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非公然協力者管理番号登録簿

決裁印を押印していると、突然大隊長室の内線電話が鳴り響き、ビクっとした。本当に電話という奴は心臓に良くない。慌てて室内に入り受話器を取る。

「はい、大隊長室」

「あ、どうもすいません。川本です。至急決裁承認頂きたい決議書が有りまして」

「ええ、分かりました。どういったものですか?」

「非公然協力者の金銭出納関係のものなんです」

「非公然協力者?」

「そうなんですよ。申し訳ない。既に情報提供が有りまして、それに対しての謝金の支払いも急がないといけないものですから。お忙しい所、本当すいません」

電話の向こうで受話器を握り締めたまま頭を下げている様子が目に浮かぶ。

「分かりました。誰かに書類を取りに行かせます」

「あ、いえ、僕の方からそちらへ伺います。補足説明した方が良いでしょうし」

電話を切ってから3分もしないうちに、川本は決議書の束を持ってやって来た。

「さっき申し上げた通り『非公然協力者』がいましてですね、そっちに対して管理番号を払い出す必要が有りまして、その決議書に至急決裁承認を頂きたいんです。それとそういう連中の宣誓供述書にも、決裁承認をお願い致します。この2つを決裁承認して頂かないと、話が前に向いて進まないんです。すいません、無理を言いまして」

川本は2度頭を下げた。

「いえ、それは全く構いませんが、これ、どういったものでしょうか?『非公然協力者』というものは?」

「それはですね、今までの『伝統的な協力者』と『今風の協力者』を合わせてそう呼ぶんです。我々に対して色々な事をですね、みっこ・・・『報告』してくれる『協力者』何ですよ。非定期的に何かあったら報告してくるわけです。寄越してくる情報が玉石混交ですけど、いつ何が役に立つか分かりませんからねえ。仇や疎かにはできませんから」

あ、密告と言いかけたな。そうやって情報を入手するわけだ。

「協力者といっても2通りあるのですね?」」

「そうです。伝統的な協力者というのはですね、僕みたいな、普通のおっさん・おばちゃんなんです。どこそこでこんなトラブルが発生しそうとか、そういうことを報告してきます。何かが起こる前に把握することは重要ですからね。犯罪行為が起こってしまってからでは、遅いですので。今風の協力者というのは、インターネット上にこんな怪しからん書き込みがあったと。そういう情報を報告してくる連中です。こっちは若者が多いです。引きこもりですとかね」

今風の方はおよそ想像の範囲内だけれど、その辺のおじさん(例えば川本のような)が伝統的な協力者というのは、少し驚いた。まあ、そういうものなのかもしれない。

「それから宣誓供述調書というのはですね、きちんと正確な情報を報告するということですね。我々に対して嘘の報告をしないと。それを宣誓の上、身元を明かす調書です。それによって管理番号が払い出しされて、報告の見返りに『お礼』を支払うと。そういうことでして」

お礼とは上手いことをいうものだ。恐れ入る。

「どうして管理番号が必要なのですか?」

「ええ、それはですね、非公然協力者として管理番号が払い出しされていないと、金銭出納事務官は決議書を差し戻さないとならないと、会計管理規則で定められていますので、お礼である謝金を支払ってはいけないのですよ。管理番号は大隊の場合は大隊長が、専用のナンバリングマシンを使って払い出すことになっていまして、ここの金庫に入っているはずです。それで管理番号を払い出して頂いたら、『非公然協力者管理番号登録簿』がイントラネット上の大隊司令部のフォルダにありますから、そちらに記入して頂くよう、お願い致します」

「金銭出納事務官」というのは、この大隊では大隊長である俺の事だろう。

「なるほど、分かりました。至急ナンバリングマシンを探して処理します」

そうは言ってみたが。「ナンバリングマシン」って何だよと思わざるを得なかった。仰々しい大型機械が脳裏に浮かんだが、金庫の中に入る大きさなのだからそんなものであるはずがない。そうだ、確か「シャーペン」も「メカニカルペンシル」だったはずだ。

「それでですね、ナンバリングマシンの数字は初期設定になっているはずですから、そのまま決議書にガチャンとやって下さい。よろしくお願い致します」

川本は深々とお辞儀した。

「分かりました。決裁が終わりましたら、誰かに決議書を持って行かせます」

何だガシャンとやったら、書類に数字が刻印されるやつか。何てことはないな。川本が去って行った後、決議書の束に目を通す。密告をしたい、それで金が欲しいって奴がこんなに居るのかよ。二桁は確実に居る。20人前後かな?ぺらりと決議書をめくる。

【私は、私自身の完全なる自由な意志に基づき以下の通り宣誓致します。私は今後上記に記された当局への情報提供を秘密裏に行います。これは、私自身が知っている情報を提供するという行動が、お国と国民の安寧に資するものであると私自身が確信するからです。私は情報提供を行う際には、虚偽の事実を申し立てず正確な情報提供を行い、当局の職務遂行に当たって、その円滑な実施に協力いたします。つきましては、私自身の個人情報を別添のとおり提供致します。このことにより私自身の本人確認を確実なものとすると同時に、謝金の振込口座についての情報も合わせて提供するものです。以上関係法令の規定にのっとり、よろしくお取り計らい下さい】か。

 この印刷された文言の下に署名・押印欄がある。さて、全員が内容を理解して署名・押印したのだろうか?老若男女の宣誓供述調書。写真も付いている。何だかげんなりする書類だ。


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