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炸裂!狸の術!

 そぞろ歩きしていると、地下鉄の入り口は見つかった。丸の内線。帝都高速度交通営団。その辺は変わっていないのか?改札口で不安に襲われる。クレジットカードに附属している電子マネー。地下鉄でも使えるのか?さりげなく聞いてみようか?ドキドキしながら自動改札機にかざしてみたら、ピッと音がして通過出来た。ホームへ着いたら、電車が轟音を響かせながらやって来た。車内は割と混んでいた。積もる話は新宿駅のカフェでいいかなと思っていると、巴がスターバックスコーヒーで話しをしようと提案してきた。お勧めのコーヒーの名前を述べたのだが、呪文の詠唱としか思えない。静が負けじと勧めてきたものは、レアなポケモンの名前のようだった。そんなにスターバックスコーヒーが良いのかと聞くと、是非ともお勧めのコーヒーを飲ませたいだけのようだ。タリーズコーヒーにしようと提案すると、二人とも驚き、仲良く顔を見合わせ即座に背ける。その仕草に前途多難だという絶望感が芽生える。しかしこの二人にてこずっているようでは、500人からいる部下の統制など思いもよらぬものだ。それ故、湘南新宿線のホームから遠いなどと理屈をこねるのを無視して、タリーズコーヒーへと案内させる。その途中で又はっと気づいてしまう。俺ってつまらないことばかり気が付くけど、これはつまらなくない。軍人ロボットって飲み食いが出来るのか?店に入る前に問い詰めると、あっさり静から、

「出来ますよ?」

と嘲笑そのもの。え、今頃そんな事確認してます?としか感じられない反応が帰って来た。全くもう!性格は可愛くないよなあ、この子。でも、レジに並び順番を待つ間にポイントを貯めたいから、二人とも奢ってあげると持ち掛けると、巴は、

「やった!おおきに!ありがとうございます!」

と言って抱き着いてきた。静は、

「うわ~嬉しいです~」

とにっこり微笑みさりげなく、

「ケーキも一緒に頼んで良いですよね。後これも」

これまたさりげなく、当然のようにバウムクーヘンとスイートポテトを手に取った。

「ありがとうございます。ゴチになりますね~」

と、笑顔を向けてくるが、今までとは違う、女子高生的な話し方にあざといポーズ。その違和感を言葉にする前に、巴が突っ込みを入れる。

「おい、こら。奢り言われたら遠慮するもんやろがい。何でスイーツまで頼んだんじゃこら」

静はため息とともに、

「これが貴女の言うところの狸の術ですよ。分かっていませんね~」

と、得意げに人差し指を左右に振る。

「ドアホ!少佐殿相手に実験すんな!」

大声は出していないがそれ相応に迫力があると言うのに、

「またまた~。良いじゃないですか~ちょっとぐらい。ねえ?」

と、俺に向かってウインクまでする始末。

「ちょっとドキドキしました?」

左手でピースサインを作り、左目に持ってゆく。

「うん」

思わずそう答えると静は俺の背中を思いきり叩き、ケラケラと笑った。

 そして会計終了後、奥の方の座席で詰められることに。

「うん、まあ実戦ではこんな感じで対象者というか敵というべきか、そいつらを誑かす罠に嵌めるというのは、良く分かった。でも、私相手にそうする必要あったかな?そこら辺はどう考えているの?」

俺はそう問い詰めたけれど、頬と耳たぶは紅くなっているのが分かる。恥ずかしい。静は軍服着ているけれど、年齢的には完全に女子高生だもの。恥ずかしいけれど、グッときちゃった・・・。高校生の時に出会っていたら、大好きになって一日中姿を追いかけていただろうなあ~。

「おう、返事せんか、こら。狸の術を掛ける相手は、スパイ野郎・チンピラども・エロ親父。そういう連中相手やろが。己は、何で少佐殿相手に術を掛けるんじゃい。言うてみたらんかい、おう」

静は巴が隣に座って圧力をかけるのに反発して言う。

「やだな~准尉殿。対象者であるチンピラそのものじゃないですか~」

「何じゃと、こら!」

視線が幾らか集まる。

「木曾川。ここは取調室じゃないわよ。静かな声で話さないと、レクチャーの時間が取れないわよ?」

「あ、はい。すんまへん」

巴は神妙な面持ちになったので、まるで二人とも尋問されているような形になった。

「あのう、じんも・・・質問には応じますけど、それはそれとして冷めない内に飲みませんか?」

「鎌倉。あなた、尋問されているのが分かっているなら、それは無いでしょう?」

「ひっ!」

本気で怖がっているようだ。明らかに飛び上がった上で縮こまった。

「取りあえず質問に対する答えは?」

「あ、はい。それはですね、きちんと質問にはお答え致しますけれど、その前に准尉殿に圧力をかけるのを止めるよう指導して頂けませんか?凄く怖いんですけど?」

俺は返事の代わりにため息をつきながら、巴の方を見る。当然下を向く巴を確認してから、静は紅茶を含み、ふう、と一息ついてから話始めた。

「何て言うかですね、少佐殿って准尉殿に物凄く好意を持っていらっしゃいますよね?」

マグカップが揺れる。危うくコーヒーをこぼすところだった。また赤面してしまう。

「あ、やっぱりそうなんだ」

淡々とした喋り方に怒りさえ感じる。何なのこの子!

「こら、『狸娘』!何をぬかしとるんじゃ!しばいたろか!」

そう圧力をかけられているのに、静は涼しい風で紅茶を飲んでいる。

「あ、いえ、そのですね私、准尉殿のことが滅茶苦茶嫌いなんです。何故かと言うとですね、旧型で私より性能が劣っているはずなのに、大きな顔をしていて、その上少佐殿から気に入られているでしょう?何か、ムカつくんですよねえ」

言わずもがなのことを何故いちいち口にするのか?そして、言い終わった後でケーキを頬張るのか?

「おのれはほんま・・・、しばかれんと分からんのか?」

巴は呆れかえったという顔で、嫌そうに静を見つめている。

「しばかれなくったって、ちょっとやり過ぎたかな~とは思っていますから。一応」

「一応、ね」

俺の声色と表情で流石にやばいと悟ったのだろう、

「ひっ!」

急に大人しくなった。

「それで?木曾川の事が嫌いなのは分かった。でもそれが、私に『ハニートラップ』紛いのことを仕掛けることと、何の関係があると言うの?」

「あっ、はい、それはですね、少佐殿に少しでも気に入って欲しい、それによって准尉殿の鼻を明かしてやりたい。その一心でつい、狸の術を使ってしまったんです。女性に対してこっちを見てって、やってみて成功するなら、標的のやろ・・・男性にはばっちり効くという事でしょう?」

そして、小首を傾げにっこりと微笑む。そのあざとさにはため息しか出なかった。

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