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鎌倉静は華麗なる制服姿を披露し、人の話を聞かない

大隊長の仕事。二神に言われるまでもなく俺の仕事だ。しかし、改めて考えてみるとそれは何だろう。大隊長室を埋め尽くさんばかりの勢いで積み重なっている決議書の山。俺の決裁承認を待っているそれらを見るのは、正直に言って辛い。それにこれの処理に忙殺されて、それ以外が何もできていない。部下何ぞいなかったから、どこをどう見て指示を飛ばして動かしていくかなど、さっぱり分からない。だからそこは開き直って、各中隊長に任せよう。大隊司令部は巴と岡田に任せておけば良いや。

 目の前の決議書の山をひとつひとつを丁寧に見ていったら、到底時間が足りない。かと言って片っ端から押印するわけにはいかない。だから、重要度の高そうなものはきちんと目を通して、それ以外は流すことにする。しかし、重要そうなものばかりだ。情報工作計画書。非公然協力者確保計画書。物品管理換報告書。第3連隊第6大隊第5中隊との折衝に関する報告書。現金等取扱者決定決議書。これらどう見ても重要な書類の合間を縫って、座席・分掌決定だの備品倉庫からの持ち出しに関する規則だの、そんな報告いちいちここまで持ってくるなというものまで多彩だ。

 そうこうしているうちに、二神が提出を命じた、超勤簿まで持ち込まれてきた。これは押印すれば済むことだ。おっと、これは勤怠管理システムへの入力が必要だった。承認の入力を繰り返している内に、嫌な事を思い出した。岩田の有給休暇取得届出。まだ承認していなかった。いいや、あんな奴の届出など後回しだ。そんな俺の気持ちが伝わってしまったのか、システムを閉じて決議書にせっせっと目を通し押印していると、不意に机上の電話が鳴り響く。椅子から転げ落ちるかと思うくらいの衝撃があった。

「はい、大隊長室」

「まだ有給承認してないじゃないか!早くしろよ!」

ガチャッ。電話は唐突に切れた。しばらく茫然としてしまった。それが収まると猛烈な怒りが湧いてきた。思わず受話器を本体に向けて叩きつけてしまった。怒り。理不尽な事ばかり、貧乏くじを引かされることばかり。それが俺の人生のような気がする。周りのせいにしたいわけじゃない。でも俺なりに頑張ってきたはずだぞ?それなのに何故?そんなことが想起させられる。嫌な男だ、俺は。実に嫌な奴だ。そんな奴からは卒業だ。今は女性になっているんだ、少なくとも外見は。俺には巴が居る。こんな俺を上官と仰ぎ見る部下達が居る。落ち着け、落ち着け。気持ちを切り替えろ。ツー・ツーと音の漏れる受話器を元に戻し、立ち上がって大きく背伸びをしてから、手足を開いたりブラブラさせたりした。ちょうど良かったのかも知れない。久しぶりの書類仕事で肩の凝る思いだった。却って良い気分転換になったかも。手のひらを組み、前方に突き出しているとそういう心持ちになった。

 そしてそんな気分をぶち壊す者が現れた。

「じゃ~ん。どうですか?可愛いでしょう?」

扉を勢いよく開けて静が入室してきた。どこの高校のものか分からないが、セーラー服を着用し意気揚々と一回転した後、スカートの裾を摘まみ上げお辞儀をしてきた。

「あれ、どうしたんですか少佐殿。感想を下さいよ~。まあ可愛い以外の感想なんて、存在しないと思いますけど!」

などと言って、ウインクしてきた。ポージングも完璧だ。アイドルの研究でもしているのだろうか?髪型もポニーテールに変えていて、ソバージュ?っぽいのも研究の成果に違いない。

「そうね。凄く可愛らしいわよ」

席に着き両肘を机について手を組んだ。碇ゲンドウの如く。

「それで?どこで調達してきたの、それ?」

「そうでしょう?兵どもからも絶賛されましたよ。可愛い、可愛いって。いや~、あそこまで賞賛されると却って不安になりますよ」

両手を腰に当てどや顔をする。いい加減イラッときた。可愛いことは事実だから余計に。

「どこで手に入れたの?質問に答えて」

「大阪中の女学生の憧れの的の大阪高女の制服ですよ?この制服とそれを纏う私の可愛らしさ!もう天下無敵ですよ!標的のやろ・・・男性たちも私に夢中になりますよ!」

ウインクしながらこちらに向かってダブルピースしてきた。人工知能でも可愛いと言われると調子に乗るということがあるのか?それともそういう性格に設定されていて、そうなるように計算して行動させているのだろうか?

