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帝国放送協会は企む

しかし、考える前に現状の確認だ。

「山本少尉。結局どういう形になっているの?現状について報告して頂戴」

山本に話を振ると、山本は、

「あ、はい。大隊長殿!」

びしっと敬礼してきた。答礼を返しつつ答えを促す。

「放送協会からは20名の拠出を求められました。民間放送には8名で、合計28名です。皆さんベテラン揃いです」

3人とも絶句せざるを得なかった。ほぼ1個小隊分の人数が抜けるというのは信じがたい。俺は渡辺の無責任さに腹が立って仕方が無かった。こんな重大な事を上官に報告しない。その上、多分士官学校を出たばかりの新米将校に押し付けてしまう、その神経が信じられない。

「それは本当⁉」

だからか自分でも驚くほどの声が出た。

「はい、そうであります」

山本は答えるが、少し怯えているようにも見える。

「あ、別にあなたを責めているわけじゃあ、ないのよ?現状に驚いているだけだからね?」

 山本の表情は少し崩れた。ほっとしたのだろうか?それとも単なる浮ついた言葉に聞こえたのか?いずれにせよ落ち着けるようにしなければ。

 それにしても違和感が拭えない。何故「放送協会」などという単語が、当然のように使われているのか?その点を問い質すと、

「はい、第3中隊は情報工作が任務ですので、『隠れ蓑』である『帝国放送協会』及び民間放送に籍を置いている者が存在しています。今般、これらの者をテレビを利用した大規模な情報工作に動員する必要があると、放送協会側が判断したと、そう言う事のようであります。つまり、当面の間『表の顔』のみで活動せよと。少なくとも自分はそこまでしか知らされておりません」

 二神と川本は唸った。何という事か!二人ともそう思っているのだろう。

「渡辺さんは何でこんなことを仕出かしたんかのう・・・。なんぼ上から言われたけんいうてもなあ・・・。もうちょっとやり方というもんがあろうに」

二神は首を捻る。

「ねえ、ジロさん。もう少しやり方というものがねえ・・・」

川本は苦笑する。笑わずにはいられないのかも知れない。課題を残された側からすると、ある意味当たり前だ。

「山本少尉。あなた以外はこのことを知らないの?残された者の内、最上位の者があなただとは考えにくいのだけれど?その辺は?」

山本より先に二神が口を挟んできた。

「28人ですぞ、28人。山本さん以外の将校は全員放送協会へ行ったんじゃろうて。のう?」

山本は言いづらそうな表情で頷く。

「そのう、ベテランの下士官も少なくなっていまして、今回昇進した下士官兵が多いのです。何と言うかとても不安なんです。私が実質隊長のようなものですから。実際、お手並み拝見しますなんて言ってくる人もいまして・・・」

最後の方は消え入りそうな声だった。うわあ。川本は悲鳴ともつかぬ声を上げる。

「大隊長。司令部から何人か引き抜けませんか?現状そうするしかないと、僕は思います」

縋るような目で見てきた。それは俺も同意見だが、その前に確認する事があった。

「そもそも、『情報工作』とは何ですか?有ったことを無かった事にすることですか?事実関係を曖昧にさせることですか?」

さて、誰が答えるか?3人を見まわす。答えたのは山本だった。

「大隊長の仰ったことの両方であります。一般に『報道機関』とされるものに対して影響力を行使し、伝えるべきことを選別することである、と士官学校では教わりました」

「成程ね」

俺は頷く。成程、伝わらなければそこに事実は存在しないわけだ。テレビ・ラジオ・新聞・雑誌。そこを押さえていれば、不利な情報は隠れていて見つけられない。逆に伝えたいことだけ、有利な事のみを「報道」すれば良い。

「補足しておくとですな」

二神が話し始めた。

「今日日はスマートフォンが普及しておるでしょう?あれで『お掃除』の現場を撮影されて、インターネット上にアップロードなんぞされるわけにはいかんのですよ。ほじゃけん、それをされてしもうたら、その場で圧をかけるのはもちろんじゃが、そういうことをする奴に対する制裁も兼ねてですな、わやくちゃにするんです。そいつの過去のSNSの履歴を漁って、信用が出来んようなことをあげつらう、とかですな。要するに援護射撃も含めての事なんです。まあ、今日日は娯楽が多様化しとりますけんね。次から次へと刺激がスマートフォンからやって来る時代ですけん、どんな話題でも3日と持たんですよ。それ以上語られることでもですな、事実関係をちょろっとづつ変えて流せばええんです。伝言ゲームにしてしもうたら、それである程度終いですが」

話し終ると、両手を広げた。

「山本少尉。そうすると、インターネット上における様々なものも検閲対象ということで良いのかな?」

山本は、我が意を得たりという感じの目の輝きを持って、俺の言ったことを肯定する。

「検閲ですか!はい!士官学校では、情報工作を検閲に例えていた教官がいました。自分はそのとおりだと思います。特に今日は、インターネットにおける言論操作が重要課題です。ただ、テレビが娯楽の王様だった時代は終わりを告げようとしているが、依然多大な影響力を持っているから、そちらで仮面をかぶって活動することを想定することも、教わりました」

「そうか、だからこんなことになっているのね・・・」

急に空気が重くなった。だから俺は、二神に話を向ける。多分期待した答えが返ってくるはず。

「二神大尉。木曾川には、GR04には1個小隊のGR05を指揮する能力があるのでしょう?」

二神は頷いた。

「仰る通り。できますよ」

そう答えてから一呼吸置いて、

「あ!分かった!兵隊ロボットを、あのお嬢ちゃん達を使う気ですか?」

質問してきたので、そうだと答えてやった。

「できないということはないでしょう?木曾川に指揮させれば、万事解決なのでは?どの程度なのかは推し量れてはいませんが、それ相応の高度な人工知能を搭載していることは間違いないと、断言できますよ」

「勿論そうですよ。ただ、あのお嬢ちゃん達で大丈夫ですかのう。上官の言う事をよう聞くようにはなっておりますが、それ故指揮権の問題があるけん、ちょっと不安ですな」

「指揮権?」

わざと聞いてみた。おそらく巴と、第3中隊の誰かの命令のどちらに従うか?それが心配なのだろう。

「誰の命令に従うか?そういう事です。第3中隊の誰ぞが、木曾川とは違う命令を下した場合どうなるかですな。そんなやり方ではいかん、こういう風にせい。などと言われた場合どうなるか?そこに一抹の不安が有りまして」

二神は言い終わった後、川本の方を見る。

「いや、ジロさん。GR04、木曾川ですか?そっちの方が階級上になりません?それなら、わが社の下士官兵である以上命令には従いますよ。ロボットだからって上官の命令に従わないと言うことはないでしょう。ねえ、山本さん。下士官兵だから、曹長以下の者しか残っていないわけでしょ?」

川本は山本に質問して、微笑した。

「そうです。確かそうだったはずです。ですから、私も心細くて」

山本の不安を取り除くように、川本は微笑みながら話した。

「取りあえず大隊長の提案通りやってみましょうよ。その上で何か問題があるなら再検討しましょう。それで良いんじゃないですか?もし何かあったらすぐ大隊長に報告してもらうってことで」

最年長の川本がそう言うので、決まりだった。

「ええ、そうしましょう。山本少尉。あなたの方でできるだけ気を付けて頂戴。現状難しいでしょうけれど、下士官兵をきっちり動かせるように」

「頑張ってみます」

山本の顔は、緊張で化粧が崩れるのではないかと思うくらい強張っていた。




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