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最初の生贄

 まず手始めに地下4階の第1中隊からだ。そう意気込んで乗り込んでみたら中隊長の二神はともかく、かなりの下士官兵が残っている。これではならじと、二神に退勤させるよう促したが、

「宿直のもんが残っとるんですが。わしらは交代勤務じゃけん、そう言う事ですが。当番じゃないもんは、さっさと帰しとりますよ」

と飄々と答えてきたため、とんだ恥をかく羽目になった。

「ちゃんと労務管理をしておいでですな。ええことですよ。ほじゃけど、うちより第3中隊のほうが大変じゃなかろうか?内線掛けてみたらどんなですか?」

 言われてみればそうだった。俺は何をしているのだろう?順番を間違えている。慌てて内線電話のダイヤルを回す。

「はい、第3中隊長室」

「ああ、山本少尉。今、現状はどうなっているかしら?交代勤務でしょう?宿直では無い者は退勤させた?」

「え、あのう、それはどういう意味ですか?」

ちょっとだけイラッときた。なるべく早く帰らせるべきだろ?

「今日の宿直勤務以外の者は早く帰宅させて頂戴。いつまでも超過勤務する必要はないでしょう?もう19時を回っているのよ?」

受話器の向こうから何とも言えない声が聞こえてきた。

「やっぱり大隊長、色々考えて下さっているんですね。良かった。そこまで気が付きませんでした。そうします」

「お願いね。あなたも今日当番でなければ早く帰りなさい。ね?」

「いえ、私は今晩宿直勤務で明日が非番なんです。ですから、帰るわけにはいかないです。あ、そうだ、せっかくお電話頂いたので改めてお礼を言わせて下さい。気配りして頂いて本当にありがとうございます。助かりました」

「何を言っているの?私の部下なのだから気を配るのは当たり前よ。中々目配せできていなくて歯がゆいけれど」

「いえ、そんなことはありませんよ。兵隊ロボットをすぐ手配して下さったのは本当に助かりました」

「礼を言われることじゃないわ」

そこで内線を切った。その上で振り向く。何か今、電話中に不穏な歓声が聞こえたからだ。

「今何かありましたか?」

いつの間にやら傍らにいた鈴木中尉に話しかける形になってしまっていた。

「ああ、聞こえていらっしゃったらお分かりでしょう?取りあえず『お掃除』一件成功です。これよりこれを利用してもう一件、いけそうです。皆喜びますよ、それは。あの新型ロボット、中々優秀ですね。幸先が良い」

その時彼は微笑みを浮かべ、こちらを見守るかの如く言葉を連ねる。

「大隊長自身も早めに勤務を切り上げてお帰りになっては?長期間病休を取得されていたと聞いています。無理は禁物ですよ?」

「それは確かにそうなのですが・・・」

鈴木の笑顔は到底職業軍人のそれでは無かった。軍服を着用していなかったら、週末には家族のためにミニバンの運転手を務めている、そんな30代半ばの平凡なサラリーマンにしか見えなかっただろう。だから、鈴木の「お掃除」に関する発言が、

「今度の日曜日、うちの子がサッカーの大会に出るんです」

といった、たわいない世間話のような軽さだったことにショックを受けると同時に、検非違使庁に属する者にとってそれは当たり前の事なのだろうと納得した。

「早くお帰りになって下さい。率先垂範ですよ。だらだらと超過勤務をせずにさっさと帰る。それが新しい時代の働き方でしょう?そう思いませんか?」

そう言って笑った様は、そこいらのタレントなんぞに全く負けていない、そんな魅力が有った。彼の妻はおそらくこの笑顔にやられたのではないか。そんな妄想が一瞬脳内を駆け巡った。

「それはそうなのですが、何だか後ろ髪をひかれるような気がします」

その時の俺はよほどの困り顔をしていたのだろう。

「心配する必要はありませんよ。『お掃除』については全て我々にお任せ下さい。少し肩の力を抜いて気楽に考えましょう。動き始めたばかりでまだまだ先は長いですよ。常に全力を出していたら身が持たない。それはご自身が良くご存じでしょう?」

 無言を貫くつもりなど全く無かったが、言葉がすぐには出せなかった。どうするべきだろう?そのとおり任せれば良いのだろうが、どうにも気になる。さっきの発言を分析してみると、確保した生贄を使って更なる生贄を確保しようとしているようだ。邪悪な召喚の儀式。脳裏を妄想がよぎる。

「あのう、大隊長にお電話ですよ。技術班の竹原技術中尉からです」

 横槍を入れられるのは嫌いなのだが、今回は歓迎だ。状況が変わるなら何でもいいや。

「竹原です。どうもお疲れ様です。こっちにおいでると、そういうことで電話させてもらいました。マルヨンの定期点検についてですが、少しでも早うした方がええでしょう?それでもう今から定期点検始めさせてもらいます。マルヨンには通告済みです。連休明けには定期点検終われるように頑張りますけえ、よろしくお願いします」

「ああ、いえ、こちらこそよろしくお願いします。連休中に急いで済ませて欲しいという厚かましいお願いに応えて下さって、有難うございます。他の技官の方たちにもくれぐれもよろしくお伝え下さい。失礼致します」

