表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
108/222

俺は電話が嫌い

 俺の決裁承認を求める決議書が目の前に有るという事は部下がきちんと仕事をしている証だ。それは嬉しいことなのだが、お掃除関連のことと一緒に公用車の車検についての一般競争入札などと言うものが挟まってくると拍子抜けする。

「今になって分かった事じゃないよねこれって」

「申し訳ありません」

丸山少尉相当官は俯く。俺としては語気を荒くしたつもりは毛頭ないが、叱れている側としてはそうではない。ある意味当然のことだ。

「来年車検だと勘違いしていた・・・よくあるミスね」

「本当に申し訳ありません。決裁頂けたらすぐに対応しますので」

丸山は更に頭を下げて来る。

「うん。私もこれについてはすぐに決裁するけれど、大丈夫なの?一般競争入札でしょう?公告はすぐにするとして車検切れに間に合うかな?う~ん・・・、でも一台だけなら支障はないか」

最近特にお掃除に使うために公用車は出払っていることが多い。パソコンでシステムを起動すると「管理簿関係」の中に「公用車使用管理簿」があって、紙に記録した後こちらに転記することになっている。だから机上で使用状況が確認できるので、出払っていることが多いとはいえ駐車場に止まったままの公用車が毎日1台はあることが分かる。しかしそうは言っても対象の公用車は箱バンで、使用されていることの方が多い。お掃除の対象者を運ぶためだ。さっさと事務的なことを終わらさなければ「本業」に差し障りが出る。

 ふと見ると丸山は右手の上腕部に左手を当てしきりにこすっている。不安を鎮めるための儀式のようなものだろうか。だから手早く決議書を読んで決裁承認しよう。特に問題が有る様には見受けられないし。

「はい。決裁承認。すぐにでも公告して入札の準備をしなさい」

「はい。了解しました」

 そんな決議書もあれば当然「本業」に関するものも山盛りだ。それらの結果として報告書も当然比例するから、目を通すだけでも一苦労で目が痛い。眼鏡を外して目頭を押さえる。この六塚冬実の肉体は30代になったばかりだから、それほど衰えてはいないはずだがやはり集中して目を使うと疲れる。目を閉じて手のひらを組んで両手を上げる。そのまま体を左右に動かす。心地いいわけでは無いが少し気が紛れて良い感じだ。ようやく日常を取り戻せた。今日は木曜日。週末はどうしようか。久しぶりにミナミへ出かけてみるか。

 そんな時に限って事件は起きる。一通り書類を片付けてシステムにアクセス。本省から何らかの指示が出ていないかある意味戦々恐々としながら閲覧する。俺の部隊に関するものは・・・、有った。有るのかよ。げんなりしながらそれを読む。有難いことに他の部隊から情報提供がなされるそうだ。それを基に近日中に作戦行動を開始し結果を報告せよ。スパイ野郎の検挙目標を達成せよ。そりゃあスパイ若しくはそれに該当するような行為をしている奴もいるだろう。しかし目標人数が設定されているというのはどうなんだ?足りなきゃ数字合わせに誰か適当な奴を引っ張ってこいと言うつもりか?多分そうだろうな。最も俺の方でもそれで良いと思う。穀潰しというか社会的に存在すべきでない奴。そんな輩が管轄区域内にはゴロゴロいる。片っ端からスパイ野郎と認定することにして、「お掃除」しよう。

 さてそれはそうと、いつ情報は提供されるのか?明日の午後にデータを送信するそうだ。さてどの部署にこの件を対応させようか?最終的に第1中隊が対象者を処すことになるが、その前に情報分析をせねば。どこも手が空いている訳じゃない。だが誰かにさせねばならないなら、第2中隊にさせるべきだろう。それで第2中隊の司令部あてに内線電話をかけたら、電話に出たのは田中中尉だった。

「今日は川本大尉は非番でして・・・」

相変わらず消え入るような声。定例会議で顔を合わせると必ずこういう態度だ。よくこんな組織で生き残って来れたものだ。

「そうですか。ではあなたに伝達します。明日の午後うちのサーバーに大量のデータが送信されるそうです。それを基にスパイ狩りをせよというのが、本省からの指示です。情報分析を行わないとどうにもなりませんから、第2中隊内で処理に当たっての調整をお願いします。詳しいことはシステムに掲示されていますから、内容を確認して下さい。以上です」

それで受話器を置こうとしたら意外な反応が返って来た。田中が猛然と噛みついてきたのだ。

「ちょっと!あなたねえ、隊長!そんなこと言われても困るよ!現場の実情をわきまえていないでしょっ!そんなの突っ返して下さい!」

がちゃり。こちらの方が茫然とさせられてしまった。だから電話は嫌いなのだ。





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