ツァン帝国3
【ツァン帝国3】
『現状で指揮官は誰?』
当たりを見渡すツァン兵。
多くの指揮官が倒されたため、混乱している。
『多分、ソージンです。ただ、今は牢屋の中です』
ソージンというと、彼か。
ああ、魔法がかかったままだった。
『つれてきて』
ソージンは目を虚ろにしたまま、ロレンツォの前に立たされる。
マリアは魔法を解く。
『ああ、オレはなんということを……』
頭を抱えるソージン。
『あのね、僕たちと君たちとでは随分と戦力に差があるの、わかるでしょ。そもそも、君たち、やり方が古すぎる。戦法もそうだし、いきなり襲ってくるなんて、蛮族そのもの』
『蛮族だと?』
『いきなり襲ってくるのは、奇襲ってことで納得できるけど、僕らはただの旅人、民間人。それを理由もなく襲ってくる。蛮族じゃなければ、山賊?』
『蛮族でもないし、山賊でもない』
『この国は鎖国でもしているのかな?民間人をいきなり襲うその理由は?』
『……』
『逆にきくけど、ツァン族が僕らの国を訪れていきなり襲われた。君たちはどうする?』
『……』
『答えられないよね。君たちは僕たちの国を蛮族扱いして報復するに決まってるから。答えが出たよね、蛮族君。僕たちの文明がどれだけ進んでいるか、見せてあげよう』
ロレンツォはマジックバッグから次々と品物を取り出す。
『これがマジックバッグ。無制限に品物を入れられる』
『じゃあ、次。今出した製品。これ、エールなんだけど、飲んでみて』
といいつつ、缶の蓋を開けるロレンツォ。
缶の冷たさに驚き、蓋に驚き、そして飲んでみてあまりの美味しさに驚く。
『これがエール?冷えてる。この泡がきめが細かい。香りがフルーティ。濃厚でまろやかな味。信じられん。オレらの飲んでるエールはこれに比べると馬の小便だ』
『次はパン。これは庶民が普通に食べてるもの』
『白くてフワフワパン。貴族が食べるものを庶民が普通に食べてるだと?』
『嘘じゃないよ。さっきのエールもそう。疑うなら、隣の元神聖イスタニアンに行ってご覧よ。大きな街なら普通に売ってるから。安いよ』
『おまえらの最初の武器はなんだ?筒のようなもの』
『ああ、魔導銃ね。僕の領地では兵士が常備してる武器。ランベルト、頼む』
ランベルトは100mほど先に生えてる数本の木に向かって連続して何発か発射した。
音をたてて倒れていく木々。
『わかるよね、この銃の威力。狙って引き金を引くだけで、自動的に的にあたる。子供でも扱える武器だ。もっと威力を増やすこともできるから、小隊程度なら一発で爆散するよ』
衝撃を受ける兵士たち。魔法といい、食べ物といい、武器といい、彼我の差があまりにもおおきすぎる。
『わかったかい?君たちは非常に遅れていて、しかもマナーは蛮族なみ。よし、全員はムリだけど数人、街に連れて行こう』
ソージンに人を数人選ばせて、ロレンツォは転移魔法で領地に戻ってきた。
『今のはなんだ。オレたちはどこにいるのだ』
『転移魔法。ここは元ジョージャン王国のザップ。ちなみに僕は領主ね』
本日何度目かの衝撃を受ける兵士たち。
もう、何に対して衝撃を受けているのかもわかっていない。
兵士たちを食堂につれていき、適当に注文する。
『牛ハンバーグ、とんかつ、鶏の唐揚、アジフライ、こちらは卵のサンドイッチ。エールにウィスキー。飲めない人は苺のショートケーキにフルーツ・サイダーとかあるよ』
兵士たちの周りにいる領民はどうみても庶民だ。
彼らの食べているものは、今テーブルの前に並んでいるものと同じである。
食べ始める兵士たち。
あまりの美味しさに目をむき、うなりながらガツガツと胃に詰め込んでいく。
『慌てなくてもなくならないし、おかわりが欲しかったいってよね』
そして、食後のドリンクで一服する。
緊張がとけたのか、周囲を見渡す余裕ができてきた。
それで気づく、建物の斬新さ。
壁が綺麗。窓が大きな1枚ガラス。
照明は魔道具。
トイレに行けば、排泄物は分解してくれる。
手洗いは温水だ。
そういえば、室内は適度な温度に保たれている。
ほのかに花の香りが漂ってくる。
『……よくわかった。オレたちの置かれているポジション。お前たちがオレたちをどう眺めているかも。屈辱だが、これが現実だ』
ソージンは最近感じていた漠然とした不満が、はっきりと形を表していくのを感じ取った。
それは現状に甘んじることへの焦りであった。
十年1日がごとしの生活。
それがいやというわけではなかった。
厳しい鍛錬の毎日だ。甘えているわけではない。
しかし、このまま年を取り朽ち果てていくことに漠然とした不安があった。
オレはまだ老いさらばえていない。可能性が潰えたわけではない。
まだ見ぬ未来があるはずだ。
ソージンは心の底から沸き上がる渇望を感じていた。
他の兵士たちはどうだったであろうか。
ソージンと同じ感情を持つものもいた。
現実を受け止められず、ひたすら否定するものもいた。
それぞれである。
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