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犬も歩けば棒に当たる

 地下鉄が嫌いなのは、地下だから車窓を楽しむことができない。その点に尽きる。ひたすら真っ暗な中を進むのはいささか退屈だ。眠くなる。船を漕ぎ始めたのを自分でも感じる。睡魔に引きずり込まれていく様な嫌な感触がする。おまけに犬萩と犬樫は、桃と椿が途中で下車したら眠くなったらしく、こちらにもたれかかって眠っているようだ。何故人工知能が眠る必要が有るのか?重いので甚だ迷惑なのだが、節電モードなのだろうか?俺は睡魔と2人に引きずられるまいと決意したのだが、ものの見事に眠ってしまい、気が付いたら次の駅が心斎橋だった。

「ちょっと。早く起きなさい」

2人の体をゆすったのだが起きてくれない。

「もう食べれないです・・・」

犬樫などはそんな信じられない寝言を言っている。食事なんか要らないだろう!アンドロイドだろう?仕方が無いから肩を貸して何とかして電車から降りようと思っていたら、駅へ到着寸前で目を覚ました。

「ご飯の時間ですね」

犬萩は目をこすりながら言うので、

「まだ早いわよ」

と返してやったが俺の意図は伝わっていないらしく、

「じゃあこれからご飯ですね。楽しみです」

などと寝言を言ってくるので腹が立つのは当然だが、ひょっとしたらこれは人間であることに見せかけるための演技なのかもと思えた。迷惑極まりないが。

 心斎橋駅で降りて地上へ出ると物々しい雰囲気に包まれていた。軍人らしき者がズラリと勢ぞろいだ。

「立ち止まるな!こっちを見るな!」

などと、観光シーズンの京都の名所の警備員のような事を大音声で宣わっている。

「スパイ狩りのようであります。少佐相当官」

犬樫はいつの間にやら大型のアホ犬から、精悍な猟犬の如き顔つきに変っていた。犬萩もだ。

「近辺の雑居ビルでスパイ野郎と不逞外人共を発見し、連行しているようであります」

犬樫は報告すると、命令を下して欲し気にこちらを見ている。

「無線を傍受したの?」

「そうであります」

犬樫は誇らしげだ。

「今日は私はお休みなのよ?」

「はい、知ってます」

犬萩と犬樫は声を揃えて言う。

「どうしますか?」

「どうもしないわよ。お買い物しに来たのよ、私?」

何かしたくてたまらないのだろうが、そんなのに付き合っていられるか。

「そうなんですね・・・」

犬萩は言う。犬樫も

「残念です・・・」

しょぼくれた表情になる2人を見ていると、複雑な心境だ。役に立ちたいという気持ちは有難いものだが、何も今ここでその気持ちを発揮することもあるまいに。

「今日は大丸でお買い物。良いわね?」

「はい・・・」

力ない返事が返って来た。

 俺は百貨店の雰囲気が好きだが、買い物はしたくない。デパ地下で何か買うだとか、カフェでコーヒーを飲むぐらいの事だ。買いたいものが無い。お高いお値段だということは買い物しなくても知っている。ましてや婦人服なんてものはその代表のようなものだ。だから、洋服などに関心が無いという態度を貫くべきなのかも知れないが、一応見てみるかという気持ちになったのは自分でも不思議だ。興味本位とはいえ、そんな気持ちになったのは積極的になっているという事で、良いことなのだろうか?良く分からないが取りあえず行ってみよう。「犬も歩けば棒に当たる」というが、何もしないで部屋に閉じこもっていたあの頃に逆戻りするわけにはいかない。そう、何もなくとも歩く始めることは良いことだ。自分でそう決めてしまえば良い。それで俺は大丸の入り口に向かって歩き出す。自動ドアからは大勢が出て来るので、脇にある扉を開けて中に入る。そのまま扉を押さえて二人が中に入るのを見計らって扉を閉めようと思ったら、二人を蹴散らして何人か黙って中に入ってくる。俺はドアボーイじゃないぞ!むかっ腹が立った。何だろうなこのやるせない気持ち。高揚感がたちまちしぼんでしまいそうだ。

だから目測を誤ったのだろうか?扉から手を離すと思いの他速く閉まり、

「あいた!」

犬樫に当たった。正に犬も歩けば棒に当たる。しかし、そんなことを言っている場合ではなかった。痛覚があるとは聞いていないので、犬樫が泣き出したのは本当に焦った。何度も謝ったが座り込んでわんわんと泣いている。そのうち騒動を聞きつけた受付嬢が飛んできた。ふと見ると、後ろにケーブルのようなものが見えたので、これもメイドロボットなのだろう。医務室へ連れてゆきましょうかと言うのでどうしたものかと思っていたら、犬樫は、

「まだ痛いですけど大丈夫です。お騒がせしました」

と言って立ち上がったので、取りあえずその場は収まった。何とも恥ずかしい顛末。自分の不注意で怪我?をさせてしまったのに、犬樫がぼんやりしているのが悪いと責任転嫁してしまっていた。駄目だなあ、俺。ダメダメだ。ここまで来て帰りたくなった。そんな狭量な心根を何とかしなければ。

 

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