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さて、どれから手を付けようか?唸っていると突然机上の電話が鳴り響く。電話と言う奴には本当に慣れない。憎しみすら感じる。

「はい、大隊長室」

「あ、大隊長ですか。第3中隊長の渡辺です。すみませんが、こちらへちょっとご足労頂けませんか?」

「はあ、それは何故?」

思わず口を突いて出た。

「大隊全体で共有して頂きたいことが出来まして。対面でお話した方がよろしいかと」

「そうですか、対面で・・・。電話では駄目ですか?」

笑い声が聞こえた。

「集まって頂ければ一度でお話は済みますので」

何のことか見当もつかないし釈然としなかったが、電話はそれで切れてしまったので足を運ばざるを得ない。大隊長室を出て岡田に説明すると、ひときわ不機嫌な表情で、

「分かりました」

と言う。言質を取れたので安心して行ける。楽しいお話しを聞けるという訳ではなさそうだが。第3中隊長室の前まで来てみると、二神・川本の姿も有った。

「これ、どういった話があるのですか?聞いていらっしゃいませんか?」

二神の答えは、

「いや、わしは何も聞いておりません」

で、

「僕もです」

川本も同様だった。3人でどうしたことかと話し合っていると、グレーのパンツスーツを着た若い女が、軍服姿の女子高生ぐらいの年齢の少女を伴って現れた。

「第3中隊長の渡辺です。お忙しい所ご足労頂きましてありがとうございます」

そう言ってこちらにお辞儀をしてきた。渡辺はこれから就活セミナーにでも出席するのかと思われるぐらい若く見えるが、実年齢はおそらく5歳ぐらい加算したものだろう。傍らにいる緊張でガチガチになった、色白で唇の赤い女子高生(流石にはっきりと化粧をしているのが分かった)を指し示して、

「第3中隊司令部付きの山本少尉です」

と紹介してきた。

「お話は中でしましょう」

渡辺は全員を中隊長室へと招き入れ、話を始めた

「実は今般予定されている番組編成に伴い、急遽相当数の者を放送協会に回さなければならなくなりました。民間放送にも若干名を割く必要もあると、協会側からはそう指示を受けています。これにより、私の中隊の情報工作活動に割ける人員には、経験の浅い者が中心にならざるを得なくなりました。こちらの山本をまとめ役にしていかざるを得ないかと存じます」

そこで山本は頭を下げてきた。

「前置きはこのぐらいにしておいてですね、お話の内容はですね、要するにこちらを手伝って頂きたいと言う事です。お三方でですね、協議して頂いて、こちらに人手を回して欲しいのです。各司令部から何人か交代でも結構ですので、人手を寄越して欲しいのです」

渡辺はそう述べて頭を下げてきた。それに対して二神と川本は唸っている。

「うわ、それはまた急な話ですねえ・・・。僕のところも人手が余っているわけじゃないですよ。委託事業者に動いてもらうなんて、絶対無理ですしねえ」

川本は首を左右に振る。

「わしのところは早速『お掃除』を始めるけん、人手を確保できんですな。弱ったねえ」

二神は右目をつむったまま首を右に傾け、右手で何度か後頭部を掻いた。

「話が見えてこない・・・」

あっ、いけねえ。つい口を突いてきやがった。しょうがない。言うしかないか?俺はそろそろと手を挙げる。

「あ、あのう、そもそも論で恐縮ですが」

二神と川本は何事ならんとこちらに注目している。

「我々はそのう、具体的にどんな位置付けの機関なのですか?」

二人は顔を見合わせ笑った。渡辺は特に関心は無いらしく、こいつは何を言っているんだという、冷たい視線を浴びせてきただけだった。二神は、

「笑ろうてしもて、すいません。わしらはですな、『お掃除』を執り行うところですが」

と言い、川本はそれを否定する。

「いや、ジロさん。何を言っているんですか?僕らは情報機関ですよ。そうでしょ?」

「え、わしらは情報機関なんかね?」

二神はそう質問するが、渡辺はそれを無視しておっさん2人の見解を否定する。

「いえ、我々は諜報機関です」

ええっと、おっさん達は頭に疑問符を浮かべる。そして山本はそれらすべてを否定する。

「え、皆さん何を仰っておられるんですか?我々は軍隊式の秘密警察でしょう?士官学校ではそう教わりました」

同じ組織をバラバラに解釈しているのは、それはそれで面白い。

「何だか分かったような気がします。要は我々は『鵺』なのですね?皆さんそれぞれ答えが違うのは、鵺だからそういう事になると。私としてはそう解釈します」

「鵺」

二神は呟いた。

「ええ。頭が猿。胴体が狸。手足は虎で、尾は蛇だとか」

俺の答えに、二神・川本が感心する傍ら、渡辺は密かに嘲笑する。

「教養豊かでいらっしゃるんですね」

俺としては平静に努めていたが、やはりカチンときていることが顔に出ていたのだろう。渡辺に先手を取られ、勝ち逃げを許してしまった。

「あ、私、局の方で収録がありますので、この辺で失礼させてもらいます。申し訳ありませんが、後はこちらの山本と話してください」

ごく自然に腕時計を見て、そのまま室内から出て行った。

「収録?」

俺の独り言に川本が反応する。

「彼女、放送協会のアナウンサーでして」

「え、そうなんですか?」

「そうなんですよ。だから、彼女も情報機関ととらえていると思っていたですけどねえ」

川本は首を捻る。

「ほうよねえ、よう考えたら渡辺さん、『情報操作機関』に勤めとって、こっちは『裏の顔』なんよねえ」

二神のその声に川本は突っ込みを入れる。

「何を言っているんですか、ジロさん。放送協会は『情報操作』なんかしてませんよ。『編集』しているだけですよ」

「編集!そういうことになるんかね!何かやられたのう!」

2人は互いに肘を小突き合い、顔を見合わせ笑った。

「そうですか。彼女、アナウンサーだったのですか。知りませんでした」

「ほう、あまりテレビを見んのですか、ほうですか」

二神は感心したような声を上げる。

「ええ、テレビは持っていませんから、存じませんでした」

3人とも驚く。

「忙しかったものですから・・・、見る暇が無い以上持っていても仕方が無いので売り払いました」

納得してくれただろうか?実際の所は、見るだけの気力というか、気持ちが湧かないのだ。世の中のことに向き合いたくないというか、全ての事に関わりたくないというか・・・。ようやくそんな状態から抜け出せただけでも御の字だ。あんな状態には二度と戻りたくない。まずは、この状況の打開だ。俺は霞が掛かったようなぼんやりとした頭を何とか稼働させる。




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