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首根っこを掴む

 その週は松田の子分、お相伴に預かっていたお気に入りのプロデューサーだのディレクターや俳優であるとかおまけにお笑い芸人と称する遊び人連中の首根っこを掴むのに費やされた。表沙汰にできない弱みを利用するのは我々の基本的な業務だ。これから顎で使ってやる。楽しみだ。

 そいつらに首輪をつけるより重要なのは、広告代理店とスポンサー企業の連中だ。鼻の下を伸ばして女たちに群がっていたことの罰として今後我々のために、それはお国のためにということだが、本当の小銭で働いてもらうことになる。今週中に500円玉1枚を報酬としてくれてやるからこういう仕事をしろ。それは彼らにとって屈辱以外の何物でも無いだろうが、そんなことは知ったことでは無い。ざまあみろ。 

 それは、人間とは感情の生き物なのだなと実感させるものだ。俺は感情的に奴らを見ている。大した俸給を受け取れない小役人として過ごした13年間。そこへたどり着くまでの5年間。それを思い返すと奴らに同情する気持ちなど全くない。上を見ればきりがないが、そういう奴らの所業を黙って指を咥えて見ているだけの側からすると、一方的に命令を下せて良心の呵責を覚える必要のない部下ができたのは、本当にめでたいことだと心の底から思える。

 だから早速顎で使ってやることにした。社内にスパイ野郎がいないか今月中に報告せよ。大隊司令部の者を使って命令を下したら、スポンサー企業の連中は素直に命令に従って報告すると約束したが、テレビ局と広告代理店の奴らはすこぶる反抗的だと言う。なので、何かと反抗的な岡田に投げることにした。

「仕事を増やさないで頂けますか。何故私がこんなことをする必要があるんですか?工作活動は第1中隊の仕事でしょう?」

「イライラをぶつける相手としてちょうど良い。私がそう判断したからです。部下に当たるのではいけませんからね」

次の行動は予測できたけれど非常に驚いた。

「ふざけるなよ!何を嫌味ったらしいことを抜かしやがる!」

岡田は渡しておいたリストを机に向かって投げつけ、思いきり机をバンバンと叩く。俺は一呼吸おいて気持ちを落ち着けてから、立ち上がって言い返してやった。出しうる限りの声で指を差して。

「お前こそふざけるなっ!上官を何と心得る!それでも貴様は軍人か!」

流石に岡田はひるんだようだ。

「受け取れ」

リストを手渡す。

「もう一度言うぞ。イライラをぶつける相手としてちょうどいいだろう?今みたいな大きな声をぶつけろ。最初が肝心だからな。貴様の流儀なら舐められないから任せることにしたんだ。文句が有るのか?」

岡田の方に歩み寄りながらなるべく声量を抑えて言い渡してやったら、それなりの効果はあったらしい。少し俯いている。

「さっさと席に戻って仕事をしろ。上手くいったらそれなりに評価してやる。これ以上反抗的な態度を示すようなら、私が上官であることを思い知らせてやるぞ」

抑揚をつけない喋り方に効果があったのか、岡田は渋々座席へと戻って行った。


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