、エレベーターガールの格好をしたメイドロボットが、

「お疲れ様でございます、少佐相当官。スパイ野郎に脅されたのは、2号機でございます」

 礼をした後唐突に述べた。

「脅された?」

「はい。地下2階以下の階層へエレベーターを下降させるよう要求したとのことです。詳しいお話は後程伺われるとよろしいかと存じます。地下1階へ参ります」

 そう言えばこのエレベーターガールたちは(エレベーターは3基有る)委託業者の業務従事者が地下2階以外の階へ向かわぬよう監視するために、別役が導入したものだった。早速「効果」が現れたわけだ。しかし、そんなことをする奴は一体誰だ?何のためにそんなことを?疑問符を浮かべつつ、研究所の管理部門の執務室へ飛び込む。

「別役中佐は何処にいるの?」

 近くに居た兵に尋ねると、

「少々お待ちください」

 などと言って他の者に尋ねて回っている。何だかイライラした。そもそも別役が研究所のどこに来いと言わずに電話を切ったことが元凶なのだから、そんな感想を持つべきではないのだろうが。ようやく使用している取調室が分かったので、そちらへ向かう。しかし本当に腹が立つ。スパイ野郎だって?よくも人の休日を台無しにしてくれたな!

 さていざ取調室へ着いたが、「使用中」と表示されたどちらへ入れば良いのだろう?取り調べを行っている側と、それを壁越しに観察できる部屋があるはずだ。間違えて入室したら目も当てられないのではなかろうか?そう思いはしたがどちらでもいいや。そんなこと知るか!四の五の言うなら俺が尋問してやる!何故だか急にそんな蛮勇ともとれる感情が沸々と湧いてきた。勇躍扉を開く。そちらが隣接したマジックミラー越しに被疑者を観察する部屋だった。「当たり」のようだ。

「六塚!おまん、何しゆう!もっと早うこれんがか!たるんじゅうが!そんなことでどうするがよ!」

別役はいきなり怒鳴りつけてきた。それで俺も頭にきたのだろう。不思議と冷静になり別役の大音声にビビらなくなっている。本当に不思議だ。

「中佐に私の部隊への指揮権は無いはずですが?何故ここで指揮を執っていらっしゃるのですか?」

 そこなんだよ!何であんたが口を出す?休日なんだから出勤するよう命令される謂れは無いぞ、畜生め!もっとも頭にきたのは向こうも同じらしい。

「おまんが責任者ながぞ!寝ぼけちゅうがか!そんなことではいかんがよ!」

理屈はそうだろうが、じゃああんたは何故ここにいるわけ?

「中佐が指揮を執っていることへの回答になっていないかと存じますが?」

案の定別役は激怒した。

「もう一遍言うてみんかえ?」

こちらへ歩み寄りながら、低い声で言う。

「私がここにいる必要有りますか?二神大尉ですとか、第1中隊の者が尋問すれば良いでしょうに。或いはご自身でなさってみては」

素っ気なく答えてやったら噛みついてくる。

「おまん!他人事ながか!」

今日一番大きな声だ。全くこんな声量なのは、お偉方とのカラオケで鍛えたのだろうか?

「状況がまるで飲み込めませんから。まだ何の説明も受けていません。どうしろと?」

腕組みをして近づいてやった。俺と別役の身長差は相当なものだから、当然俺が見下ろす形になる。

「そんなら聞いたらえいだけながじゃろう?おまんは屁理屈こねちょらんで、聞いてきたらえいがや無いがかえ?」

そんなもので態度を変える様では、俺の知る別役中佐ではない。

「はあ、それでどうなっているのです?地下2階から下へ行くようエレベーターガールに要求したらしいですが、それ以上詳しいことは分かりませんので、状況を説明して頂けますか?」

