福留中尉はドスの効いた喋り方をする
【エピソードタイトル、効いた→利いた】16時を過ぎると眠くて仕方が無くなってきた。船を漕ぎ始めるようになり、時々立ち上がったり手足を動かしたりして何とかしのぎながら、決裁承認作業を続けた。既決の決議書を持って行かせるために大隊長室の扉を開けると、必ず西村が飛んでくる。
「いや~少佐殿、凄い数の決議書ですね~。間違えずに持って行くためには、きちんと整理しないと駄目ですよね~」
などと微笑みながら言う。
「あ、いや、そんなつもりは無いんですよ?きちんと整理されていないのがいけないなんてこと、全く無いんですよ。本当ですってば。信じて下さいよ~僕が責任をもって順番に届けて参りますので、どうぞご安心を」
身振り手振りに百面相。何だろう?別段不愉快なわけではないが、もやもやしたものが心に残る。丸山がサボりと決めつけていたのは理由がきちんと有るのだな、そう感じさせられた。しかし、西村にでもさせるしか無い。1時間ほど前に巴がやって来て、残り4人にも第3中隊の手伝いをさせると言い出したからだ。
「少なくとも今日ぐらいはさせた方がええと思うんですよ。今日ぐらいは。ウチやったらあいつらを遠隔で操作できますよって。3中隊に送り込んで手伝いさせましょ、今日ぐらいは!」
やたらと圧を掛けてくるのは、お昼の時の意趣返しだろうか?巴は不満を抱いていることを全身で表現し、意思の宿った瞳でこちらを見てくる。
「じゃあそうしてくれる」
と任せることにしたら、今度は頬を膨らませて無言で踵を返してしまった。何と言うか、女の子は難しい。
西村に、
「じゃあ、持って行って頂戴」
と言うと、
「了解であります!」
ひときわ良い笑顔でびしっと敬礼して俺から決議書の山を受け取ると、嬉々として去って行った。
そして俺はのろのろと座席へ戻る。決議書の山はだいぶ片付いてきたが、まだまだある上に続々と新しいものが持ち込まれる。頭がズキズキと痛み始めた。ぼうっとして意識が飛びそうになる。そんな時に電話というものは、静寂を破るのだ。又しても飛び上がるほど驚いたが、何とか受話器を取ることはできた。
「あ、すいません、福留ですけど」
「はい、何でしょう?」
第1中隊の福留中尉。ラグビーでもやっていたのかと思われる巨漢で、壇上で辞令を渡したときに睨んできた坊主頭の奴だ。
「あのですね、午前中の分の電子決裁お願いできませんか?」
ゆっくりとした喋り方だが、それ故かドスが利いている。
「電子決裁?」
「ええ。あれ、聞いておられない?」
単純に事実関係を確認しようとしているだけだ。福留からしたら、そう。だが責められている気がするのは、何故だろうか?
「そ、そうですね、初耳です・・・。あのう、どんなものなんでしょうか?」
そんな話聞いてない・・・。だから間抜けな声が出てしまう。醜態を晒したくはないが、どうしてこうなるのか?
「いえ、大した話じゃないんですよ。第2中隊とですね、委託業者さんで収集した情報をですね、スパコンがどういう風に振り分けたか?その数字が合っているかどうか確認して、『承認』のキーを押して頂くだけですよ。正午頃と定時終了後にデータが出ますから、出来るだけ早く承認して頂きたい。ですので、電話致しました」
「分かりました。すぐ対応します。申し訳ありません」
「では、よろしくお願いします」
電話が切れてほっとすると同時に、失敗ばかりだった前世?のことを思い出して、見悶えしてしまう。忘れたいことは忘れられない。何ともまあ、不便な脳みそをしていることか。だが、そんなことを嘆いている場合じゃない。俺が動かないと、部下も動けない。さっさと片付けないと。 でもやり方が分からない。結局マニュアルを探すのに手間取り、やっつけるのに20分ぐらいはかかっただろうか?何てこった!多分今日の失敗も、ある日突然記憶が蘇って来て身悶えすることになるのだろうな。何ともやるせない。