お辞儀をしていることに気付いた。日本人なのだな、俺。

「技官のお話、何でした」

鈴木はまたにこやかに笑って質問してくる。

「ええ、木曾川准尉、マルヨンとも呼ばれていますが、定期点検を今から始めるという連絡でした」

「そうですか。マルヨンというと、あの大きい方ですね、旧型の?」

「ええ、そうです」

「旧型のために手間暇かけるのも考え物だと思いますけどねえ。どう思われますか?」

答える前に又しても横槍が入る。

「小隊長。マルロクから入電です」

兵が受話器を手に持ち鈴木を呼んでいる。

「分かった」

鈴木はそちらに行く前に、

「『お掃除』の結果は後程報告しますから、心配しないで連休を満喫なさって下さい」

と本当ににこやかな顔を向けてきた。反社の輩と言え、間違いなく殺しについての報告だろうに。

「大隊長。電話ですよ。司令部のロボット共からです」

何事だろうか?声をかけてきた兵から奪い取るように受話器を握ると、

「大隊長。私達どうすればいいですか?准尉殿は、大隊長にどうしたら良いか聞けって言い残して、研究所の方に行ってしまったのですけど、どうしましょう?」

梅の声だった。

「分かったわ。直ぐそっちに戻る」

受話器を戻すと、皆二神を中心に忙しくあれやこれやをしているようだ。確かに後で報告をしてもらえば良いだろう。そっとそこを離れる。

 戻ってみると、桜達以下4人とも手持ち無沙汰だった。

「あ、大隊長。ボク達どうすれば良いの?」

桜は懇願するような目でこちらに駆け寄って来た。他の3人もだ。

「私に聞けとしか言われていないの?」

「はい、大隊長殿。准尉殿は自分達にはそのように命令して、研究所へ向かわれました」

椿の返答は梅の言ったことと同じ。もう仕事を切り上げて帰って欲しいと言う事か?

「犬ちゃん達には、山本少尉の言う事を聞けって命令していました」

梅はそう報告する。

「それはどういう事?いつまでそうしろって言っていたの?」

「ええっと、暫くって言っていました。多分、定期点検が終わるまでだと思います」

「多分か・・・。ちょっと爪が甘いわね」

自分の事を棚に上げてそんなことを言ってしまった。皆笑うが、こっちはそれどころじゃない。犬萩と犬樫は、山本少尉に取りあえず任せるか。でも明日非番だと言っていたから、代わりに命令するものを手配してもらわないと。それで第3中隊に電話して山本と協議し、犬萩と犬樫に直接協議内容に基づいて命令している内に、又時間が経過している。時計を見たら、20時が近い。もう帰ろうか?山本との協議でどっと疲れた。巴め。曖昧にするから余計な手間がかかるじゃないか!そう思ったのだが、研究所が直ぐ来いと命令しているだろうから、それが精一杯だったのかもしれない。調整するような時間が無かったと言う事か。そうなったのは、俺が連休中に定期点検を終わらせて欲しいと言ったからだ。結局自分に帰趨している。何だかなあ。もう帰ろう。山本には帰ることは伝えたから、第1・第2中隊に電話した。それが終わると桃が、

「もう帰りますか?」

と聞いてきたので頷いたら、大隊長室へとダッシュする。そうかと思うと、

「自分がハンドバッグを持って来て差し上げます!」

椿がそう宣言し、先頭を切って大隊長室の扉を開けて中に入る。

「あ、椿ちゃんずるい!」

「そうだよ!抜け駆け禁止!」

「何を言ってんの、梅、桃。そんな事決めてないでしょ?」

「ダメ!ボクが持ってゆくの!」

誰がハンドバッグを渡すかを巡って室内でドタバタ劇を繰り広げている。

「止めなさい」

大きな声をだした覚えはさらさらない。だが全員ビクッとしてその場に静止し、尻尾が逆立った。

「ごめんなさい・・・」

全員こちらを向いて謝って来た。皆うなだれている。

「こんなことで揉め事を起こさないで頂戴。ハンドバッグは自分で持つわ」

椿が持っていたハンドバッグをおずおずと差し出してきたので、なるべく乱暴にならないようにそっと受け取った。そして別に怒っているわけじゃないと感じさせるために、囁くように尋ねた。

「どうしてこういう事をするの?競争する必要ないでしょう?」

全員しゅんとした。

「それは私達が少佐殿のことが大好きで、喜んでもらいたくてたまらないからです。自分のことを気に入って頂きたいからです。申し訳ありませんでした」

桃は俺の方を向き反省の弁を述べた。

「じゃあ、それを早く言いなさい」

俺は呆れたのでそう声色を変えずに言ったのだが、

「は、はい!」

全員が畏まって直立不動の姿勢を取ったので、

「そんなにしなくても良いわよ」

と言ったが、

「はい!」

と返事が返って来た。何だか最後の最後でどっと疲れた。

「じゃあ、帰るわよ」

 桜達4人がぞろぞろと俺の後を着いてくる。何だかカルガモの親子のようだ。

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