浴衣を引っ掛け夜の帳へ走り出す
標的があっさりとこちらの「接待」の罠に嵌るというのは予想済みだったが、こうも簡単に事が運ぶことに不安を感じる。色仕掛けでスパイに成り下がっている奴が、かなりいるんじゃないか?そう思えて仕方が無い。その内そんな迂闊な奴らを粛正するお役目が回ってくるのかも知れない。そんな不気味な予感がして、頭の中が一杯になり始めた。そんな時だ。携帯電話が鳴る。
「接待相手が酔い潰れました。後はそちらがされるのですよね?」
「ええ。お疲れさまでした」
ホテルへ移動し、手早く報酬の入った封筒を渡す。
「約束のお金より1万円多く入れてあります。確認して下さい」
売春婦たちは皆礼を言って帰って行った。
巴と犬萩・犬樫はその間にバーの中で酔いつぶれている舛添を確保した。後は死体役の犬萩と一緒にホテルの部屋に放置するだけだ。その間の待ち時間がどのぐらいか?それが読めないので一旦ホテルを出て近くのカフェで待機することにした。その間の暇つぶし用に買った文庫本を読むことにする。巴と犬樫とのおしゃべりもしながら。犬萩からの連絡が来たのは予想より少し早かった。
「犬萩より通信。目標は自分が死んでいるのを見たら逃げました、だそうです」
「確か裸にひん剥いたのよね?」
「はあ。状況を確認します」
さてどんな醜態を晒したのやら。
「大慌てで浴衣を着て逃げたみたいですねえ。どうするつもりなのやら」
「浴衣を引っ掛けて自宅へ帰る以外ないでしょう?チェックアウト出来る訳ないからね」
「お代は先に払ってありますのやろ?後は『死体』に引き上げて来いって言うだけですね」
犬萩と合流したらもうここには用が無い。ホテル側にとっては迷惑極まりない客だったわけだが、代金は支払っているのだから勘弁してもらおう。ごめんなさい。
一仕事終えたら夜も更けてきたが、大阪の街とを繋ぐ需要は旺盛と言う事だろう。まだ夜行列車に乗ることは出来た。都合の良いことにここ新宿が始発だ。切符を買い一等寝台へ乗る。大阪へ初めて向かった時の事を思い出す。今夜は良く眠れますように。




