竹原技術中尉はお茶を所望する
研究所に電話を入れてから、決裁承認を黙々と続けながら待つこと暫し、竹原技術中尉が現れた。長身痩躯。鋭い目付きと角ばった顔つきが印象的だ。
「技術中尉の竹原です。昨日は時間がのうて満足にお話しもできんで、すんません。今日は兵どもの整備計画とマルヨンの定期点検についての打ち合わせいうことで、よろしゅうお願いします」
敬礼ではなく会釈をしてきた。古田との合意事項なのだから当然だが、何か普通の話ができると言うか軍隊式の組織に身を置いていることを、一瞬でも忘れることができるのは僥倖だと思う。
「そう言えば頻繁に整備が必要でしたね。打ち合わせと言う事でしたが、研究所の方である程度原案は固まっているのですか?」
「ええ。決めさしてもろうとるけえ、細かなところを調整に来たっちゅうことです。ちょっとシステムを開いて頂いて、第一中隊のフォルダの中の『兵員型整備計画』ちゅうところ、開いて見てつかあさい」
ちょっとだけ訛っている。広島出身だろうか?フォルダを開いてみると、ずらりと全てのGR05の整備予定日・期間が記入されていた。
「こんな感じですわ。現場ちゅうかマルロクにはこれが原案で、自分でも何か問題点なり不都合が有るか無いか考えときんさい。そう言うてあります」
「そうですか。申し訳ありませんが、これが妥当と言いますか、修正が必要かどうかが分かりません。どういった点について協議が必要なのかが、正直に申し上げて分からないのです」
竹原はハハハっと豪快に笑った。
「古田さんもそこまでは説明しとらんのですね。確かにそこまで把握して頂く必要は無い。わしもそう思います。じゃけえ、基本的にわしらの整備計画に基づいて点検整備をさせてもらいます。ただ、そうは言うても協議が必要なことも出てくると。そこはなるべく事前にすり合わせがしたいわけです。作戦行動中に何ぞ技術的な不都合が生じることは当然あるでしょう?」
頷く。
「顔が一緒の者がおるんじゃけえ、何か問題があったら入れ替えたらええ訳です。そうは言うても、作戦の都合上どうしても整備を急いでやらんといかん場面も出てくるわけで。あ、ここからは少し話が長くなりますけえ、座らしてもろうてかまんですかのう?」
「ええ、どうぞ」
竹原は応接セットの椅子に腰掛け、
「お茶、ありませんかのう?」
などと言ってくるので、椅子から転げ落ちそうになった。内線電話で誰かお茶を持ってくるようにと伝えると、何故か巴が
「失礼しまっせ」
と不機嫌そうな顔をして現れた。
「はい、お茶」
とだけ言ってお茶を置いて立ち去ろうとする。
「おい、マルヨン。お茶菓子は?」
竹原はニヤニヤと笑いながら巴に催促している。
「自分でコンビニでも行って買うて来はったらええでしょ!」
と、こちらを振り返りながら言う。ご機嫌斜めな態度を崩そうとはしない。
「冗談や。冗談。ちょっと定期点検早うしたって、それがどうした?何をすねとるんや?」
「別に」
巴はそのまま大隊長室を出ていった。
「定期点検ですか?」
俺は思わず、竹原におうむ返しに聞いていた。
「ええ、そうですわ。マルヨンの定期点検ですが、ちょっと時間がかかります。順調にいって約5日。通常は1週間かかります。それでこの連休中に前倒しで一気呵成にやっつけてしまおうと、こういうわけですわ。それなりに頼りにしているらしい。古田さんからはそう聞いとります」
「わざわざ気を使って頂いて申し訳ありません」
立ち上がり礼をすると、竹原は驚いたのか座る様促す。
「いやいや、頼りにしとるもんを暫く取り上げる形になるわけじゃけえ、話は通しておかないかんでしょ?」
「そういう心遣いが本当に有難いです。それだけ時間がかかるなら明日からでも点検に入って頂いて、連休明けに完了として頂けると助かります」
本心故かつるりと言葉が滑り落ちるように出てくる。巴のことを、俺はそれだけ頼りにしているということかなあ。
それから竹原は兵たちの整備計画を始め、様々なことを話していったが、俺には技術的なことはさっぱりだ。古田の説明より細かな専門的なことの話をされても、それは理解を超えた話だ。頷くしか無かった。




