スパイ野郎が網に引っ掛かりました‼(*まだ身柄は押さえていません)
まだ10時にもなっていないので、どこで何をするかでひと騒動あった。官舎でゆっくりという選択肢は無いような気がした。最も、お昼は何を食べるかとポロリと漏らしてしまったから、外食するか何か買って来て食べるかで、喧々諤々の大論争となってしまった。
「調理は私がしますから、スーパーで何か買って来て食べて頂ければいいじゃないですか、兵長。どうしてそう外食にこだわるんですか?」
椿がそう言い、桃も頷くのだが桜は譲らない。
「ダメ!お休みの日だから、どこかに美味しいご飯を食べに行くの!そうしてもらうの!」
「お外でご飯食べるんだったら、何か弁当買って来て緑地公園で食べればいいじゃん。そうしようよ、皆。春なんだし、景色の良い公園でご飯食べてゆっくりお散歩しよう?」
梅はこう言う。百家争鳴というやつだろう。一通り自分の主張を並べ立てて見解をぶつけ合うと、皆こちらを向く。誰のための昼食かといえば俺に決まっている。兵員型軍人ロボットGR05は、飲食は可能だが必要はないからだ。
確かに今日は土曜日で五月晴れで行楽日和だ。官舎で昼食を食べるのも芸がないというか、それでも良いがこの晴れやかな天気がもったいないとも感じられた。それ故の折衷案という訳ではないが、スーパーに買い物に行って食材を購入してからここで弁当を作り、それから鶴見緑地公園の自然を堪能しつつ食べれば良い。そう提案したら流石は少佐殿!と皆きゃあきゃあとはしゃいで大喜びした。桜は頬を膨らませていたが。仕方が無いので、
「桜、あなた、良い店知っているの?」
と尋ねたら固まっていた。
「どうしたの?お勧めの店があるから、私を連れて行きたいのでしょう?違うの?」
桜は不安そうに上目遣いで、
「マクドじゃダメ?」
と聞いてきたから、
「あんまり食べたいとは思わないなあ」
と言ってやったらショックを受けたらしい。一瞬体が硬直した後、涙目になった。
「もっといい店探して頂戴。タブレットは持っているでしょう?」
ぱあっと明るい顔になった。
「そっかあ、それもそうだね。ボク探してみる!」
桜が店を検索している間に冷蔵庫の中身を確認する。炊飯器をセットして、地下鉄で2駅向こうの
今福鶴見駅へ。駅の北側の関西スーパーと西側のイズミヤの2手に分かれて、それぞれ食材を購入していると、
「何か作戦をすいこーしているみたいだね!」
地下鉄に乗っている間、桜の提案する店を全部却下してしまったが、「お弁当を作って緑地公園で食べよう作戦」はそれなりに気に入っているようで、ホッとした。
しかし電話というやつは突然鳴り響いて人を呼びつける、そういうものだと決めつけざるを得ない。駅で合流して、さあ帰ろうという時に俺の携帯電話が鳴る。何事だろう?この電話は鳴るはずが無いと思っていたのに。ハンドバッグから携帯電話を取り出し、
「もしもし?」
電話に出たのに、相手は何も喋ってこない。電話番号は知らない番号だ。悪戯電話か?
「六塚少佐相当官。吉岡隊の吉岡であります!休暇中に失礼します!」
二神の部下だ。第1中隊の第2小隊の小隊長。早口でせかせかしている。当節の若者といった感じの青年だ。
「何かあったのですか?」
皮肉だった。直球の。しかし吉岡は待ってましたと言わんばかり。
「そうなんですわ。スパイ野郎が網に引っ掛かりよりました。まだ身柄は押さえてへんですけど、いや~大捕り物になりそうですわ~。今夜は眠れない!そんな感じです!」
勝手に盛り上がって、勝手に笑う。イラッときた。
「身柄は押さえていないのですよね?」
確認は重要だ。
「ルアーに引っ掛かったんでっせ?後はリールを巻くだけです!」
「まだ身柄は押さえていないのでしょう?」
しつこいようだが、確認は重要だ。吉岡にとってはさほどでは無いようだが。こいつ、気を付けないと。今回の件もどう転ぶやら。
「もう押さえたも同然ですやん!そこまで追い込んでます!間違いありません!朗報を待っておくれやす~」
ガチャリ。言いたいことを絶叫するかの如く言い倒して、電話を切りやがった。危ういな、こいつ。二神に探りを入れてみようか?どんな報告書を上げてくるのか知らないが、取りあえず半端な報告を休日に上げてきたことについて、とっちめてやろう。さもないと、この子達の気持ちが収まらないだろうから。




