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6話 シェアホテル〈ユルガンド〉とカレー屋〈コッタルベリー〉

 パティチャでのやり取りが終わり、お風呂に入っているとお父さんの声が聞こえた。


「おかえり!」


「おう!ただいま!」


 お風呂から上がって挨拶。


「おやすみ!」


 自分の部屋へ行く前に挨拶。


 そして階段を駆け上がる。

途中でなんとなく懐かしく思い、あれ?なんでだろう・・・と変な気持ちになった。


((今日は何かおかしいな。))


 少し不安に思いながら布団に入り、目を(つむ)る。


ーーーーー

ーーー


 護れ! 護れ! あずを。

 いや、もみかちゃんを! 護れ!!


((誰!?))


 どこからか声がした。

 そう感じた瞬間、視界が広がる。



 そこではお葬式が行われていた。


 観自在菩薩(かんじざいぼさつ) 行深般若波(ぎょうじんはんにゃは)羅蜜多時(らみったじ) 照見五(しょうけんごう)蘊皆空(んかいくう)・・・


((えぇ!?場違いなとこに来てしまった!!))


 焦って立ち上がろうとしたとき、中央に置かれた写真が目に入って驚く。


((あれは・・・!? もみじ!?))


 そこにはどこからどう見ても幼馴染みのもみかちゃんと思える写真が飾られていた。だが、周りにいる人は、誰も知らない。。。いや、知っている。なんとなく分かるように思った。


 そのとき、僕の袖が引っ張られていることに気づく。


「お兄ちゃん! 次、お兄ちゃんの番だよ」


「あ。あぁ・・・うん」


 おもむろに立ち上がり、お兄ちゃんと呼んだ少女と反対側に座っていた女性とともに写真に向かって歩き出す。


 (ひつぎ)が置かれた前まで歩き、横の女性をまねて礼をする。灰っぽいものをひとつまみして横の容器の中へ。

 目を(つむ)って手を合わせ、また礼をする。


「まだ、11才だったらしいね」


「これからってときに交通事故だなんて・・・」


 席へ戻るとき、周りの人の声がちらほら聞こえ、「あず・・・」


 席に戻ると僕は僕の意思に(はん)しておもむろに呟き、(ひざ)(かか)えて声を抑えて泣き出した。


 目から涙が(あふ)れ、景色が涙で覆われて(かす)んでいく―――同時に意識が遠のくのを感じた。


ーーー

ーーーーー


 朝日。布団の質感。お母さんが作る料理の音。

 それらの五感情報を感じて目を開ける。


 目が覚めたらしい。


 (ほほ)には一滴。

 何かが流れるのを感じて右手で(ぬぐ)う。


 涙だ。


((とても悲しい夢を見たなぁ))


 そんな気持ちとともに、〈11才〉。

 その言葉と(かざ)られていた写真が(みょう)に心にも記憶にも残った。


((さて、起きよっと。クエがんばろ!!))


 そう心に決めて階段を下り、出掛ける準備を始める。



 集合はシェアホテル〈ユルガンド〉の広間。

 クエストで使う道具をユルガンドで借りるためであり、学習場所としても良い場所だからよくここに集まる。


 ユルガンドで借りる道具はユルガンド所有のモノで、ユルガンドの住人、またはユルガンドの住人がいるパーティーは自由に無料(タダ)で使えるルールだ。


 優兄はユルガンドの住人なので、色んな道具をここで借りてクエストに出向くのが定番だ。


 ただ、魚捕りの電撃モリだけは自分で買っている。今のところ僕が買った唯一の道具であり、我ながら良い買い物をしたと思っている。



 シェアホテル〈ユルガンド〉に到着。

 見た目はでっかいホテルといった感じで何階建てかは知らない。


 いつも通りユルガンドの中に入ると、右側にそびえ立つロッククライミングが目に入る。10mはあるだろうか。3階まで続いている。


 正面にはフードコート。

 ラーメン屋、丼屋、寿司屋や焼肉屋。色んな料理店が並んでいる。


 左側には各種受付や温泉入口、ソファーと机、エレベーター乗り場がある。



 集合場所は二階のため、エレベーター乗り場へ向かった。


優兄(ゆうにー)。おはよ!」


「おう!武咲(むさき)。おはよー。」


 目的の広間に着くと、優兄はすでに居てパソコンを開いていた。

 僕も座ってパソコンを立ち上げ学習クエストを始める。


 学習クエストは科目によってまちまちだが、基本的にはゲーム感覚で進めることができ、それでいて実践的な内容になっている。

 たとえば、プログラミング学習だとブロック状のものを組み合わせて実現したい機能を実装するクエストから始まり、レベルが上がっていくと実際の製品が送られてきて、ファームウェアを書き換えたり、指定されたツールとコマンドを使いながらスマホアプリやPCソフトの一部を制作する。