「質問に対する答えになっていないわよ?」

「あ、少佐殿は、あんまり女学生の制服事情詳しくないんですね?確かにそんなものかもしれませんけど、大阪出身ですよね、確か?」

きょとんとした顔になった。おお、これは!この六塚冬実という女性は大阪出身!これは有益な情報だ。大阪出身だが、大阪帝国大学(多分だが)の出身ではないということか。

「うん。そんなことより質問に対する答えは?」

「そうか。制服が可愛いっていうのが学校選びの基準じゃなかったんですね?」

「当然じゃない。いい加減質問に答えなさい」

「え~そんなことが気になります?ちゃんと決議書回してますよ?福留中尉と二神大尉の決裁印有りましたよね?」

両手を腰の後ろで組み、小首を傾げてようやく質問に答えた。ああ、そういえば有ったな。さっき押印して決裁箱の既決の方に放り込んだはずだ。

「そうね。新品じゃなくて古着として流通しているものを割安な価格で購入するって、確かそうなっていて概算要求しているけれど、どうやったの?」

「そりゃあ安く手に入れるに越したことはないでしょう?フリマサイトで手に入れたんですよ~。私ってやりくり上手でしょう?褒めて下さい!」

などと調子に乗ったことをいけしゃあしゃあと述べて、両手の手のひらを胸元に向けて賞賛を要求する。巴がここに居たら、どの時点で口喧嘩になっていただろう?

「それで手に入れた後で予算要求してきたと。よくもまあそんなことができるわね。順番が逆でしょう?」

「ええ~いいじゃないですか~、これも作戦をスムーズに進めるための事前準備ですよ~。私、拠点として確保したメイドカフェでアルバイトしている女学生って設定で活動しますので、よろしく!」

どや顔でサムズアップしてきた。なので、大きくため息をつく。全くこの狸娘は。

「そんなことより鎌倉。あなた、制服その他一式用意するのが面倒だから女学生じゃなくて、メイドカフェの店員にするって言ってなかった?なのになあに、自分だけ可愛い制服を着用するつもりなの?」

「えっ⁉私そんなこと言いましたっけ?」

思いっきり動揺した声になった。分かりやすいな・・・。

「あ、あのう、兵どもにはですね、メイド服って可愛らしい制服着せるわけですよ。それでいいじゃないですか~。大体、尻尾と猫耳が付いているわけですから、それで女学校の制服着せるのは無理が有りますよ?」

「それもそうか」

俺って素直なのかな?

「でしょ、でしょ?どっちの制服も可愛いからいいじゃないですか。細かいことにこだわらなくても」

にっこりと微笑む。その笑顔を見ている内に、もしかすると俺が男だと知っているのかと不安になった。おっさん相手だとこんな笑顔で誑かしてくるだろう、そりゃ。

「あ、後、素晴らしい企画を持ち込む予定ですので、決裁よろしく!」

ウインクしながら敬礼してくる。アイドル気取りだな。全く。

「なあに、その企画って。作戦計画にないことを勝手に決めないの。まだ目標設定シート提出できる段階じゃないでしょう?」

「え”っ⁉」

素っ頓狂な声が響いた。

「え、ええ、ああ、そうですね・・・。そのう、目標設定シートって本省で評価するやつですか?ひょっとして?」

「詳しいことは聞いていないけれど、常識的に考えてそうなるでしょうね。あなたの評価試験のために結成された部隊だから。最初に自分が言っていたことじゃない」

「あはは、そうでしたね。うっかりしてました~」

などと笑って誤魔化していたが、何を企んでいるのやら。

「ところで、どうしてここで油を売っているの?さっき、二神大尉が、あなたが手筈を整えているって報告に来たけれど、どうなっているの?」

「嫌だなあ、順調だからちょっと私の華麗なる制服姿を披露しに来た。それだけの事ですよ。フフフ」

口に手を当て、ニヤニヤしながら踵を返し、そのままこの部屋から去っていくのかと思いきや、扉の前でもう一度カーテシ―をしてから出て行った。




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