ツォン帝国1
【ツォン帝国1】
ツァン帝国はブロクシュ大陸の西側を占める大帝国だ。
ツァン族は遊牧民であり、定住しない。
ゲルというテントの大きいものを住処とし、草を求めて移動する。
彼らの生活の大半は馬上で過ごす。
場合によっては、睡眠も馬上で行う。
彼らはこの生活を千年以上繰り返してきた。
千年前のやり方を今日も行う。
そして、千年後も同じやり方で過ごすつもりであり、
それを誇りとしている。
彼らの武器は弓矢である。
馬を見事に駆りつつ、ヒットアンドアウェイで短弓を放ってくる。
身軽さが身上ゆえ、軽装である。
彼らにとっては魔法よりも弓矢である。
魔法は詠唱を唱える。無詠唱はめったにない。
魔法を唱えても、素早い彼らはその場にはいない。
また、動いているものを魔法で当てるのはかなりの繊細な操作が必要だ。
だから、彼らは魔法を馬鹿にしている。
そして、この戦闘スタイルで大陸の西半分を制覇した。
スタイルを変える必要がない。
彼らの戦いは非常に残忍で知られる。
しかし、それはお門違いというもの。
彼らのメンタルでは、
自分≧家族≧仲間≧家畜、奴隷>降伏した敵>>>敵対した敵
という順番があった。
基本的に、敵は人間とみなされない。
それどころか、家畜にも遠く及ばない。
ゴキブリを殺すときに残忍とか言われるであろうか。
虫けらを殺すがごとく、家畜を殺すよりも無感情で敵を殺すのである。
流石にこの考え方がおかしいことにソージンは薄々気づいていたが、
それでも長年の伝統になじんでしまっていた。
ソージンは自分たちのスタイルに概ね満足していた。
しかし、ほんの僅かであるが、どこか物足りなさを感じないわけではなかった。
それが何なのかは漠然としていてわからなかったが。
そんなある日。
いつものように、旅行者を襲いにいった襲撃部隊が半壊して戻ってきた。
『何が起きたのかわからんが、敵はおそろしく強いぞ。あっという間に5人がやられた』
『このへんで我々に楯突くやつがいるとは。で、敵は何人だ』
『見える範囲では2人だ』
『そんなバカな。そんなのにやられたのか』
『だからいったろ。筒のようなものをこちらに向けたと思ったら、連続して発光してあっというまに味方の額が撃ち抜かれていた』
『まさか、物の怪のたぐいではあるまいな。よし、一個小隊でかたきをとるぞ』
彼らは騎兵40名で一個小隊を編成する。
号令とともに、彼らは憎き敵めがけて馬を走らせた。
『なんや、さっきの奴ら。いきなり襲ってきたとおもったら、あっという間に退却していったで』
いつものようにフードにおさまっている猫マリア。
『ランベルト、あれがツァン族なのかな。多分、味方を呼びにいったんだろう』
『おそらくツァン族でしょう。彼らは弓主体の軽装騎兵部隊の運用に長けています。弓と馬だけでここまで版図を拡大してきました。彼らは残忍で強壮だといいます』
その割にあっという間にやられていたけど、モブチームだったのかな。
『彼らは魔法をバカにして弓しか使いません』
『なんで魔法を使わないの』
『通常、魔法は詠唱が必要です。これが致命的ですね。それから、魔法は動くものに対してコントロールが難しいです』
ああ、確かに。
普通の魔法使いって、味方の後方でためを作って魔法を発動するもんな。
ちょっと使い勝手が悪い。
『そんなこと言ってる間に、地平線の彼方に土煙。敵がもどってきたようですね』
『ざっと40ぐらいか。広域魔法でやっつけようか』
数百mまで近づいたときに、ロレンツォは魔法を発動した。
敵を一気に補足してそれぞれに風刃を飛ばす。
一瞬にして、40近くの騎馬兵が倒された。
指揮者とおぼしき騎馬兵を残して。
彼は暴れる馬から振り落とされ、呆然と座り込んでいた。
腰をしたたかに打ちうつけたのである。
『君は指揮官だね。名前は』
『ソージンという。お前らは鬼神か何かか』
『いや、ただの旅人だけど』
『ただの旅人があんなに強いわけあるか』
『あのさ、世の中広いんだよ。僕クラスの人間なんてたくさんいるよ』
衝撃を受けるソージン。
『嘘をつけ。そんなのみたことがない』
『東の方へ行ってご覧よ。神聖イスタニアンの向こう側。神聖イスタニアンはつぶれちゃったけどね』
『神聖イスタニアンが崩壊したという噂はほんとうなのか』
『うん。今はボネース帝国の一部。で、キミらは山賊か。ちょっと本拠地まで案内して』
『オレたちは山賊じゃない。ツァン帝国遊撃隊だ。それに本拠地に案内しろだと。アホか』
猫マリアは誘導・自白魔法をかける。
彼女はこういった魔法が非常に強力だ。
『……わかりました。こちらです……』
ソージンに案内されて遊撃隊のキャンプへ向かう。
『じゃあさ、降伏するよう、司令官か誰かに言ってきて』
『……はい、わかりました……』
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