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鎌倉静は舞台女優⁉

 少し落ち着くまでそれなりに時間を要したのだろうか?大隊長室の扉を締め切ったせいか誰も入ってこなかったのは幸いだった。そのはずだった。しかしそれは甘かったのだ。

「ヤッフー!イエーイ!ママ元気?」

扉を勢いよく開け静が乱入してきた。こちらに笑顔とダブルピースを見せながら。一瞥をくれてやった後、無視して報告書に目を落とすと激しく抗議してきた。

「あ~何ですか、もう!こっちを見て下さいよ!愛娘の呼びかけを無視するなんて!ママなんか嫌い!」

そう言うや扉の方に駆け出すふりをした後、こちらを伺っている。目が合ったのだ。しかし丁寧に無視する。

「ママ・・・どうして無視するの?私、悲しいわ・・・」

さてどうしたものか?このまま無視し続けると、小芝居を止めないだろう。致し方あるまい。

「誰がママですって?」

決裁印を押印してから頭を上げると、

「良かった~私、ママにシカトされている訳じゃなかったのね・・・」

手の平を組み、祈りを捧げるかのようにうるんだ瞳で見つめて来る。最高の笑顔で。うっかり絆されそうになった。

「これで安心してお友達をおうちに連れてこられるわ・・・、感激!」

そんなこと俺がいなくてもしているだろ!思わずそう言いかけたが口をつぐむことにした。やっぱり反応したら次に何を言い出すやら知れたものじゃない。果たして静はゆっくりとこちらに近づいてくる。

「ねえママ。私にお友達が増えるのって、嬉しいよね?」

顔を上げて見てみたらこちらをにっこりと微笑んで見ている。

「・・・何を企んでいるの?」

あっ、しまった。思わず質問してしまった。これでしばらくは絡まれるぞ。

「ママ酷い!企むだなんて!ああっ!ママの無理解に苦しめられる可愛そうな私!」

またも二神直伝であろう身振り手振りを交えた一人芝居が眼前で繰り広げられた。それにしても全く一人芝居だ。そして何故腹が立つのか?別役もこんな形で立腹していたのだろうか?

「どうして新企画を持って来た私を邪険に扱うの?」

うわ・・・またとんでもない話を持ち込んできたな?無視、無視。

「ちょっと吉岡小隊と連携した作戦計画を立案したら、この仕打ち!ああっ!何という事でしょう!ママに理解されずに嘆き悲しまなければならない、可愛そうな私!」

くるりと一回転して立膝をつき右手を高く掲げる。その前振りとしてポニーテールを揺らしながら両手を広げたり目を覆ったり。実に忙しいことだ。このまま放置すると際限なく小芝居が続くだろう。面倒なので最小限の相手はしてやろうか。

「いい加減悲劇のヒロイン面止めない?」

大きく目を見開き、大口を開ける。

「ええっ⁉私ってば完璧な悲劇のヒロインでしょ?ママにこんなに邪険に扱われるなんて!私に対する愛情が無いんだわっ!だから大勢の陽キャの男の子達と遊び惚けることになるのよっ!何て可愛そうな私っ!悲劇のヒロイン以外の何物でもないわっ!」

まるで歌舞伎役者のようにこちらに見栄を切る。

「新しい設定?」

「そうなんです、そうなんですよ!新設定でろくでなしのヤクザ紛いの奴らを釣って、右から左へ処分するつもりなんですよ。それでですね、状況に応じてママ役をしてもらえたらなあって」

「状況に応じて・・・」

「うんっ!そうなのよ、ママ!」

にっこりと笑う。本当に顔は良いなあ、この娘。女を使って男を釣るのを目的として製作されているから、当然ではあるけれど。

「またメイド服を着ろと?」

「うんっ!」

だから良い笑顔を向けるんじゃあないっ!

「メイドカフェの仕事って疲れるでしょう?」

「大丈夫だよ。我々の物にしたお店だから。従業員は皆事情を知っている者ばかりよ。大丈夫だよ」

「そういう問題じゃないわよ」

「ええ~そんなことないよ、大丈夫だよ。前回だって好評だったじゃん」

「何故そこまで私をメイドにしたがるの?」

「チョロ・・・メイド姿が似合っているからに決まっているじゃない」

少し間を開ける。じっと静の顔を見つめていると、不意に目を反らす。やはり俺がチョロいと思っているのだ。間違いない。

「怪しいわね。凄く怪しい」

静の目は泳ぐ。

「アヤシクナイヨ」

顔を反らして棒読み。間違いなくろくでもない企みだ。

「まあ一応聞いてあげようか。どうせ妙な企みでしょうけど」

「うふふ、やったあ。ママ大好き」

勢いよく机の方に駆け寄り俺の首に腕を絡めてきた。キスでもしてくるかと思ったがそれは無し。だが心臓の鼓動が速くなるのを感じる。

「能書きは良いから」

声が上ずった。見透かされているかな?

「吉岡隊には鈴木小隊への対抗意識が有るみたいなんですね。だからそこをくすぐってみたんです。吉岡隊についてる養成職員は陽キャが多いんでこれを活用してですね、やろ・・・怪しい男性たちの懐へ飛び込んで獲物を引っ張ってくる。その上で自分探しの長い旅に出てもらう。そういう作戦を立案しましてですね、絶大なる支持を集めました。感無量です。やっぱり私ってやればできる子なんですよ」

俺から離れて後ずさりしながら手の平を自分の方に向け、自画自賛する。良く言うよ。

「えっ⁉褒めて下さらないんですか?そんな、酷いっ!」

又一人芝居が始まりそうなので牽制する。

「まだ具体的なことは何も話して無いでしょう?違う?内容がとても抽象的で、私がメイドカフェで働く意味が見えない。はい、却下。やり直し」

そう言い渡してやると、両の手の平で口を覆い目を剥く。

「そんな・・・まだほんのおさわりだと言うのに・・・もう判決を出すなんて・・・酷いわっ、酷過ぎるよママ。そんなに連れ子の私が憎いの?」

又しても見栄を切る。しかし今度は連れ子という設定にする気なのか。

「私は3つの姿を使い分けるの!ある時は大女優を目指す駆け出しの舞台女優!ある時は売れっ子のメイドさん!そして又ある時は家庭に居場所がなくて夜な夜な遊び惚ける女学生!その正体は!検非違使庁が実証実験中の新型軍人ロボット!」

ポーズを決めながら口上を述べる。それが様になっているから舞台女優という設定もあながち悪くない。

「ふふふ。どうですか?これぞ三位一体というやつですよ」

ゆっくりと髪をかき上げウインクしてくる。陶酔した表情だ。自分に酔いしれている。

「派手にやるつもりなのね。決議書を提出しなさい。それで判断する」

その答えに満足したのだろう。くるりと一回転した後礼をして軽やかな足取りで大隊長室を出て行った。


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