自分の記録を見るのはご法度です
悶々として眠れなかったわけじゃない。しかし引っ掛かる。今まで目を背けてきたツケが回ってくるのかも知れない。家族関係。それはどうなっているのだろう?この六塚冬実なる女性について俺はあまり考えない様にしてきた。出身地が大阪であることすら静に指摘されるまで気づかなかったほどだ。流石にそろそろ調べておかないと不味いのかも。
それで住民記録端末というものを操作して調べてみることにした。大隊司令部の場合、岡田の席の隣に一台だけ置いてあるから使いにくいことこの上ない。それで使う事を避けていた。だが今日は岡田は非番だ。そんな月曜日は嬉しいものだ。
早速システムを起動し、端末を操作して自分の社会保障番号兼納税者番号を入力する。プーと警告音がして信じ難いメッセージが表示される。「処理権限がありません。処理を打ち切ります」。
氏名でも検索できるということが備え付けられているマニュアルに書いてあった。なので氏名を入力するが、こちらでやっても同じ音がして「処理権限がありません。処理を打ち切ります」というメッセージが出るだけ。あれ?俺が責任者のはずだぞ?その俺に権限が無いだって?首を捻っていると、周りが放っておかない。木村上等兵が寄ってくる。
「珍しいですね、大隊長が端末叩いてはるって。せやけど、操作間違えてんのちゃいます?警告音が鳴ってますやん。2回も」
「間違えているつもりは無いけれど・・・、ちゃんと社会保障番号兼納税者番号を入力したわよ?」
「え?そうですか?ほんなら一体何やろ?」
司令部の要員たちが集まって来た。まるで鳩首協議をしているようだ。そんな中、兵達をかき分けて寄って来た西岡少尉は俺に尋ねてきた。
「少佐相当官。ご自分の記録を見るために、ご自分の氏名を入力なさったでしょう?」
頷くと周囲も納得したようだ。
「理由の如何を問わず自分の記録を見るのも、自分の氏名を入力するのもご法度です」
西岡は淡々と言い渡してきた。西村などは、なあんだそういう事かなどと笑う。皆口々に感想を漏らしたながら自席へ戻る。
「そうなんですか・・・。でも、処理権限が無いので処理を打ち切りますと。そういうメッセージが・・・」
突然大隊長室の電話が鳴る。嫌な予感しかしない。周囲はざわめいている。俺は意を決して電話に出た。




