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罠を仕掛ける

 しかし第1中隊自体の数字は良好で、特段の問題点などは無い。吉岡隊がどうであれ数字は達成されているので、やたら目の敵にするわけにもいかない。とても良いことのはずだが何だか複雑な思いだ。あんな適当でちゃらんぽらんな、少なくともそう見える連中がノルマをきっちりこなしている。その事実が俺を苛立たせる。良いことのはずなのに。

 どうやってきっちりとした小隊にすべきか?それを考えることには中々集中できない。他にやらねばならないことは山ほど有るのだ。それらに時間を取られてどうしようもない。火曜日も水曜日もそんな感じだった。

 だが木曜日になってから、ぽっかりと空いたような錯覚を覚える時間があった。それでこれ幸いと第1中隊司令部へ向かう事に。幸い中隊長の二神は在席中だった。

「二神さん、ちょっとよろしいですか?」

と聞いてみたら大層驚いたらしく目を剥いていた。

「珍しいですな昼間に少佐相当官がお見えになるのは」

と椅子に座ることを勧めて来る二神に、吉岡小隊の現状と改善案について話すと、

「なるほど。わしも気になっていないわけじゃないですが、当節の若者というものはあんなものかと。そう思うておりましてな。少々気合を入れてやった方がええかもしれんですな」

腕組みをして何度か頷く。

「とりあえずわしに任せて頂けんですかのう?こういう言い方は何じゃが、わしの部隊の話ですけん」

「ええ、お願いします。二神さんの頭越しにこういう話をするのはどうかと思いますから。それでお邪魔した訳で」

言い訳めいているがそこが心配なのは事実だ。へそを曲げられるとどうにもならない。

 帰路もう一つの懸念事項が頭をよぎる。舛添少将の篭絡だ。正式な命令ということで言質は取った。少なくともこの件に関しては宮崎教授と一蓮托生。そこまでは良い。しかし、誰がどうやって接近するか?そこで良い考えを思い付いた。相手は東京にいる。短期決戦。一気呵成に行わないとあらゆることに支障が出る。だから囮を使って懐に飛び込ませ誘い出そう。これなら本人が自分で判断して行動したのだから、何かが有ったら本人の責任だ。

 慎重に考えた結果、現地で売春婦を「調達」して接近させ、宴の場に誘い込むことにした。どうせ上の方で偉そうにしている奴は、現場の事など何も知らないだろう。目標を達成するためにどんな苦労をしているかなど。それが仕事なのだから当然だろ。彼らの言い分はそれだ。俺は決めつける。だから俺はためらわない。

 木曜日の定時終了直前に翌日の金曜日の有給休暇を取得した、それから夜行列車に飛び乗るまでに大急ぎで下準備の最終工程を済ませたので頭が痛い。ぼうっとする。朝の上野駅をそんな状態でふらふらと歩いていた。

「大丈夫なんですか?」

巴に聞かれた。

「大丈夫よ」

声が細かったせいか、巴にもう一度質問される。

「ほんまに大丈夫です?体調の事もですけど・・・」

「大丈夫、大丈夫。上手くいくわよ」

巴は、はあと力なく呟くように言った後、黙ってしまった。少し気まずい。待ち合わせ場所のカフェに入って注文をして相手を待っていると、5人の若い女が現れた。いずれも東京府のいわゆる「吉原」での営業許可を受けた売春婦。免許を申請するときに「社会保障番号兼納税者番号証」を提示しないといけないから、身元は確かだ。売買春管理統制委員会から目を付けられて登録抹消されたくないから、こちらの指示通りに動くだろう。

「良く来てくれましたね。前金は口座に振り込まれていましたか?」

全員頷く。女の人なんだと後ろで囁く声がした。なるほど今日は男物を着てネクタイを締め、ついでに髪を後ろで束ねているから長髪の男だと思ったのだろう。

「残りの報酬を早く受け取れるかは皆さん次第ですから、よろしくお願いしますね」

礼をすると、向こうも恐縮したのかおずおずと礼をしてきた。

 それからおそらく半日以上待つ必要があるが、そうする方が効率的だ。焦る必要は無い。獲物が罠に引っ掛かるのを待てば良い。だからその間東京観光としゃれこんでも何も問題なかった。有給休暇を取得しているのだから。しかしどこへも行く気がしない。せっかく上野にいるのだから動物園に行こうと熱心に誘われたが、断った。人込みにこれ以上酔うのは嫌だった。大阪も人が湧いて出てくるような錯覚を覚える街だが、東京はその比ではない。動物園の中はその人混みに加えて獣の臭いまで加算されるのだから、耐えられる気がしなかった。

 手勢として率いてきた犬萩と犬樫は西郷隆盛像を見たいと盛んに言うので、取りあえず見に行くとはしゃぎまわって何枚も写真を撮っている。自撮り棒まで駆使してだ。余裕があるとそんな光景も微笑ましく見ることができるのだと、初めて理解できたような気がする。

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