 レベル5の試験ではまっさらな状態からファームウェアを作って動作させたり、スマホアプリやPCソフトをゼロから作ってリリースするらしい。それを先生に評価してもらい、レベルアップが認められるそうだ。


 それ以外にもプログラミングのレベルを5に上げる方法はいくつかあり、もっとも一般的な方法はIT系クエストや製造系クエスト、創作系クエストを受けてクリア実績を増やすことらしい。


「「おはよ」」


「おはよ」


 学習クエストに集中していると、もみかちゃんと美騎姉(みきねー)が挨拶をしながらやってきた。


 顔を見た瞬間、夢で見た光景と写真が頭をよぎり悲しい気持ちになったが、首を振って切り替え、優兄に続いて挨拶を返す。


 4人とも椅子に座ると優兄が「する? 自己紹介。」とみんなに聞いた。


「んー、そだね。しよっか!」


 もみかちゃんとまともに話すのは久しぶりだし、美騎姉(みきねー)とは話したことがない。


 でありがたい提案だと思ってそう答えると「そうね。」と美騎姉(みきねー)もいい、もみかちゃんも頷いてくれた。


「よし。では、俺から―――」


 優兄から順に年齢や冒険者ランク、主なスキルなどを話し、順番が回るごとに質問やツッコミが増え、自己紹介は大いに盛り上がった。


 自己紹介が終わると予定通り各自、学習クエストを行う。



「さて、お昼にしよっか!」


「「うん!」」


「そうね!」


 静かな場所ではないが集中していたらしい。あっという間に11時を過ぎたようで

 優兄が手を止めてそう言い、3人がほぼ同時に賛同して、片付けを始めた。


「荷物は持ってくぞ!」


「ん!」


「んで、こっちな!」


 ユルガンドには階段が無いようで、代わりに無数の登り棒が設置してある。


 優兄がニヤリと笑いながらそういった意味はエレベーターではなく登り棒で降りるよということなので、一番近くにある登り棒に向かった。


 各登り棒のそばには、布製のかごが置かれている。

 僕はそこに荷物を入れ、登り棒に荷物を引っ掛けてからその下に構えてチュルチュル降りる。


 普段から利用しているのだろう。慣れている3人は別の登り棒で僕より早く降りていた。


 降りてすぐに荷物を持ち、フードコートへ向って歩く。もみかちゃんと美騎姉は、何を食べるか楽しくおしゃべりしていた。優兄は僕の隣で歩いていると、不意に駆け足でどこかへ行ってしまった。どうしたのかと思ったら、同じくユルガンドに住む2歳年上の先輩 和兄(かずにー)と話していた。



 先に3人でフードコートへ到着。

 そこで解散し、思い思いの料理を注文しに行く。僕はカレーライスを食べるため、カレー屋〈コッタルベリー〉に並んだ。


 〈コッタルベリー〉のカレー屋はユルガンドに出店して結構長い。それなのにとても人気なカレー屋さんである。その理由は味が美味しいことはもちろんだが、毎日のように味が変わることにある。


 ()()し継ぎ足しで作っているようだが、ブレンドする香辛料も加える食材も不定期に変えているらしい。魚介系と肉系の2種類から選ぶスタイルだが、どちらも旨い。いつ食べても美味い。


 よく味が(くる)わないなぁーと感心するとともに、真似ができない唯一の店として不動の人気を博している。


 注文は欲張り盛りの辛さ普通、量普通にした。〈魚介系も肉系も食べたい!〉という要望に応えて、数年前に〈欲張り盛り〉というメニューができたらしい。


 お昼にしては少し早い時間だったことと、〈ご飯とルーを盛るだけ〉というシンプルな料理なため、すぐに受け取ることができた。


 辺りを見渡すと3人は別々のところで並んでいた。僕が一番早かったと分かり、4人席を見つけて座る。


 匂いを堪能(たんのう)していると美騎姉、優兄、もみかちゃんの順番でやって来た。


「待った?ごめんなさいぃぃ」


 と言いながら、やって来たもみかちゃんに「いよいよ」と、美騎姉が代表して応える。


「「いただきます!」」


 四人(そろ)ったところで、手を合わせて挨拶をしてから食べ始める。


 コッタルベリーのカレーライスはやっぱり上手い。葉物は全て粉末になっており、見た目ではわからないのだがスパイスと混ざって深い味わいを出している。


 そこに肉系カレーは豪快なぶつ切りの肉と細かく刻まれた軟骨入りの肉が合わさり、歯ごたえも楽しい。


 逆に、魚介系カレーは根菜だけが原型を留めるだけで全て溶け込んでいる。じっくり煮込まれていることが見た目でわかるほど角が取れた根菜は、噛むと同時にしっかり染みた味が優しい食感とともに口の中で広がり実に心地いい。

 総合的に考えると、今回は魚介系カレーの方が好みだったな。


 そんなことを思いながら食後のお茶を飲むのだった。

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