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給湯室でコーヒーを飲むと背徳感の味がする

 颯爽と歩き始めたは良いが、研究所の庁舎の外側にある掲示板に、ガソリンカードの一般競争入札に関する公告が掲示されているのを何気なく見たら、突然携帯電話を持ってくるのを忘れたことに気付いた。だが次の瞬間別にどうでも良いかと思えたので、そのまま捨て置き研究所内に入る。扉を開けると正面の受付に居るメイドロボットが、

「おはようございます、大隊長。今日はお休みの日では?」

と挨拶をした上で当然の疑問をぶつけてきた。

「やらなければいけないことが有るから、自主的に出勤することにしたの」

そう説明してやったら、

「さようでございますか。お疲れ様でございます」

30度の角度でお辞儀をしてきた。受付手前の左右に配置されたメイドロボットについても同様だ。もし男性の警備員だったら厳重な警備なのだろうが、美少女のメイドロボットだと、そんなことを微塵も感じさせないから不思議なものだ。それはエレベーターの中でも同じことだ。昨日からいきなり、昔懐かしのエレベーターガールが出現したのだ。メイドロボットに何処かの百貨店の制服を着せただけなのだが、初めて見た時は驚いたものだ。それも間の悪いことに、編成記念式典の会場に向かう途中だったから、少々不味かった。

「おまん、何を魂消ちゅうが?」

などと、別役に叱られてしまった。

「委託業者の連中がよう、地下二階以外に行かんようにせんならんに、決まっちゅうろう?これ配置してからよう、監視させたらえいがって。えいアイデアながじゃろう?」

などと笑いながら勝ち誇っていたが、二神に、

「後輩~、それはわしが考えたんぞね?後輩はすぐそれじゃけんのう。油断のならんことよ」

と反論され、

「黙っちょけ!おまんは口で言うただけながじゃろう?うちが手配は全部したがぞ!」

間髪を入れずに声を張り上げる。二神は、

「黙れっ⁉何て酷い!ああっ!後輩によって発言権を奪われてしまう、可愛そうなわし!」

天を仰いで嘆き悲しむ、そんな小芝居をしている内に、

「地下三階でございます」

とエレベーターガールはアナウンスして、開いた扉を指し示す。

「二神大尉。到着しましたよ」

と付け加えることも忘れなかった。

「早う来んかえ、何しちゅうが二神。アホなことばあ、止めれんがか?」

そんなバカみたいなこともついでに思い出す。

「地下1階でございます」

エレベーターガールは告げる。

「あのう、少佐相当官、指定が無いのでこの階にご案内しましたが、別の階にご用件が有りましたでしょうか?」

「いいえ。ここで良いわ」

エレベーターを降りて大隊司令部に入る。何名か出勤していた。大体司令部配属の武官だけは交代で8時から17時勤務だと言う事を昨日初めて知った。巴は「細かな事」と自分が判断したことは、俺には伝えない方針らしい。そんな態度を示してくれることについて、巴ならそれは俺に余計な負担をかけないためだと分かるし、案外忘れていただけなのかもしれないと感じられた。人工知能が物事を忘れるなどというのは、ある意味馬鹿げたことだが巴の外見を纏って現れると、不思議と受け入れられる。そこまで巴に惚れ込んでしまっていると言う事だろうか?

 大隊司令部の扉を開けると、

「あれ、少佐、今日はお休みですよね?」

出くわした小畑1等兵に怪訝な顔をされた。小首を傾げて、目の前にいる人物が自分の知っている人物であるかどうか照合しているようだった。

「目標設定のためにちょっと出てきたの」

と言ってやったら、

「ふ~ん。何か良く分からんけど、お疲れ様です」

他人事の様に返してきた。最も何の権限も無いのだから、責任をしょい込む必要は無い。当たり前の話だ。俺は責任者だから当然やるべきことをやらなければ。昨日、岡田に責任者だと啖呵を切った以上何としても目鼻だけでも着けて帰ろう。しかしやり方が良く分からない。取りあえずは二神に話を聞いてみるか?だがその前に、第3中隊に預けっぱなしの犬萩と犬樫に電話を入れてみよう。少し声だけでも聴かせてやれば、励みになるかもしれない。それで電話を1本入れてみれば、2人とも直立不動でこちらの言う事を聞いているのではないかと思われるような、畏まった態度だった。何もそこまでと思ったが、兵達から見れば本来「少佐」などという地位の者は、「雲の上の人」だろう。人間の命令に従うように造られているなら、尚更だ。俺はこれから目標を立てて、後々評価もしなければならない。きっちりそれができるだろうか?漠然とした不安に悩まされてばかりだが、「本当の事」を誰かに打ち明けるわけにもいかない。たちまち憂鬱な気分がさらに重くなり、帰りたくなってきた。何もかも放り出して、布団にくるまって眠っていたい。そしてそのまま目覚めないのが最高だ。

 そんな後ろ向きな気持ちは振り払わねば。給湯室に向かい、電気ケトルに水が入っているのを確認してから、例の「少佐専用」インスタントコーヒーの瓶を手に取り、マグカップに粉を入れる。お湯が湧いたらマグカップの8分目ぐらいまでお湯を注ぎ、電気ケトルに水を足してからマグカップに牛乳を入れる。後はゆっくりとマグカップを揺らせば良い。シンクに背を向けてコーヒーを飲んでいると、不思議と仕事をサボって一息ついているような背徳感があって、何とも言えない。少しだけ前向きな気持ちになったような気がする。

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