そのままの姿勢で聞いてやった。

「おまん!何を上から目線で話しゆう!」

「私の方が背が高いのですから、私の方が目線は上になりますよ?」

「物理的なことを言うちゅうがや無いがぞ!」

「では、何を持って『上から目線』と定義していらっしゃるのですか?」

「もうえい!誰か説明しちょけ!」

 別役中佐はこちらに背を向け自分の座席の方へと戻って行った。代わりに二神が歩み寄って来た。

「お疲れ様です。スパイ野郎は委託業者さんに雇われとる『ふりいたあ』なるプー太郎同然の若い子でして。見ての通り委託業者さんと川本さんとで取り調べを行っておりますが、何を聞いても『単なる好奇心で下の階に行ってみたかっただけ』じゃと、そう言うんですな。エレベーターガールのお嬢ちゃんの腕を掴んで罵声を浴びせたじゃろうが、と言うたら『ロボットの分際で逆らいやがったのでムカついたから、かっとなっただけ』じゃとたわけたことを言う。とにかく同じ言い訳の繰り返しで、ことの矮小化を図っておる。どうにも怪しい。じゃけん、そろそろわしが取り調べを行います。待機しとる間に面白いものを見つけましたけん。もし少佐相当官の方で何か質問が有る様じゃったら、遠慮なく言うて下さい。わしが代わりに言うて締め上げてやります」

二神はそう述べてから内線電話のところまで移動して何か取調室の兵に命令し、この部屋から出て行った。そしと入れ替わりに川本と委託業者、「帝国情報管理システム」の佐藤と柴田がこちらの部屋に入って来た。

「大隊長さん!この度は私共の不手際でご迷惑をおかけしてまことに申し訳ございません!お詫びのしようもございません!」

佐藤は泣きながら土下座する。

「佐藤さん。何を仰っておられるのですか?悪いのはあなたではありませんし、御社でもありません。どうか立ってください。これでは、私が無理やり頭を下げさせているみたいではないですか?」

言い終わって柴田の方を見る。

「佐藤さん。大隊長さんはあんたのせいやないって言うてくれてはるやろ?見苦しいことしたらあかんで?ほら、立って。起こってしもたことはしゃーないやん?肝心なことはこれからやで?しゃんとしい」

やはり大阪のおかんとその息子という感じだな、この2人。

「柴田さん。私は今来たばかりで詳しいことが分からないのですが、どうですか?同じことを繰り返して述べているのですか?」

柴田に問うと、

「え、今度はうちが質問されるの?」

柴田は軽く笑い、

「そうやね、興味本位やとか、下に行ってみたかっただけやとか、何て言うたらええんやろ?単なるいたずら?そんな感じやね。聞いてる限りでは」

佐藤も頷く。後ろに居た川本も頷き、こちらに話しかけてきた。

「えらいことになってきまして。僕も休日返上ですよ。大隊長もでしょう?お疲れ様です。それでですね、一応最初は僕らが説得するって形で話しを聞いていた訳なんですよ。実害はロボットが頬をはたかれて腕を掴まれたと、それだけですからね。表面上は。それでまあ、事情を洗いざらい説明して謝罪して、それで穏便に片付けようって、そういう形でやってみたんですけどねえ・・・」

「それでは片がつかないと。中々強情なのですね。二神さんも厳しいことを言わざるを得ませんね。さっきお話ししましたけれど、供述の内容が変わらないことと、事態の矮小化を図っている点に不信感を持っていらっしゃるようでした。はっきり怪しいと」

「ああ、なるほど、大したことじゃあないと。そういう事にしてしまいたい?」

川本は首を捻る。

「別に背後関係とかそういうものが有るわけじゃあないと。そう主張したいのでしょうね。そこをどう崩すか?まずは拝見しましょう」

と言って座席に座り川本を手招きした。すると川本は、

「委託業者の今後の処分何ですが」

と思いもしないことを声を潜めて言ってきた。

「ちょっと今、委託契約書を確認しているんですけどね」

タブレットの画面を見せてくる。

「どう思われます?これ、相当な処分下す必要が有りますけど、今、佐藤さんたちに言うべきじゃないでしょう?でもここに残ってもらっていずれ言わないといけませんよね?僕の方からタイミング見計らって言っておきましょうか?」

