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僕が転生した理由

【僕が転生した理由】


 豊穣の女神テスモポロスはロレンツォを監視していた。

 ショタだったから。

 小さい頃から目をつけていたのだ。

 人間にしてはなかなかのルックスだと。


 ところが大事件だ。

 あろうことか、ロレンツォが毒殺されかかっている。


 いや、死んでしまった。

 女神テスモポロスは必死に考えた。

 ロレンツォの魂は自分ではどうすることもできない。


 そんなときに、昔面倒を見た人間が次元の狭間にいたことを思い出した。

 彼は人間の魂を研究していたのだ。

 どこかにさまよう魂はないか。


 彼に尋ねてみると、ちょうど次元の狭間に迷い込んで彷徨っている魂があった。

 それが前世日本の“僕”であった。


 女神は時空の狭間を漂っていた僕を無断でこの次元に連れてきた。

 そして、ロレンツォに僕の魂を放り込んだというわけだ。


 僕はどうやら前世で死んでしまったらしい。

 転生する順番を待つ間に、魂が通過する場所がある。

 それが時空の狭間だ。


 時空の狭間はいわば転生のための待合室である。

 普通はお行儀よく時空の狭間で待っているのだが、

 僕はふらふら空間を漂っていた。

 もともと集団に馴染めない魂であった。


 ただ、時空渡りするときに僕のステータスも強靭になったらしい。

 ロレンツォは天才だったが、僕の貢献度も高いようだ。



『ロレンツォの魂を救うことはできなかったのですか?』


『私は女神だけど、魂をどうこうすることはできないの。魂には厳重な管理がなされているのよ。でも、貴方のは本当に運良くというか運悪くというか次元の狭間で漂っていたのよね。普通はおとなしくしてるんだけど。つまり、魂の管理から解き放たれていたわけ。だから、こっそり連れてこれたのよ』


『こっそりって』


『まあ、いろいろあったけどね。魂をロレンツォに移し替えてからはちょくちょくロレンツォをチェックしてたんだけど、まさか聖女マリアがブランディーヌだとは気づかなかったわ』


 豊穣の女神テスモポロスは頻繁にロレンツォをチェックしていた。

 しかし、そばにくっついていた聖女マリア、つまり女神ブランディーヌには気づかなかった。


 そのくらい、マリアの封印が強力だったのだ。

 また天界からは地上は距離が遠すぎたこともある。


 大亀様がマリアに気付いたのは、マリアが大亀様の近くにいたからだ。



『で、ブランディーヌ』

『ぎくっ』


 マリア・ブランディーヌは女神テスモポロスが苦手であった。

 女神テスモポロスは普段は温厚だが、怒ると飢餓をもたらす。

 食べても食べても満腹にならないのだ。


『ぎくっ、じゃないわよ。天界、大変なことになってるんだから』

『掃除なんて、みんながやるもんでしょ。私だけに押し付けて』


『あのね、掃除ならみんなやってるでしょ。あなたのは掃除じゃなくて、天界の空気を清浄にすること。それに、あなた普段から掃除サボってたでしょ』

『ちゃんと掃除してましたー』


『何言ってるのよ。貴方の部屋、そのままにしてあるから。汚部屋だけど。ロレンツォ、見せてあげるわ』

『なにゆーとんの。レディの部屋を男にみせるなんて』


『見せなくてもいいか。部屋のそばによるだけで臭いが凄いもんね』

『くさくなーい』


 汚部屋なるものが容易に想像できる。


『まあ、いいわ。ところでブランディーヌ』

『ぎくっ』


『大亀様に渡すっていうスィーツ。いっつも貴方が食べてるやつね。私にも持ってきなさい。そうすれば、貴方のこと黙っててあげるわ』

『じゃあ、マリアの分を女神テスモポロス様に持ってきましょうか?』


『ロレンツォ、なんてことをゆーの。私からスィーツを奪ったら死んでまう』

『いいわね。ブランディーヌの罰としても』


『いややー泣』


『あとね。そのブランディーヌがつけてるキラキラ光る宝石。私にも似合うと思わない?』

『わかりました。いくつか持って参上致します』



 スィーツと宝石に籠絡される女神テスモポロス。

 一応、女神的には他の神々には黙っていることになっていた。


 しかし、隠そうとしてもすぐばれる。

 いや、隠そうともしなかった。

 女神テスモポロスは宝石を身に着けて浮かれていたのだ。


 それを見逃す女神は一人としていない。


『女神テスモポロス。そのキレイな宝石、どうしたのじゃ?』

『それと、なんだか美味しそうなものを食べてる気配がするんだけど』

『私のアトリエにこもっていても、甘い香りが漂ってきたわ』


 結局、すべての女神がやってきた。

 10年に一度の女神アプロスもアトリエから出てきた。


 ロレンツォは大亀様と同様の約束を女神たちと取り交わすこととなった。

 つまり、週1でスィーツを10セットずつ献上することを。


 さらに、宝石もいくつか。



『ロレンツォ、私達は大変満足しておる。何か望みはあるか』

『特別ありませんが、できることなら私の前世日本と往復できないかと』


『ふむ。前世が恋しいか』

『恋しくない、と言ったら嘘になりますが、あれこれ私物をこちらに持ってきたいのです』


『残念ながら、私どもではその権限がない。じゃが、ちょっと時間をくれんか。方法を探してみる』

『誠にありがとうございます』



 まあ、丸く納まったようだ。


 マリアは逃亡の罪というわけではないが、週1で掃除が義務づけられた。

 自分の部屋の掃除を、である。


『いや、それは義務でもなんでもないんじゃ』

『ブランディーヌのだらしなさを甘くみてはいかん。罰則を設けておるからの。掃除を忘れたら、スィーツを取り上げるのじゃ』

『げろげろ』(マリア)


 ああ、それは彼女には一番よく効く。

 まあ、基本3才児だからな、マリアは。

 そういや、僕の領地では毎朝各自部屋の掃除をすることになってるし、

 マリアは殆ど部屋におらず、居間で寝てるか外をぶらぶらしてるのだった。

 だから、そこまで掃除嫌いとはわからなかった。


『ロレンツォが転生した人だったなんて驚きや』

『ずっと黙ってたからな』

『私も日本に行きたい』

『どうせスィーツが食べたいだけでしょ』

『私のスィーツ愛は不滅やわ』



【主な女神】


 ジュノー   月神 月・星の運行を司る 主神ゼロスの正妻

 ウェスタ   家庭の神 元ゼロスの愛人

 テスモポロス 農業・豊穣の神 元ゼロスの愛人

 アプロス   美・芸術の神 別名10年さん 元ゼロスの愛人 

 アルテミス  狩猟の神 元ゼロスの愛人

 ブランディーヌ清浄の神 (マリア)


ブックマーク、ポイント、感想、大変ありがとうございます。

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