相当な処分。委託契約解除ということも最悪考えられる。頭が痛いな。馬鹿なことを仕出かす奴のせいで何もかも台無しだ。

「そうですね。取調の状況を見てから判断しましょう。今はそのことは脇に置いておいて、取りあえずお二方には残って頂く必要はありますから、どこか座席に座って待機してもらいましょうか?」

川本は、2人に席に腰掛ける様誘導し、タブレットは見せずに何かを話している。俺はその間、二神の尋問を見ることにした。軽い世間話からいよいよ本題へと入るようだ。

「ほいでなあ、そのつまらん言い草は誰から教わったんぞね?ん?」

二神は目の前の若者に問う。ふん。こいつがスパイ野郎か。ヒョロヒョロという感じのオタクだ。冴えない風貌で、正にオタクとしか言いようがない。こんな奴のせいで大騒ぎになっているわけか。しかし本人にその自覚はなさそうだ。

「だからあ、さっきから何遍も言ってるじゃん!俺はただ下の階に行ってみたかっただけだって!」

絶叫するオタク。二神は詰めよる。

「誓約書はちゃんと読んどるよな?何でせられんことを急にしたくなったんぞね?」

「俺、やるなと言われたらやりたくなるタイプ何ですよ。それだけです」

「ほう」

二神は一瞬だけ沈黙し、言葉を繋ぐ。

「つまりはあれか?学校にある火災報知器とやらのボタンを押したくなると。あれ押したらいかんけんのう。ほじゃけど、押したくなる?」

「そうっすね。小学校の頃押しちゃって先生にめっちゃ怒られました」

2人して笑う。と思いきや二神はすぐに真顔になる。

「遍照金剛言われん」

二神は厳しい表情のまま兵にタブレットを見せるよう命じる。

「嘘はいかんぞ?」

兵はタブレットをオタクに見せる。たちまちオタクは狼狽え、座席から立ち上がる。

「最近、春を鬻ぐお嬢さんたちの副業として注目されておるらしいのう。あなたみたいなオタク君に近寄って、抜き差しならぬ状況にしてから組織の操り人形に仕立てる。どこの組織から脅されておるんか正直に言わんかね?ん?これこの通り防犯カメラに記録されとるぞね。あなたがお嬢さんと仲良く連れ込み宿に出入りしとるところと、反社の輩に絡まれておるところ」

数々の防犯カメラの画像を見たオタクはへなへなと崩れ落ちる。そんな取調室の様子を余所にこちら側は別役が突然声を張り上げる。

「川本っ!」

俺はその声に腹が立った。

「おまん、どういうことながぜ!最初から二神に任せちょったら早うケリがついちょったに!」

川本は別役の言葉に困惑しているようだ。だから俺も声を張り上げよう。

「ちょっと待ってください!先ほど申し上げた通り、あなたに私の部隊への指揮権は有りません!何の権限があって川本さんにそんなことを言っているのですか!説明してください!」

別役は一瞬ひるんだ。だから体制を立て直される前に言葉を連ねよう。

「最初は説得し、応じなければ厳しくする。何も間違っていないでしょう!最終的に上手くいけばそれでよろしいでしょう!違いますか!」

ついでに別役に歩み寄る。

「そもそもあなたが介入してきているから、話がややこしくなっているのでは?私を引っ張り出す必然性などなかったでしょう?」

「介入?何を言いゆうが!大体おまんはよう・・・」

別役の言葉に被せる。

「黙れっ!」

場の空気が凍り付く。俺は親指で出口を指し示す。

「お前の部隊の問題なのでしょう?それならあなたがここに居る必要は有りません。お帰りはあちらです」

別役はここで引き下がらない。

「おまんっ!ここはうちが預かっちゅう研究所ながぞ!やき、侵入者はどうにかする必要があるに決まっちゅうろう!何を言いゆうが!」

「じゃあ、最後まで自分と自分の部下でケリをつけろよ」

ゆっくりと言ってやったのが案外効果的だったのかも知れない。別役は、

「おまん、覚えちょけよ?」

と捨て台詞を残して出て行った。



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